ヒストリー

ナナハン化にターボ仕様まで! 「ザッパー」こと名車Z650のDNAを受け継いだ後継車たち【カワサキ空冷4発の系譜(2)】

30年以上も続いた長寿エンジンが数々の名車を生み出した

1970年代に、ザッパーの愛称で親しまれ、絶大な人気を誇ったカワサキの名車「Z650」の魅力を紹介するこの連載。第2回目となる今回は、その心臓部である650cc空冷4気筒エンジンの基本DNAを受け継ぎ、2000年代前半まで30年以上も続いた後継モデル編です。

70年代に「ザッパー」の愛称で大ヒット! 時代を築いた名車Z650誕生ストーリー【カワサキ空冷4発の系譜(1)】

750cc化やターボ仕様など、その時代のニーズに応じた様々なモディファイを受けつつも、いずれもZ650のエンジンをベースとするのがこれらモデルたち。後に多くのファンから「ザッパー系」と呼ばれた名車の数々を紹介しましょう。


排気量拡大で激戦のナナハン市場へ

650ccザッパー(Z650)自体は1980年代前半まで存続しつつも、そのエンジンは、国内外の市場ニーズなどにより、排気量を750cc(正確には738cc)へ拡大され、他のモデルに受け継がれる。
ザッパー系エンジンは、1980年代に大きな市場規模となっていた750マシン向け排気量となったことが、結果的に長寿機となった要因だとも言える。

最初に登場したザッパー系の750車は1980年に登場した「Z750FX-II」。
先代のZ750FX(輸出向けZ1000Mk-IIのフォルムを踏襲した国内用モデルで、エンジンはZ1系のスケールダウン版)から車体はコンパクトになり、乾燥重量は36kgも軽量化された。だが、国内ではあまり受け入れられなかった。当時の国内販売車は750ccが上限、最上級クラスにはより大柄で立派な車格が求められたためだ。

かくして、Z750FX-IIは登場からわずか7ヵ月で「Z750FX-III」へモデルチェンジ(1981年)。角形の大容量タンクやグラブレール付きの大型シートなどを採用することで、外見のボリュームアップを図った。だが、これも1年弱の短命に終わってしまう。

1980年に発売されたZ750FX-II。Z2直系と言えるZ750FXの後継機種として投入された。最高出力は67psで、発売当時の新車価格は51万5000円。

Z750FX-IIのエンジン。排気量652ccのZ650(ボアストローク62mm×54mm)からボアを拡大し、排気量738cc(ボアストローク66mm×54mm)に。

1981年に登場したZ750FX-III(登場1年経たずにZ750FX-IIからモデルチェンジが行われた)。燃料タンクやシートを変更しスタイルを一新したが、エンジン性能面でZ750FX-IIと大きな違いはない。発売当時の新車価格は53万5000円。

今では考えられないほどのモデルチェンジの早さだが、1980年代前半と言えば、空前のバイクブームの時代。販売台数も年々伸び続け、国内4メーカーともに市場の覇権を握ろうと躍起になっていた時期だ(その代表例が業界トップ2のホンダ・ヤマハによるHY戦争)。

カワサキもこの機に乗り遅れまいとしていたことが、短いスパンのモデルチェンジに繫がったのだろう。1982年には、大幅な変更を受けた「Z750GP」が登場する。
このマシンの大きな特徴は、革新的なDFI(デジタル・フューエル・インジェクション)を国内で初採用したことだ。

当時、バイクのエンジンは燃料と空気を混合してエンジン内へ機械的に噴出するキャブレター仕様が一般的。電子制御でより正確な混合気量を噴出するインジェクションは、今でこそ当たり前になったが、この時はまだ採用するマシンが存在しなかった。
革新的な技術でライバル車に対抗した意欲作には、登場から多くの注目が集まったが、デジタル機構の熟成不足などが否めず、性能には限界も。同車も約1年で生産終了の憂き目に遭った。

1982年登場のZ750GP。現代では当たり前となっている電子制御式燃料噴射を先駆けて採用(日本では同車が初)。最高出力は70psで、発売当時の新車価格は64万5000円。

ザッパー系のピークを極めたGPz&750ターボ

その後、ザッパー系750車はキャブレター仕様に戻り、1983年に「GPz750」が登場した。
当時、国内認可から間もない大型カウルを装備したこのマシンは、エンジンの最高出力がザッパー系で最高の72psを発揮。後継の「GPz750F(A2)」ではさらに77psまで高められ、輸出仕様では(公称)86psに。ザッパー系750ではピークの性能を発揮した。

加えて、1984年には同エンジンをベースに過給機(ターボ)+DFIを組み合わせた「750ターボ」も登場。ザッパー系750の“ドーピング仕様”とも言える同車は最高出力112psを発揮。
当時は、ホンダがCX500ターボ、ヤマハがXJ650ターボ、スズキがXN85といったターボ仕様を輸出向けに発売し、短期間だったがターボブームが起こった時代。750ターボは、それらライバル車の中でも、最も過給機効果を実感できるターボ車として注目を集めた。

1983年に発売されたGPz750。大型のカウルを装備し、リヤサスペンションにはカワサキが「ユニトラック」と呼ぶモノショックを採用。最高出力72psで、発売当時の新車価格は66万円。

1984年型の輸出専用車として登場した750ターボ。日立製HT-10型ターボユニットを組み合わせ最高出力は112馬力に。最高速は235km/hと発表された。

カワサキ GPz750(A1)主要諸元

【エンジン・性能】種類:空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボア×ストローク:66mm×54mm 総排気量:738cc 最高出力:72ps/9500rpm 最大トルク:6.3kgm/7500rpm 燃料タンク容量:18L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】全長:2190 全幅:720 全高:1260 ホイールベース:1495 シート高:800(各mm) 乾燥重量:219kg タイヤサイズ:F110/90-18 R130/80-18
【価格】66万円(1983年当時)

ゼファーもその1台! 多機種搭載で31年を経た長寿エンジン

軽量コンパクトさと俊敏なパワー特性で、1970年代後半から1980年代前半を駆け抜けたザッパー系エンジンだったが、その後は高性能路線を水冷4バルブのGPZ900R系に譲ることとなる。
他メーカーでも軒並み高性能な水冷エンジンが主流となる中では必然ではあったが、ザッパーエンジン自体は1980年代以降も輸出向け車両用として細々と活用された。
特に欧州では600〜750ccクラスのコミューター需要があり、シャフト駆動のZ750GTなどに搭載されていたのだ。

一方、国内ではクラシカルな装いのネイキッドブームが1990年前後に到来。空冷エンジンの魅力が再認識されることで、ザッパー系エンジンは1990年の「ゼファー750」で復活。高性能路線から外れはしたものの、肩肘を張らなくても乗れる扱いやすさが、思いも寄らぬ人気を博したのだ。

ゼファー750

1989年に大ヒットとなったゼファー(400cc)に続き、1990年に初登場したゼファー750。最高出力は68psで、発売当時の新車価格は65万9000円。

また、1999年には欧州コミューター市場でも余生を与えられ、現代風流線型フォルムでリヤモノショック(1本リヤサスペンション)を採用したZR-7に搭載。国内販売もされたこのモデルは、2002年にハーフカウル仕様のZR-7Sも追加された。

このZR-7用がザッパー系で最後の熟成機と言え、セルスターター用ワンウェイクラッチの構造一新、プライマリーチェーン用ガイドの新設(耐久性確保と異音発生の低減)、エンジンガスケットの材質改善(耐久性、オイル漏れの解消など)といった改善が図られた(併売されていた同年以降のゼファー750にも適用)。

1999年登場のZR-7。エンジン自体はゼファー750と同系だが、カムカバーのデザインが角型となっている。リヤサスペンションはモノショック。最高出力73psで、発売当時の新車価格は66万5000円。

だが、時代の波には逆らえない。21世紀超えはしたものの、2008年の新規排出ガス規制が導入される前年の2007年、ザッパー系エンジンはついに途絶えることとなった。Z650登場から数えて31年、地味ながらも熟成を続けていた長寿エンジンの、偉大だがひそかな終焉であった。

2006年末に発売されたゼファー750のファイナルエディション。(2007年モデルではなく、カワサキとしては2006年モデルの「追加カラー」という扱い)。写真は最高出力は68馬力で、発売当時価格は73万円。

2006年モデルのゼファー750のエンジン。Z1やZ2をイメージさせる車両全体のデザインにあわせ、ゼファー750のエンジンはカムカバーも丸みを帯びたデザインとなっている。

2006年モデルのゼファー750のキャブレター。ゼファー750のキャブレターは1990年のデビュー時からケーヒンCVK32で変わらず。ただし、2001年モデルより排ガス規制に対応するためスロットル開度センサーが搭載された。

カワサキ ゼファー750(2006年モデル)主要諸元

【エンジン・性能】種類:空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボア×ストローク:66mm×54mm 総排気量:738cc 最高出力:68ps/9000rpm 最大トルク:5.5kgm/7500rpm 燃料タンク容量:16L 変速機:5段リターン
【寸法・重量】全長:2105 全幅:770 全高:1095 ホイールベース:1460 シート高:780(各mm) 乾燥重量:206kg タイヤサイズ:F120/70-17 R150/70-17
【価格】73万円(2006年当時のファイナルエディションの価格)

レポート●阪本一史(元・別冊モーターサイクリスト編集長) 写真●八重洲出版/小見哲彦/澤田和久 編集●平塚直樹

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