カワサキZ1000Jをベースに、世界耐久チャンピオンマシンのレプリカとして誕生したゴディエジュヌー・パフォーマンスレプリカ1135R。レーシーなシルエットからはスパルタンな乗り味が想像されるが、実際のところはどうだったのだろうか?
解説編、チャンピオンマシンとの比較編に続き、1984年新車時当時の試乗レポートを紹介する。
Z1000Jに比べるとハードだが、意外と乗りやすい1135R
エンジンを始動すると、低回転からでも、このマシンが並みのスポーツバイクでないことがわかるような、力感のある排気音が聞かれる。回転を上げてみると、やはりかなりの音量がある。音質はいいのだが、街中での信号グランプリは遠慮すべきだろう。
ギヤを1速へ入れて、クラッチをゆっくりつなぐ。やはり排気量が大きいためか、スムーズというよりも、やや手荒い感じでドッと飛び出す。1速ギヤのままゆっくり走ってみる。サスペンションの堅さや、一発一発の爆発圧力が強いエンジンと相まって、全体にハードな感触であった。
ハンドルの切れ角は、この種のクリップオンハンドルのスペシャルバイクとしては深いほうで、Uターンにもさして苦労はしない。ただハンドルをいっぱいに切ると、カウリングのフチに手が触れる。ハンドル角度を調整すれば改善されるはずだが、さほど気にはならないので、このまま走ることにした。
ちょっとエンジン回転を上げてみる。2000回転あたりまではゴツゴツした感じで回っていたエンジンは、回転が上がるにつれスムーズになり、同時に加速力が強まっていく。
パワーの立ち上がり方は、とてもなめらかである。といっても、それは段つきがないという意味であって、その立ち上がり方は、急角度で直線的である。2速ギヤでフル加速すると、5000~6000回転あたりで、すでに頭から血の気が引くような感覚になる。
それでも落ち着いて乗っていられるのは、やや堅目にセッティングされたサスペンションと、ゆるい前傾姿勢を強制するライディングポジションのおかげだろう。
一般のオンロードバイクに比べれば、乗り心地としては決してよくないのだが、常に自分の足で地面を踏みしめるような、ダイレクトな接地感がある。
ライディングポジションは、ノーマルのZ1000Jに比べて、ハンドルがやや前方で低く、シートもやや低くなっている程度で、ステップ位置は同じ。それで違和感はなく、余裕さえある。街中の混雑した所を走れば、手首が疲れるかもしれないが、ガマンできる範囲だろうと思う。
ハンドリングにクセはない。16インチホイールを使った車のような軽快さとは違って、ほどよい粘りと落ち着きがある。低速コーナーでも倒れ込む感じはないから、ハンドルにあまり力を入れる必要もない。こうした特性は、やはり18インチホイールによるところが大であろう。
メーターまわりはノーマルのものが、そっくりフロントフォーク側に付けられている。これらは、フレームマウントのカウリング側に付けたほうがハンドリングは軽くなるはずだ。しかし、量産車ベースであり、おまけにカウリング内側にオイルクーラーを付けているので、スペース的にも無理なのだろう。それに、このままで特に不自由を感じたわけではなく、見た目もスッキリしてきれいな仕上がりであった。
フロントブレーキのタッチは、しっかりしたものだ。ブレーキホースが、航空機に使われるステンレスメッシュで包まれたものであり、油圧はムダなくディスクパッドに加わる感触がある。これが一般量産車に使われているようなゴムホースだと、油圧がホースを押し広げるような方向にも作用して、レバーのタッチがスポンジーになりがちなのだ。
スピードメーターは240km/hまで目盛られており、1万2000回転までのタコメーターは9000回転からレッドゾーンになっている。最高速はちょうどこのスピードメーターを振り切るくらい出るのだろう。出力は120馬力だが、これをさらにチューニングすると150馬力に上がるという。
アメリカのAMAスーパーバイクレースと同様のプロダクションレースのシリーズ戦が、昨年からフランスで行われるようになった。7戦のうち、優勝3回、2位1回という成績をあげたジョン・モニンが、1983年の年間チャンピオンになっている。その彼のマシンがこの1135Rであり、パフォーマンス社の協力のもとに、ゴディエとジュヌーによってチューニングされたものだ。それだけでもこの1135Rのポテンシャルの高さはわかろうというものだ。最高速はポールリカールのサーキットで250km/hを記録しているそうである。
はじめに記したように、1135Rはこうしたマシンの中ではかなり乗りやすい部類である。ここでいう乗りやすさとは、各部の操作が無理なく行え、エンジンにも操縦安定性にもクセがない、という意味である。いわば「普通のモーターサイクル」なのである。しかし、この「普通」という感覚を、総合的に高いレベルで生み出すのは大変なことだ。モデルとなった耐久マシンそのものが乗りやすさを十分に考えて造られていたから、それが可能となったのであろう。
ノーマルのパーツもかなり使われているが、だからこそ、この仕上がりなのであろう。不要な部分にまで手を加えることは、過ぎたるはなんとか──という結果になるのだ。1135Rのほどよい加減こそ、最高のものと考えたい。
※当記事は『別冊モーターサイクリスト』1984年3月号の記事を再構成したものです。
試乗レポーター●大光明克征 写真●金上 学 編集●上野茂岐
◎ あわせて読みたい記事はこちら!