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2023年3月に開催された大阪モーターサイクルショーでの世界初公開から間を開けることなく、4月25日に発売されたカワサキの新型エリミネーター/SE。老若男女のライダーから注目されるこのバイクのコンセプトなどに関して、開発陣にインタビューを行った。
今回インタビューに答えてくれたのは、プロジェクトリーダー(車体設計担当)の柏原 健さん【左から二番目】、走行評価リーダー(車体開発担当ライダー)の森本誠一朗さん【左】、実験リーダー(電装系実験担当)の熊田貴文さん【左から三番目】、FI・エンジン開発ライダーの元山貴也さん【右】の4名。
*以下、敬称略
新型エリミネーターは「幅広い層へ向けて」
編集部:車両のコンセプトとして一番大事にしたところはどこでしょうか?
柏原:広く、色んな方に乗っていただけるようなモデルを目指して「扱いやすさ」ですね。取り回しの軽さであったり、足着きの良さであったり、リラックスして乗れるライディングポジションもそうなんですけど、初めてバイクに乗る方でも、リターンライダーの方でも、幅広い層に乗っていただけるモデルになっているかと思います。
編集部:クルーザーというジャンルの中での立ち位置は、どのように考えましたか?
柏原:エリミネーターは、広義の意味ではクルーザーという枠に入ると思うのですが、我々としてはクルーザーを作ろうというような思いではなくて、ニンジャ400(*1)のエンジンを使って、さらに乗りやすくていろんなお客様に楽しんでいただける、日常で楽しんでいただけるモデルを、ということで開発をしています。「乗りやすさ・快適な乗り心地」というのを目指して行く中で、スタイリング的にはクルーザーになっていきました。
*1:2018年登場のフルカウルスポーツモデル。それまでのニンジャ400とは異なり、250ccモデルとほぼ同じ車体に排気量398ccの並列2気筒エンジンを搭載し、高い運動性能と扱いやすさを両立している。
エリミネーター?バルカン?「モデル名の選択と方向性」
柏原:クルーザーとなると、エリミネーター(*2)かバルカン(*3)かという話もあったんですけど、カワサキの中ではエリミネーターという名前がふさわしいんじゃないかなということで、今回のモデル名となりました。
編集部:バルカンという名前を選ばなかった理由は?
柏原:バルカンは、ライディングポジションを始めとして、長い距離をゆったり走るような、クラシカルなクルーザーのイメージがあるんですけど「それとはちょっと違うね」ということで、エリミネーターと名付けています。
柏原:そして、エリミネーターと名乗るにあたって、4気筒のドラッガースタイルのようなイメージがあったりとか、片や250V(*4)みたいなイメージがあったりとか、社内外でエリミネーターというモデルにいろいろなイメージがある中で、我々開発陣としては「シン・エリミネーター」というものを考えました。親しみ、親しいという意味の「親」と、進化した、進んでいるという意味の「進」、一新した、新たなという意味の「新」、この3つの「シン」をあてはめて、我々として改めて「エリミネーターというのはこういうものだよ」と再定義するというようなことを今回、社内的にも説明して、開発陣の中でも共有しています。
*2:1985年登場の輸出専用車「エリミネーター」に端を発するシリーズ名。
*3:1985年登場の輸出専用車「バルカン」に端を発するシリーズ名。
*4:1998年に登場したエリミネーター250V。ドラッグレース的イメージをまとっていたそれまでのエリミネーターシリーズとは異なり、よりトラディショナルなアメリカンクルーザー的スタイルを採用しており、エンジンもV型2気筒を採用していた。
ニンジャ400との相違点
編集部:ニンジャ400のエンジンを搭載していますが、専用のセッティングを施しているのでしょうか?
柏原:エンジン本体としては基本的に同じセッティングになっています。リヤのスプロケットは、ニンジャより車体が若干重いとか、タイヤがちょっと大きいというところのアジャストということで、丁数を41Tから43Tに変更しています。それ以外は基本的に吸気系も同じですし、排気系も、車体のデザインに合わせてサイレンサーのデザインを新規に起こしているのですが、何かを触って性能をこうしよう、みたいなところはないですね。
編集部:車体面での専用セッティングは?
柏原:フレームは完全新規設計ですね。もちろん、エンジンは共通なのでエンジンのマウント位置は同じなのですが、このエリミネーターを軽いバイクに仕上げるというところを意識しながら新設計しています。パーツ単位では、キャリパーだったりマスターシリンダーであったりとか、部分的にはニンジャ400と共通の部分もあるんですけど、基本的には新規で設計をしているモデルになっています。
編集部:ニンジャ400のエンジンはそれをベースとした250cc版もありますが、250という排気量を選ばなかったのはなぜですか?
柏原:この400ccエンジンは、乗りやすさという面も含めて、ゆとりを持って乗っていただけるんじゃないかなと思っていますね。高速道路での合流や追い越しであったりとか、あとは、ちょっと排気量の大きいモデルに乗った友達とツーリングに行くときとかにも、十分ゆとりを持って一緒についていけるような、そういう面で400ccのほうを選んでいます。
編集部:今後250ccエンジンを搭載したエリミネーターが出る可能性は?
柏原:それは、いろいろお客様の声を聞きながらまた……。
新型エリミネーター各担当者からのコメント
編集部:開発陣の方々、それぞれの担当分野のアピールポイントをぜひ教えてください。
森本(車体開発担当):やっぱりビギナーの方、乗りなれていない方に乗ってもらいたいという思いが強かったので、軽量さですね。その軽さを生かせるように、軽すぎて不安にならないように、乗りやすいバランスは重点的に作り込みました。あとは、乗り心地の面で、シートのウレタンの厚みを稼いで、楽に長時間乗れるようにというところにはだいぶ時間を費やしました。ハイ、スタンダード、ローと3種のシートがあるので、体格によって選んでいただいてもいいし、好みで変えてもらってもらっていいかなと思っています。
熊田(電装系実験担当):エリミネーターSE専用装備のドライブレコーダーですね。GPS付きでいうと世界初開発かなと思っています。ドライブレコーダーを付けるにあたって、社内でも「大丈夫なのか」というような声もあったのですが、そこはひとつひとつ懸念点をクリアしていって、信頼性でもそうですし、商品性も十分兼ね備えたものを付けられていると思います。「安心」をユーザーの方に体感してほしいですね。
元山(FI・エンジン開発担当):微調整ですが、FI(フューエルインジェクション)の開け始めの付きの強さをできるだけ抑えて、扱いやすい車両にしています。
柏原(プロジェクトリーダー、車体設計担当):初めての方からリターンの方まで楽しんでもらえるモデルに仕上がっていると思います。気軽に乗っていただいて、生活の一部として使ってもらえたらと思っています。
編集部:ご回答いただき、ありがとうございました!
カワサキ新型エリミネーター主要諸元
*[ ]内は上級グレード・エリミネーターSEの数値
【エンジン・性能】
種類:水冷4サイクル並列2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:70.0mm×51.8mm 総排気量:398cc 最高出力:35kW<48ps>/1万rpm 最大トルク:37Nm<3.8kgm・f>/8000rpm 変速機:6段リターン
【寸法・重量】
全長:2250 全幅:785 全高:1100[1140] ホイールベース:1520 シート高735(各mm) タイヤサイズ:F130/70-18 R150/80-16 車両重量:176kg[178kg] 燃料タンク容量:12L
【車体色】
スタンダード:パールロボティックホワイト、メタリックフラットスパークブラック
SE:メタリックマットカーボングレー×フラットエボニー
【価格】
スタンダード:75万9000円
SE:85万8000円
レポート●林 康平 写真●岡 拓/カワサキ