安全運転講習会で聞いた高校生のバイクライフ
1970年代後半から現在も続く「三ない運動」。高校生がバイクに乗ることに関し、「免許を取らせない」、「買わせない」、「運転させない」というスローガンを掲げ規制する社会運動だが、埼玉県は、2019年4月1日に、県教育委員会が新しい指導要項を施行し撤廃した。
また、同年7月からは、免許を取得した生徒、バイク乗車中の生徒(今まで隠れて乗っていた生徒を含む)を対象とした交通安全講習を開催し12月まで続けられた。第二期となる2020年度も、コロナ禍における感染対策を考慮した上で、8月上旬から12月下旬までの予定で実施されている。
このような埼玉県の新たな試みにより、高校生の日常生活にバイクは何をもたらしたのだろうか。2020年8月24日(月)に埼玉県川越市「東武かすみ自動車教習所」で開催された、「令和2年度 高校生の自動二輪車等の交通安全講習(西部地区)」に参加した生徒たちにインタビューをしてみた。「なぜバイクに乗ったのか? バイクに乗ってどうだったか?」といった質問に対する、高校生たちの率直な答えを紹介しよう。

「電車を使わずにいろんなところに行けるし、楽しいです」
富士見高校3年/武田さん(17歳・男性) 愛車:ホンダCB400SF

Q:なぜ免許を取得し、いつからバイクに乗っていますか?
休みの日にツーリングに行くためと、日常生活でもバイクを使いたいからです。去年(2019年)の5月に普通二輪免許を取って、3か月後に中古のCB400SFを買いました。
Q:バイクに乗ってみてどうですか?
行動範囲が広がって楽しいです。電車を使わずに、いろんなところに行けるようになったので。秩父と芦ヶ久保など、近場へは毎週のようにツーリングに出かけています。バイクは“親ローン”で買ったので、バイク代を返すためにガソリンスタンドでバイトしているんですけど、バイト先にもバイクで通っています。今後は、大型二輪免許も取りたいです。
Q:ご両親はバイクに乗ることを何と言っていますか?
最初は「ダメっ」と言われましたが、(学校から)許可が出るからって言ったら「じゃ、いいんじゃない」って。両親もバイクに乗っていて、バイクを買う時も一緒に行ってもらいました。「乗るんだったら気を付けろよ」って言われています。
Q:交通安全講習を受けてみて、どうでしたか?
実技は楽しかったけど、簡単じゃないものもありました。特に坂道レムニー(勾配がある路面で行う8の字走行)が難しかったです。
Q:三ない運動についてどう思いますか?
そんな風に縛られたくないなって思います。

「もっと早く免許が取れればいいのになって思います」
坂戸高校2年/関口さん(16歳・女性) 愛車:ヤマハVino

Q:なぜ免許を取得し、いつからバイクに乗っていますか?
去年(2019年)の12月に原付免許を取りました。バイクに乗り始めたのは、免許を取ってから1週間後ぐらい。友達のお父さんが乗っていたバイクをもらいました。免許を取った理由は、家から最寄り駅まで15分以上と遠いからです。朝が早くてバスも少ないので、一人で駅まで行けるようにと思って。バイクに乗るまでは、親の車で駅まで送ってもらっていました。
Q:バイクに乗ってみてどうですか?
バスの本数が少ないので、(今まで)ちょっとしたことでは出かけようと思わなかったのですが、バイクだと自分の時間に合わせて行けるし、出かけるのが楽しくなりました。
Q:ご両親はバイクに乗ることを何と言っていますか?
家から駅まで毎日送ってもらっていたので、賛成というよりバイクに乗ることをお願いされました(笑)。「お願い、バイクで行ってよ~」って。
Q:交通安全講習を受けてみて、どうでしたか?
座学の講義で、事故を起こした時や、事故を目撃した時にどういう行動をしなくちゃいけないのかっていうのが勉強になりました。加害者になった時、被害者のことを助けなくちゃいけないっていうことは知っていましたが、具体的にどうすればいいのかということは、わかっていませんでした。講義では実際に(事故現場などで)どうすべきかを教えてもらえて良かったです。
実技では、一本橋が難しかったです。「遠くを見なくちゃ」と思っていても、どうしても手前の方を見てしまい、何回も「ダーン」と落ちちゃいました(笑) その他にも、実技全般が思うように動けなくて、まだまだバイクの操作に慣れてないことを実感しました。
Q:三ない運動についてどう思いますか?
三ない運動のことはよく知らないです。ただ、私は誕生日が12月なんですが、免許を取ってバイクに乗れるようになる(2019年末)まで、ずっとお父さんやお母さんに送り迎えをしてもらっていたので、(当時ご両親にかけた負担などを考えると)もっと早く免許が取れるようになればいいのにな、と思います。例えば、16歳の年(数え年)になっていれば免許が取れるとか。

なお、関口さんは、学校の特例でバイク通学もできるようになった。部活動により帰宅時間が遅くなることを考慮してのことだ。
埼玉県では、三ない運動は撤廃されたものの、バイク通学に関する許可条件は緩和されていない。バイク通学許可地域は、昔からバイク通学が行われてきた秩父地域のほか、県西部のごく一部(飯能市の山間地等)や定時制などに限定されているのが現状だ。
*文中の( )内は編集部注
レポート&写真●田中淳麿 編集●平塚直樹