バイクライフ

自己修復塗装って何だ?クルマだけでなく、バイクにも採用されはじめた「夢の塗装方法」

H2カーボン ハイリーデュラブルペイント

バイクではカワサキが「ハイリーデュラブルペイント」という名で採用

カワサキの2019年モデルのニンジャH2カーボンやニンジャH2 SX SEに採用された新技術が大きな注目を集めました。

最高出力200馬力オーバーのスーパーチャージドエンジンでしょうか?
いや、パワーユニットや叩き出す数値ももちろんスゴいんですが、それはデビュー時からのこと。
2019年モデル・ニンジャH2カーボンやニンジャH2 SX SEの驚くべきポイントは、細かい傷であれば自己修復する機能を持った「ハイリーデュラブルペイント」を外装に採用したことです。

ニンジャH2カーボンとニンジャH2 SX SE以外にも、2019年モデルのニンジャZX-10R SE、ヴェルシス1000SEにも採用され、現在も各モデル「ハイリーデュラブルペイント」を継続採用しています。
そんな傷を自己修復する「ハイリーデュラブルペイント」とは一体何なのでしょうか。

ニンジャH2 SX SE「ハイリーデュラブルペイント」採用部分

2019年モデルのニンジャH2 SX SEのタンク周辺には傷を自己修復する「ハイリーデュラブルペイント」が採用された。
ニンジャH2 SX SEの傷を自己修復する「ハイリーデュラブルペイント」が採用された部分。
2019年モデルのニンジャH2 SX SE。最新モデルのニンジャH2 SX SEやニンジャH2 SX SE+でも「ハイリーデュラブルペイント」は継続採用。

ニンジャH2カーボン「ハイリーデュラブルペイント」採用部分

ニンジャH2カーボンの傷を自己修復する「ハイリーデュラブルペイント」が採用された部分。
2019年モデルのニンジャH2カーボン。最新モデルのニンジャH2カーボンでも「ハイリーデュラブルペイント」は継続採用。

「ハイリーデュラブルペイント」が自己修復されていく過程

カワサキの「ハイリーデュラブルペイント」(左)と一般的な塗装のサンプル(右)。両方をワイヤーブラシでこすって5分後の様子。*写真はカワサキプラザ沼津提供
ワイヤーブラシで傷をつけてから12時間後。左側の「ハイリーデュラブルペイント」では筋状の傷が薄くなっている。*写真はカワサキプラザ沼津提供
傷をつけてから12時間経過した後、温めたときの状態。左側の「ハイリーデュラブルペイント」は目で見てわかる傷がほぼ消えている。*写真はカワサキプラザ沼津提供

クルマ用が先に誕生した「自己修復塗装」

細かい傷が修復されるという塗料は、もともと過酷な環境下で使用される四輪=自動車において、外観の輝きを長期に渡って維持するために開発されました。
自動車メーカーはそれぞれ塗料の研究開発を重視していましたが、とくに日産は力を入れており、2005年に 「スクラッチガードコート」呼ばれる塗料をペイントした初代エクストレイルの特別仕様車を発表。これが世界初の自己修復塗料採用車です。

「世界で初めて傷を自己修復する塗料を採用した車」として2005年に発売された日産エクストレイルの特別仕様車。

日産の説明によると「スクラッチシールド(*)とは、ボディに軟質樹脂を配合したクリヤー塗装を施すことで、洗車によるすり傷、日常使用での引っかき傷程度なら、時間がたてば復元する世界初の塗装。また、一般のクリヤー塗装と比較して、傷がつきにくくなったことにより水はじきも良く、ツヤ、光沢も持続します」とあり、従来の塗料と比較すると、細かいスリ傷は5分の1程度に低減されるといいます。

*編集部註:クリヤー塗装「スクラッチガードコート」を含めたトータルでの塗装方法が「スクラッチシールド」と呼称される。

なお、日産以外にもトヨタには「セルフリストアリングコート」と呼ばれる自己修復塗料がありますが、いずれにせよ、ボディの表面積が大きい四輪(特に高級車など)で採用・普及が進んでいったわけです。

「スクラッチガードコート」採用車両の塗装表面に傷がついた直後の様子と、傷部分のアップ。
傷がついた「スクラッチガードコート」の自己修復が進んだときの様子と、傷部分のアップ。

カワサキのハイリーデュラブルペイントもクルマ用と原理は同様

しかし、何がどうなって傷が自己修復されるのかが気になりますよね?

自動車用3層塗装の場合、一番下に中塗り、その上にベースコートを塗りますが、その上のクリヤー塗装がスクラッチシールドとなります。

日産の「スクラッチガードコート」の仕組み。

図を見ればわかりやすいかと思いますが、クリヤー塗装部が衝撃吸収材になっているようなイメージです。
弾性のある結合を高密度で配置したスクラッチシールドは、その結合が荷重(=傷の入力)を支えるようにして、凹み(=傷)を低減。また、塗膜は弾性を持っているため表面が復元されるという仕組み。

カワサキが採用する「ハイリーデュラブルペイント」も基本的な原理は同様で、硬い分子を柔らかい分子でつないだバネのような構成となっている塗料が外部から受けた入力に反発し、ある程度の範囲内であれば傷を防いでしまうというものです。

日産のスクラッチガードは「洗車傷3年間ゼロ」を目指し開発された

話を日産の「スクラッチシールド」にちょっと戻します。
こうした塗料以外で塗膜の耐傷付き性を向上させる方法としては、現在でも一般的にコーティング剤として普及しているハードコートなどの「硬質化」、もしくは外壁塗装などにも用いられるウレタン塗料のような「軟質化」というふたつの手法が開発されてきました。

ただ、硬質化で対応した場合、耐傷付き性は向上できても塗膜内部応力が増大し、クリヤー以外の塗膜と性質の違いにより塗膜の割れや剥がれが発生。
一方、塗膜の軟質化で対応すると、耐候性や耐汚染性が低下する問題を抱えていました。

これらの問題に対し、スクラッチシールドの開発者は耐候性や耐汚染性を高めながら塗料の軟質化で自己修復塗料の開発を進めることを決断。
そして、テーマを「お客様の関心事として大きい洗車機傷に対して3年間傷ゼロ」という高い目標を設定し開発を進めていったのです。

ボディの傷としては「破断傷」「凹み傷」と大きく2つの傷にわかれていることを調査した開発者は、塗膜の耐傷付き性に影響を及ぼす破断強度、伸び、弾力限界をパラメーターとして検討。
破断傷に対しては、塗膜の破断強度・破断伸びをアップさせること。
凹み傷に対しては塗膜の破断伸び・弾性をアップさせることを追求し、硬化剤に新開発の樹脂を導入するなどでスクラッチシールドを完成させたのです。

「スクラッチシールド」は従来の塗装に対して弾性限界を大きく向上させたことで、弾性限界以下の傷については、熱を加えることで元の状態への回復が進むという特性も持っています。

一般的な塗装で連続50回洗車機にかけたときの表面のアップ。
日産の「スクラッチガード」を連続50回洗車機にかけたときの表面のアップ。

自己修復塗装は画期的な塗料だが弱点もある!?

「スクラッチシールド」や「ハイリーデュラブルペイント」などの自己修復塗料は自動車やバイクで徐々に普及が進んでいますが、画期的ではあるものの万能な塗料というわけではありません。

塗料の性質上、すべての傷が自己修復されることではないこと、
また、一般的な塗装の車両と比べ、事故などによる修理は特殊な塗料のためコストがかかるなどデメリットも抱えています。

ただ、ユーザーからすると細かい傷が時間を経ることで自己修復するのは大きな魅力なのも事実。
今後、バイクの世界に自己修復塗装がどこまで普及していくかはわかりませんが、つい目が行ってしまうエンジンなど機能面だけではなく、「塗料の最新技術」に目を向けてみても面白いと思います。

レポート●手束 毅 写真●日産/カワサキ/カワサキプラザ沼津 編集●上野茂岐

取材協力

カワサキプラザ沼津TEL:055-931-3180
https://www.kawasaki-plaza.net/numazu/

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