バイクライフ

社会問題化している「半導体不足」はバイクライフにどんな影響を及ぼすか?

半導体不足の背景

「半導体不足」の影響を報じるニュースを見かける機会が増えています。世界的な半導体不足の中で、さらに国内最大手のルネサスの工場火災といった泣きっ面にハチのような状況さらに厳しい状況となっているのです。

さて、半導体というのはどのような部品なのでしょうか。
そもそも電気を通す特性があるものを「導体」、通さないものを「絶縁体」といいます。半導体は、文字通りにそれらの中間的な特性を持った物質です。
ちなみに半導体のことを英語で「semiconductor」(セミコンダクタ)といいますが、これは導体(コンダクタ)のセミ版という意味で、半導体とうのは直訳だったのです。

半導体という物質は具体的にダイオードやトランジスタといった単体部品となります。そして、それらを集積したICとして、いわゆる電子制御を担う回路製品を生み出すことができます。つまり、半導体不足というのは、実質的には電子回路不足ということになります。

バイクがキャブレターからインジェクションになったように、世の中では半導体を用いた電子回路を用いた製品が増えています。
その最たるものがパソコンやスマートフォンですが、じつは新型コロナウイルスの流行する前からパソコンなどの出荷台数は減っていました。そこにコロナ禍が襲ったわけですから、世界的に半導体工場は生産を絞ります。

生産を絞っただけであれば、フル回転させれば元の生産量は確保できますが、半導体というのは成長産業ですから、常に増産に向けた投資をしてきたという面があります。それがパソコンなどの需要減と新型コロナウイルスの流行によって止まってしまいました。

そのため、コロナ禍におけるテレワークで需要が復活したパソコン業界が増産しようとしても、予想以上にはやく立ち直った自動車業界が増産しようとしても、おいそれとは半導体の供給は追いつかないというわけです。

さらにアメリカによる対中制裁の関係で、西側諸国の半導体需要は主に台湾が担うことになりました。それにより中国の生産能力が世界の半導体供給において計算できなくなったのです。

このように様々な要因が絡み合って、半導体不足は起きています。
冒頭で書いたように日本国内では、2020年10月に旭化成の半導体工場で火災が起き、2021年2月にはルネサスの工場でも火災が起き、供給不足に陥りました。
また同年2月にはアメリカにおける大規模停電による工場停止といったアクシデントもありました。タイミングが悪いというか、アクシデントが集中してしまったのです。

半導体、二輪車では何に使われている?

さて、そんな半導体を使った電子回路は、二輪車での用途も増えています。

エンジン制御はもちろん、最新のバイクに装備されているABS、トラクションコントロール、電子制御サスペンション、そしてそれらを制御するIMU(慣性計測装置)においても電子回路は必要です。
メーターの表示だってICが担っている時代です。
電子制御スロットルの普及が進み、ライディングモードがついているモデルも珍しくありませんが、当然その制御も半導体を使った電子回路が使われています。

2021年に登場した新型=3代目スズキハヤブサ。クイックシフター、エンジンブレーキコントロール、トラクションコントロール、ウイリーコントロール、バンク角や下り傾斜角に連動するABS、エンジン出力特性切り替え……などなど最新の電子制御技術がふんだんに盛り込まれいる。
新型ハヤブサの「アンチリフトコントロールシステム」(ウイリーコントロール)の説明イラストだが、前後輪、メーター、ECU、IMUなど様々な箇所にセンサーや制御ユニットが設けられ、それらが統合制御されている。
最新型スズキ ハヤブサが搭載するボッシュ製6軸IMU。
6軸IMUはピッチ、ロール、ヨーの3軸の角速度と、前後、左右、上下の3軸加速度をリアルタイムに検知し、トラクションコントロールやABSの制御に反映。「ヒルホールドコントロールシステム」が作動するのも、IMUが坂道状態にいることを検知してくれるおかげ。
最新型スズキ ハヤブサのABSユニット。
最新型スズキ ハヤブサのECM。ECM=エンジンコントロールモジュールとスズキは呼称するが、いわゆるECU=エンジンコントロールユニットに該当する。
最新型スズキ ハヤブサのメーターパネル。選択中のライディングモードや各種電子制御の作動レベルを表示する液晶モニターが組み込まれている。
同じく最新型スズキ ハヤブサの液晶モニター。走行中のバンク角など表示内容を切り替えることもでき、メーターは今や「電子機器」と言っても過言ではない。

燃料ポンプは不要で自然落下でキャブレターにガソリンを送っていた時代、機械式燃料ポンプを使っていた時代には半導体を用いるような複雑な電子回路は使われていませんでした。
半導体がなくともバイクは組み立てることができたのです。しかし、現代ではそうはいきません。半導体不足というのはバイクの生産にも大きく影響してしまうのです。そのため新車の供給にも大きく影響しています。

ユーザーからすれば買いたくても、ショップからすれば売りたくても、新車がない……という状況が生まれます。

半導体不足の影響はETC機器やライダーに人気のアクションカムにも!

半導体不足が影響するのは新車だけではありません。

半導体を使っている部品の供給も滞ってしまいます。たとえば、ETCユニットは半導体を用いていますし、いまどきのレーダー探知機やGPSナビシステムにも半導体の回路は不可欠です。
こうしたアイテムも市場で不足傾向となっており、価格も高値気味となっています。

意外なところでバイクライフに関わるものでいえば、ソニーのアクションカムが半導体不足からくる部品供給の見通しが立たないことを理由に生産終了となってしまいました(2021年1月28日発表)。

生産終了の対象となったのは「FDR-X3000/X3000R」と「HDR-AS300/AS300R」。その白い筐体はモトブログを楽しんでいるライダーにとっては定番といえるアクションカムですが、もはや新品では入手困難になってしまったのです。

なぜ生産の一時休止ではなく、終了に追い込まれてしまうのかといえば、半導体不足の回復には年単位で時間がかかると考えられているからです。
今後も同じように半導体不足の影響を受けて消えてしまう製品が増えてくるかもしれません。
つまり、欲しいものがあれば売っているうちに入手しておくという意識が重要になってくるといえるのです。

レポート●山本晋也 写真●スズキ 編集●上野茂岐

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