ヒストリー

ホンダVT250Fは「打倒2スト」を目指した250スーパースポーツだった【250の名車・ホンダVT系の歴史 前編】

1982年に登場したVT250Fから始まり、2017年に生産終了となったVTRに至るまで、俗に「ホンダVT系」と呼ばれる250cc水冷V型2気筒マシンの系譜がある。
近年では「壊れない」「乗りやすい」「バイク便御用達」など、扱いやすいという部分がクローズアップされがちなVT系だが、ルーツは高出力を追求した250ccスーパースポーツである。

80年代をリアルタイムにバイクとともに過ごしたライダーには常識かもしれないが、改めて元祖VT250Fが登場した背景や、当時における革新性について当記事では紹介していきたい。


70年代後半から再び活性化した250スポーツモデル

125cc超250cc以下の軽二輪クラスにおいて、大排気量モデルが稀有な存在だった60年代半ばまでは、国内メーカーによるフラッグシップ的なスポーツモデルが多く存在した。
ホンダCB72、ヤマハYDSシリーズ、スズキT20、カワサキ250A1などだが、いずれも当時のスーパースポーツであり、ホンダのみ4サイクルOHCツイン、ほかの3社は2サイクル並列ツインでしのぎを削っていた。

1960年登場のホンダ ドリームスーパースポーツCB72。エンジンは247cc空冷4サイクル並列2気筒OHC2バルブで、24馬力の最高出力を発揮した。

だが時代は進み、ホンダCB750Fourやカワサキ500SSといった大排気量モデルが続々登場して以降で状況は変わり、70年代に入ると400cc/350ccモデル群は中型車と位置付けられ、その下の250ccモデルは車検のなくランニングコストで優位なクラスという立ち位置となった。
特に70年代でよくある例が、同様のエンジン形式と車体で400cc(ないし350cc)と250ccモデルが用意されるもので、250ccは中型車のスケールダウン的な印象が強くなっていった。

1969年登場のホンダ ドリームCB750 FOUR。エンジンは736cc空冷4サイクル並列4気筒OHC2バルブで、67馬力の最高出力を発揮した。

2サイクルのスズキRG250、ヤマハRZ250の登場

ほぼ同じ車体と外装の250cc車が、400ccよりアンダーパワーなのは推して知るべしで、魅力あるものにはなりにくい。そんな不遇の時代を経て70年代後半になると、国産各社は徐々に250ccクラスのテコ入れを始めた。
250ccで2サイクルメインだったカワサキは、250専用設計の4サイクル車Z250FT(1979年)を発売。スズキは専用フレームに2サイクル並列ツインを搭載のRG250(1978年)を登場させるなど、再び250ccに本気のスポーツモデル復活の機運が芽生えてきたのである。

そして1980年、満を辞して登場したのが、レーサー技術のフィードバックをアピールした水冷パラレル(並列)ツインのヤマハRZ250。レーサーTZ250と同様の54mmスクエアのボア・ストローク、軽量な新設計の車体と当時クラス最高の35psの出力で瞬く間に人気を得て、250ccクラスのスポーツ車ブームが加熱していった。

1980年登場のヤマハRZ250。エンジンは247cc水冷2サイクル並列2気筒ピストンリードバルブで、リッターあたり100馬力を超える35馬力の最高出力を発揮。

「4ストで2ストに勝つ」を目指し開発された初代VT250F

1982年の『モーターサイクリスト』8月号のVT250F特集、サーキットテストの風景。テストライダーはケンツ代表の川島賢三郎氏。

一方、そんな状況を国内ナンバー1メーカーのホンダが静観しているわけはない。世界GP最高峰500ccクラスへ1979年に復帰した際の革新的レーサー、NR500を意識したモデルを開発(NR500は90度V型4気筒)。

大変な加工精度とコストを要する長円(だ円)ピストンはさすがに採用されなかったものの、当然エンジンは4サイクルで、クラス初の90度V型2気筒。
高回転高出力を追求しRZ250に比肩する35ps(発生回転数1万1000rpm)を確実に得るべく、冷却は水冷方式とされた。

1982年登場の初代VT250F。デザインは「小型ジェット戦闘機」をイメージしたもの。
1982年当時の新車価格は39万9000円で、年間販売計画台数は3万6000台だった。
水冷4サイクル90度V型2気筒DOHC4バルブのエンジンは、11.0という高圧縮比もあって、1万1000回転で最高出力35馬力を発揮。

かくして新規のメカニズムが満載のVT250F(MC08)は、1982年に登場した。結局4ストでの世界GP制覇はならなかったが、ホンダは市販車市場でも「4ストで2ストに勝つ」を目指したのだ。

ミッションは6速。油圧クラッチやオートカムチェーンテンショナーなど、メンテナンスフリー化も配慮された。

DOHC4バルブの水冷Vツインエンジンは60mm×44mmの超ショートストローク型で、市販車初のフロント16インチホイール、フレームは赤に塗色されたダブルクレードルタイプ、ウインカーがフロントビキニカウル/テールカウルにビルトインされる斬新なフォルムも相まって瞬く間に人気を獲得。

フレームは高張力綱製の「サイドパイプ式ダブルクレードルフレーム」。エンジン脱着作業をスムーズに行うため左側ダウンチューブを脱着式とし、エンジンのヘッド周りのメンテナンス性を考慮しメインフレームをサイドパイプ式とした構造となっている。
リヤサスペンションはプロリンク式のモノショックで、シート前端のほぼ真下にマウントされている。フロントブレーキには冷却効率を追求し、インボードディスクブレーキを採用。
レッドゾーンは1万2500回転から。速度計は80km/hからがレッドゾーン。速度計と回転計の中央にあるメーターは水温計。

1982年6月発売からの実質7ヵ月で3万台以上の登録台数を達成したのである。
そして翌1983年6月にはフルカウル版のVT250Fインテグラを追加。
後に4輪の車名になる「インテグラ」(近年はNC700/750系派生車種の名として2輪車でも復活した)だが、80年代当時のホンダはフルカウル版モデルのサブネームとしてインテグラを使っていた。

車体色は白と黒の2色がラインアップされたが、フレーム色はどちらも赤だった。
オプションパーツのアンダーカウルとサイドカウルを装着したVT250F。サイドカウルには「SUPER SPORT」のロゴが。
1983年登場のフルカウル版、VT250Fインテグラ。当時の新車価格は45万円。

VT250F(1982年)主要諸元

【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:60mm×44mm 総排気量:248cc 最高出力:35ps/1万1000rpm 最大トルク:2.2kgm/1万rpm 燃料タンク容量:12L 変速機:6段リターン

【寸法・重量】
全長:2000 全幅:750 全高:1175 ホイールベース:1385 シート高780(各mm) 車両重量162kg 乾燥重量:149kg タイヤサイズ:F100/90-16 R110/80-18

次ページ:1984年に2代目、1986年に3代目へと矢継ぎ早に進化

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