雑ネタ

タイのトゥクトゥクがCO2削減政策で絶滅の危機!? 最新の東南アジア3輪自動車事情

タイの代表的な乗り物である「トゥクトゥク」は、日本では観光タクシーや移動販売などでよく使われている。

日本人が一般的に思い浮かべる3輪タクシー=トゥクトゥクはまさにタイだけの乗り物だと思うだろうが、インドやフィリピンなど東南アジア各国ではトゥクトゥクに似たさまざまなタイプの3輪タクシーがあるのだ。
そんなトゥクトゥクは、タイでは移動手段のひとつとして観光客や地元民から利用されることが多い。

オリエンタルなデザインとなっているトゥクトゥクだが、タイ国内でもいくつかのタイプがあり、必ずしもフロント1輪、リヤ2輪という形だけではないのだ。

実はトゥクトゥクは日本発祥の乗り物

タイ北部に位置するチェンマイで見かけたトゥクトゥク。チェンマイでは車体が大きい、小さいタイプの2種類あり、写真は小さい車両のほう。

実はトゥクトゥクは日本が発祥の乗り物だ。1957年に日本で販売されていた「ダイハツ ミゼット DK型」の中古車が30台ほどタイ国内に輸入されたのが始まり。当初は、ダイハツ・ミゼットDK型がバンコク中華街で多く使われていた。

また、タイの世界遺産で知られる古都アユタヤでは、安価なことから注目され、ダイハツ・ミゼット MP型が使われ始めた。

その時期では「トゥクトゥク」という呼び名ではなく、単に3輪自動車を意味する「サームロー・クルアン」と呼ばれていて、ダイハツのほかホンダや日野、三菱、東洋工業(現在のマツダ)などで販売した3輪自動車も輸入されていた。

その後、日本で3輪自動車が生産されなくなると、タイの各企業が独自に製造するようになっていって、日本でもなじみ深いトゥクトゥクのデザインと形に落ち着いたのだ。

最初は荷物運搬用に使われていたトゥクトゥクだったが、徐々にタクシーとしても利用され始める。そして、タイ人いわくエンジン音が「トゥクトゥク」と音を立てて走っていたことから、自然とこの名になったそうだ。

2017年時点、タイ国内では事業用登録車両が2万389台、個人用が1636台の計2万2025台が走っているとされている。そのうち約46%がバンコクにあるそうだ。

バンコクでは、ひったくり対策で車両右側や後方に網を張る人もいるが、基本的に工場から出荷された状態のノーマル車を使うことが主流。

一方、タイ北部に位置するチェンマイなどで見かけるトゥクトゥクはバンコクよりも座席時の足元が広い。左右どちらからでも乗降できるようになっているのがほとんどで、カラオケが搭載されているなど、わりと運転手が自由にカスタムしているのだ。

ただし、形状はなんであれトゥクトゥクは普通のタクシーと違い、基本的に料金メーターはついていない。そのため料金交渉が必須で、観光客は高めに要求されるが、現地に住むタイ人でさえタクシーを利用するよりもやや高くつく。
バンコクだと渋滞もひどく、バイクタクシーもあるので、タイ人もあまり利用しないというのが現状だ。

ちなみに、日本でも見かけるいわゆる「トゥクトゥク」とした車両は、バンコク、古都チェンマイ、タイ東北部の大都市ナコンラチャシマーなど、人口が多い県の中心部で使われている。

地方のトゥクトゥクは変わったデザインばかり!

世界遺産で知られるタイの古都アユタヤで走っていたトゥクトゥク。ダイハツ ミゼットDK型の面影もありつつ、タイ独自のカスタム仕様となっている。

基本的にトゥクトゥクはバイクのようなバータイプのハンドルで、スロットルはバイク同様ハンドルのグリップを回す。ブレーキは右足、左足はクラッチで、運転席に座るとハンドル下にシフトレバーがあり、バイクとクルマの中間といった運転方法となる。

タイでトゥクトゥクを運転するには「3輪運転免許証」が必要で、「普通自動車免許」では運転できない。さらに個人用と事業用と免許は分かれており、3輪タクシーとして運用する場合は当然事業用免許がいる。

まあ個人でトゥクトゥクを使用する人は昨今ほとんどいないが、ホテルや高級マンションの送迎、企業の宣伝カーとしてトゥクトゥクを運転する場合は個人用免許でOKとなっている。前者は客席を2列3列に増やしたロングタイプに、後者は座席部分に看板を設置したりと使用用途によって形も異なるわけだが、地域による違いもある。

たとえばバンコクよりも先に3輪自動車が普及していたアユタヤでは、お互いが向かい合って座る横向きタイプの座席が主流のため、バンコクで活動しているトゥクトゥクより多く客が乗れるようになっている。

バイクをベースにしたトゥクトゥクも!?

カンボジアの首都・プノンペンで走っていたバイクとリヤカーが特殊なアタッチメントでつながっているトゥクトゥク。

ラオス人民民主共和国の東北部にあるウドンタニー県、ノンカイ県のトゥクトゥクは、バイクをベースにしたトゥクトゥクが主流だ。
現地では3輪タクシーを意味する「サームロー」と呼ばれている。

しかし、最高速度は約50km/hといったもので、リヤカー部分も脆弱な作りなのは否めず、初めて乗る人は結構な不安を感じるかもしれない。とはいっても、バンコクの半額以下の料金で利用できるため、現地では誰もが使うタクシーではある。

ほかにもビーチリゾートとして世界的に有名なタイ南部のプーケット県では、意外にも日本製の軽トラックがそのままタクシーとして利用されている。
観光客からは便宜上「トゥクトゥク」と呼ばれているが、タイ人は4輪車を意味する「シーロー」と呼ぶこともある。
「シーロー」はバンコクでは日系企業の駐在員が暮らすエリアで見かけるが、乗客のほとんどが日本人女性で、そのため中には日本語で会話ができる運転手もいる。

タイ政府はトゥクトゥクのEV化を検討中だが懸念点も

基本的にトゥクトゥクは屋根が低くく、乗っていると外が見づらいのがややネックだ。

インドやフィリピンなど東南アジア各国では、タイのトゥクトゥクに似た「オートリクシャー」という3輪タクシーが走っている。
また、ノンカイ県に接する隣国ラオスでは「サームロー」など、各国によって3輪タクシーの名称も違う。

しかし、ラオスでは首都ビエンチャンでさえ観光客が少なく、暇な時間帯も多いためか、座席にハンモックをかけて寝ている運転手が多い。利用したいときに起こしていいのかどうかは分からない……。

話をタイのトゥクトゥクに戻すが、20年くらい前まではトゥクトゥクの横転事故や衝突事故が絶えなかったこともあってか、タイ政府はトゥクトゥクがタイ全土で普及することをあまりよく思っていない。
トゥクトゥクによる事故は減少傾向にあるというが、1992年にはトゥクトゥクを販売・製造する事業者の新規登記を認めない法令を出すなど、「締め出し」方向に向かっている。

また、ガソリンや天然ガスを燃料とするトゥクトゥクは、昨今世界的な流れとなっている環境問題=CO2削減というハードルにも直面している。そのため、タイ政府は2036年までにすべてのトゥクトゥクを電動化する計画「eTukTuk」を推し進めており、2017年時点ですでに約100台が導入された。
もし、トゥクトゥクの完全電動化が実現すれば年間約2万トンの石油削減になるというのだ。

タイ政府は「トゥクトゥクの電動化は難しい技術が必要というわけではない。新規企業なども参入しやすいだろう」という。しかし、タイ人に聞いたところ、2021年になってもEV化されたトゥクトゥクが走っているのを見たことはないという。

つまり、全く利用されていないのだ。
なぜなら、どこで充電するのか、1回の充電でどれぐらい走れるのか、給電中に雨が降っていたら感電することはないのかなど、電動化に伴う根本的な問題・疑問への回答が示されていないため、そもそもドライバーが乗ることを嫌がっているからである。

……というわけで、トゥクトゥクはその名の由来である「トゥクトゥク」というエンジン音を響かせながら、もうしばらくタイ各地を走り続けることだろう。

レポート&写真●高田胤臣 編集●モーサイ編集部・小泉元暉

NOTE

■高田 胤臣(たかだ たねおみ)

1998年からタイで過ごしはじめ、2002年にタイへ移住。タイにある「華僑系慈善団体」でボランティア、現地採用会社員として就業。2011年からライターの活動をし『亜細亜熱帯怪談』(晶文社)をはじめ、書籍や電子書籍を多数発行。
noteではタイにまつわる出来事を綴っている。

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