自動車社会構築の功労者と業績を顕彰し、未来へ伝承していく「自動車殿堂」2019年の殿堂者として、マッハシリーズやZ1、KZ1300といった大型二輪車の開発によりカワサキブランドを確立した川崎重工 元常務取締役・大槻幸雄さん(御年89歳)が選出された。
11月15日(金)に行われた「殿堂入り」の表彰式で、大槻幸雄さんは「何とかして二輪車で世界を相手に商売をしよう」と格闘した当時を振り返り、次のように語った。
アメリカ市場の声を受けて「マッハ」を送り出す
●1969年に発売された500SS。搭載される空冷2サイクル3気筒エンジンは60馬力を発揮。アメリカ市場だけでなく、日本でも高い人気を誇った。500cc(H1)に続き、750cc版(H2)も後に登場。
私は飛行機がやりたくて会社(川崎航空機)に入りまして、そのころ米軍のジェットエンジンJ47、J33のオーバーホールを受注して、会社も気合いが入っていましたし、私も喜んでいたわけですが、会社を大きくするにはコンシューマーを対象としなければということになりました。
当時、ホンダ、ヤマハは世界を相手にしていて我々も二輪事業をとなったんですが、販売店も無いところからのスタートでした。
私が最初に携わったのは2サイクル90ccのエンジンで、当時はショートストロークが多いなか、低中速トルクを出すためロングストロークにしました。ただ、販売店作りからの出発です。なかなかうまくいかない部分もあって、会社としても「もう二輪はやめようか」という話も出たのですが「アメリカへ打って出る、絶対儲ける」ということになったのです。
そのために、アメリカのKMC(KAWASAKI MOTORS CORP USA)の声をよく聞きましたが、KMCはマーケットをよく知っていました。そこで言われたのは「something new」「something difference」「best in the world」な商品を作ってくれ、と。
具体的には、ゼロヨン加速12秒台として世界一の加速を、販売価格は1000ドル以下、ゼロヨン加速12秒台を実現するリッター当たり100馬力の出力、それが開発条件になりました。
当時のカワサキは2サイクルの技術しかありませんでしたが、こうして出来た500SS──マッハはジャジャ馬と言われましたが評判はよく、ヒットとなりました。
3気筒エンジンとしたこと、CDIを採用したことは「something difference」になったと思います。
CB750Fourに負けたくない、世界一を目指しZ1を送り出す
●82馬力を発揮する903cc空冷4サイクルDOHC並列4気筒を搭載したZ1こと900スーパー4。1972年8月に輸出が開始された。1973年、同車をベースとして上限ナナハンの国内自主規制に合わせたZ2こと750RSが生まれた。
その後、アメリカではマスキー法で排ガスが厳しくなるということで、内々にアメリカ向けとして4サイクル750ccDOHC4気筒の開発を進めていたんです。
「best in the world」となるため、リッター100馬力目指して、ようやく70馬力が出た!というところで、東京モーターショーでホンダからCB750Fourが出ちゃった。愕然としましたね。
CB750FourはOHCだったわけですが、同じ750ccでもDOHCなら勝てる、とも思いました。が、何としても「best in the world」……「世界一」にしたかった。そして900ccとして出したのがZ1です。
世界的にも評価してもらえて「カワサキは大きいバイクの会社」というイメージができました。
その後に開発に携わった6気筒のKZ1300はやはり「something new」、全く新しいバイクを作ろうと、シャフトドライブにしました。
飛行機をやりたくて会社に入りましたが、二輪車に携われて、大変貴重な経験ができたました。
日本人は優秀で、世界一の製品を作れる能力があると思います。
性能世界一を目指すための条件として私が考えるのは3つありまして、まず「ライセンス生産はせず、自主開発すべきということ」、次に「開発目標はできるだけ高く持つこと」、最後に「マーケットの要求をできるだけ聞き、コストも意識すること」です。
日本がこれからも発展するため、「世界一」を目指すことが続いてほしいと思います。
ほか2名が殿堂入り
大槻幸雄さんのほか、自動車殿堂2019年の自動車殿堂者には他2名が殿堂入り。
ひとりはインダストリアルデザイナーで、新三菱重工業のスクーター・シルバーピジョンボビー200や、東洋工業(現マツダ)の三輪トラックや軽自動車のデザインに携わった小杉二郎さん(故人)。インダストリアルデザイン思想の重要性を提唱した。
もうひとりは東京大学名誉教授の染谷常雄さん。エンジンの滑り軸受解析の研究に注力し、滑り軸受の国際標準化に貢献。また、モータリゼーションの発展とともに問題になった大気汚染解決にも行政の委員として関わり、窒素酸化物の軽減に取り組んだ。
(レポート&写真●モーサイ編集部・上野)
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