ヒストリー

1921年創設のイタリアンメーカー「ベネリ」とは? 〜日本車よりも早く高回転化・多気筒化に挑んだ名門の歴史〜

前身となる修理工場の創設が1911年で、モーターサイクルメーカーとしての活動を開始したのは1921年。歴史の長さを考えれば、名門であることは間違いないけれど、「ベネリってどんなメーカー?」と聞かれて即答できる人は、イタリア車好きでもあまり多くはないと思う。

ベネリを創設した6兄弟。左から、トニーノ、フランチェスコ、ジョバンニ、ジュゼッペ、フィリッポ、ドメニコ。なおジュゼッペは第二次世界大戦後にベネリを離れ、独自のメーカーとしてモトビを創設。
黎明期のベネリでテストライダー兼レーシングライダーを務めたのは、末弟のトニーノ。ベネリに数々の栄冠をもたらした彼は、1937年に自動車事故でこの世を去ることとなった。
1932年のモンツァGP175ccクラスで、トップ争いをする2台のベネリ製DOHCシングル。♯24はトニーノ・ベネリで、♯14は後にビアンキやジレラ、フェラーリで活躍するドリーノ・セラフィーニ。

その一番の理由は、エンジンに明確な特徴がないからだろう。
例えば同じイタリアのメーカーの歴史を振り返ると、かつてのジレラとMVアグスタは並列4気筒のイメージが強かったし、ドゥカティはベベル系シングル/Lツインで確固たる地位を確立した。
モトグッツィの主軸は、1960年代中盤までは水平単気筒で、それ以降は縦置き90度Vツインだ(念のために記しておくと、この4社は上記以外にも多種多様なエンジンを手がけている)。
そのあたりを踏まえて、ベネリの特徴を挙げるなら、先進的にして多気筒に積極的だったメーカー……となるだろうか?

1920~1930年代のベネリ「OHC/DOHCヘッドを先駆けて採用」

黎明期のベネリの先進性を示す要素は、OHVとSVが主力だった1920~1930年代の時点で、多くのモデルにカムギアトレイン式のOHCヘッドを採用していたことである(ワークスレーサーは1930年代からDOHCヘッドを導入)。
その優位性を実証するべく、1923年からイタリア選手権への参戦を開始した同社は、175ccクラスで4度のシリーズタイトルを獲得。そして1930年代に入ると、ヨーロッパ各国のレースでも数々の栄冠を獲得したベネリは、当時のモーターサイクルメーカーが最も重要と認識していたマン島TTに目を向け、1939年に250cc:ライトウェイトクラス制覇を実現している。

ベネリのDOHC単気筒を駆って、1939年のマン島TTライトウェイトクラスを制したのは、イギリス人のテッド・メラーズ。なお同年のセニアクラス:500ccはドイツのBMW、ジュニアクラス:350ccはイギリスのベロセットが優勝。

なお創業当初のベネリは、極初期の2スト単気筒を除くと、基本的に4スト単気筒を主軸としていたものの、1939年のマン島TTで競ったDKWやモトグッツィなどに刺激を受けたのだろうか、同年12月にはスーパーチャージャー付きのDOHC水冷250cc並列4気筒レーサーを公開。最高出力45hp、最高速130mph(約209km/h)という数値は、当時のライバル勢を圧倒していたが、第二次世界大戦の勃発によって以後のレース活動は休止。
そして1949年から始まった世界GPでは過給器が禁止されたため、ベネリが生んだ革新的な並列4気筒車は、一度もメジャーレースを戦わずに姿を消すこととなった。

第二次大戦後のベネリでワークスライダーを務めたのは、イタリア人のダリオ・アンブロジーニ。1949年が初開催となった世界GPの250ccクラスでは、モトグッツィに敗れて2位となったものの、1950年には4戦中3勝を挙げてシリーズタイトルを獲得。

第二次世界大戦後のベネリ「戦禍からの復興と、緩やかな衰退」

戦争中の爆撃で大ダメージを受けたベネリだが、1951年にはシリンダー+ヘッド以外の基本構成を共有する、独創的な新時代の2スト/4スト単気筒車として、100/125ccのレオンチーノを発表。1953年に行われた第1回モト・ジロ・デ・イタリアでは、175cc勢を抑えて、レオンチーノ125ccが総合優勝を飾っている。
また、DOHC単気筒車を擁してワークス態勢で参戦した世界GPでは、開催2年目となる1950年に250ccクラスのシリーズタイトルを獲得。言ってみれば第二次大戦後のベネリは、創業時からの勢いを維持していたのだが……(1930年代のベネリは、ビアンキ、ガレリ、ジレラ、モトグッツィと並んで、イタリアの「ビッグ5」と呼ばれていた)。

1950年代に開催され、大人気を獲得した公道レースのモト・ジロ・デ・イタリア。その第1回目となる1953年に総合優勝を飾ったのは、125ccのベネリ・レオンチーノだった。ライダーは後にイタルジェットを創設するレオポルド・タルタリーニ。
レース仕様にモディファイされた2ストロークのレオンチーノ。当時のイタリアでは、同一車両でツーリスモ/スポルトを製作するのが一般的で、ベネリを含めたスポーツ指向のメーカーは、レースを前提としたF3/MSDS仕様も販売していた。
1957年のモト・ジロ・デ・イタリアに、ベネリは5台のワークスマシンを投入。125ccクラスを制したのは♯58レナート・フェラーリで、2/3位にもベネリが入賞。

レオンチーノの発展型と言うべき125~250cc単気筒車が堅調なセールスを示す一方で、以後のベネリは徐々に衰退の兆しを見せ始める。
まず1959年から投入した新世代の空冷250cc並列4気筒レーサーは、イタリア国内選手権で何度も王座に輝き、1969年には世界GPで久々のシリーズタイトルを獲得したものの、進境著しいホンダやヤマハのワークスレーサーにはほとんど歯が立たなかった。

250cc空冷並列4気筒レーサーを勝利に導くライダーとして、1963年にはタルクィニオ・プロヴィーニがベネリに加入。イタリア選手権では3度の王座を獲得したが、モンディアルとMVアグスタで世界チャンピオンになった彼の腕を持ってしても、世界GPでホンダやヤマハを倒すことはできなかった。
日本のワークス勢が世界GPから撤退した1969年、250ccクラスでベネリに久しぶりの栄冠をもたらしたのは、後にケニー・ロバーツやエディー・ローソンのメカニックを務める、オーストラリア人のケル・キャラザース。

また、1970年前後は次世代を見据えたフラッグシップとして、世界中のメーカーが革新的なビッグバイクを次々と発売したのだが、そんな中でベネリが発売したトルネード650は、全面新設計でありながら、旧態然としたOHV2バルブ並列2気筒エンジンを搭載していたため、ライバル勢と同じ舞台には上がれなかった。

1960年代末に公開され、1971年から市販が始まったトルネード650。登場時の欧米での評価は決して悪くなかったものの、同時代にデビューした他の大排気量車と比べると、インパクトは希薄だった。OHV2バルブ並列2気筒の最高出力は52hp/7500rpmで、乾燥重量は210kg。

もっとも、1970年代初頭にデ・トマソグループの一員となったベネリは、4スト350/500cc並列4気筒車や並列6気筒車、2スト250cc並列2気筒車など、既存のラインアップとは一線を画するモデルを矢継ぎ早に発売している。
とはいえ、4ストはホンダCBフォア系、2ストはヤマハ/スズキからの影響が顕著だったためか、販売はあまり奮わず。
ただしベネリの名誉のために記しておくと、1973年から発売が始まった750cc並列6気筒のセイ、そして1975年に登場した250cc並列4気筒のクアトロは、いずれも量産車初のエンジン形式である。

ホンダCBXやカワサキZ1300より数年早い1973年に登場した量産初の並列6気筒車、750セイ。
750セイのエンジン構成はホンダCBフォア系とよく似ていたけれど、背面ジェネレーターや駆動系などにはベネリの独自性が感じられた。最高出力は71hp/7500rpmで、乾燥重量は220kg。

編集部註:日本車で並列6気筒の量産車と言えば空冷1000ccのホンダCBXと水冷1300ccのカワサキKZ1300だが、CBXの登場は1978年、KZ1300の登場は1979年。また、日本車のお家芸と思われがちな「250cc並列4気筒」だが、日本初の量産車はスズキGS250FWで登場は1983年(ベネリに続き世界では2例目)。

デ・トマソ傘下の後「約10年の空白期間を経て復活」

1970年代後半以降のベネリは、4スト125ccツインや2スト125cc単気筒をラインアップに加えて、細々……と言いたくなる形で2輪車の生産を続けていたものの、1988年にはデ・トマソグループの意向に従い、同じグループのモトグッツィに吸収合併される形でブランドが消滅。
ただし1990年代後半には復活を遂げ、2005年以降は中国・銭江グループの一員として活動を継続している。

さて、ベネリの歴史を駆け足で振り返ってみたが、同社のターニングポイントになったモデルは、1971年から市販を開始したトルネード650ではないか……と個人的には思う。
モトグッツィの700/750cc縦置きVツイン、ドゥカティの750ccLツイン、ラベルダの650/750cc並列2気筒や1000cc並列3気筒(前者はホンダCB72/77とよく似ていたが、ラベルダ独自の技術で劇的に進化)などのように、1970年前後に次世代を見据えた大排気量エンジン、自社の特徴となり得るパワーユニットを開発していたら、以後のベネリの展開は変わっていたのではないだろうか。

レポート●中村友彦 写真●ベネリ/八重洲出版 編集●上野茂岐

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