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「注目は価格だけじゃない!」スズキ ジクサー250は本格ライトウェイトスポーツだ【エンジン編】

ジクサー250最大の注目ポイント、新設計油冷エンジンとはどんな仕組みなのか?

ジクサー250/ジクサーSF250には、スズキがSEP(スズキ・エコ・パフォーマンス)エンジンと呼ぶ新設計の油冷エンジンが搭載されている。
1985年のGSX-R750から始まったスズキの伝統ともいえる「油冷エンジン」だが、2008年にGSX1400が生産終了となることでその系譜は一時途絶えていた。23年間も使い続けた油冷エンジンがラインアップ落ちしたのは、水冷方式の方がエンジンの高出力化に容易に対応できるからだった。

最初の油冷エンジン搭載車GSX-R750(1985年)のエンジン。排気口の間のパイプは冷却後のオイルの循環用

GSX-R750のエンジンのオイル循環系統図。燃焼室の外側へオイルを噴射してヘッドまわりを冷却するほか、別経路からピストンの裏側へオイルを噴射しピストンも冷却する

ジクサー250/ジクサーSF250に搭載される新型油冷エンジン。「油冷」おなじみの細かなフィンがない点に注目してほしい

水冷の冷却水のように、オイルが循環する仕組みとなるSOCS

しかしジクサー250シリーズのようなモデルの場合、さほど高出力化を追求する必要はない。ならば、水冷ではなく油冷でも成立するとスズキは考えたのである。
油冷なら空冷よりも熱保証性や耐久性が高く、部品点数が増えて製造コストが増す傾向にある水冷よりも軽量でシンプルにできる──要は排気量と出力のバランスの問題だ。
年々厳しくなる排出ガス規制に対応するためにも、熱的に安定してよりクリーンな燃焼が得られるエンジンが欲しいのは二輪エンジン共通の課題である。

ジクサー250シリーズのエンジンで採用したのはSOCS(スズキオイルクーリングシステム)という新しい油冷システムである。
従来までのSACS(スズキアドバンスドクーリングシステム)による油冷は燃焼室の上部からエンジンオイルを噴射する仕組みだったのに対し、SOCSでは図のように燃焼室の周囲にオイルジャケットを設け、そこに高い流速でエンジンオイルを循環させる仕組みとなっているのだ。
SOCSの特徴とメリットは以下の5点が挙げられている。※()内は筆者追記。

1.高出力(低フリクション)
2.軽量コンパクト(構造の簡素化)
3.EURO5対応(高い熱的安定性)
4.優れた耐久性(低フリクション+熱的安定性)
5.優れた操作性(エンジンの低重心化とコンパクト化)

エンジンを設計する時に、高出力を追求すればするほど、そのサイズや重量は拡大する傾向にあり、それに比例してコストも増加する。しかし、ジクサー250のような位置付けのモデルなら、そのエンジンにおいて求められる要素を「ほどほどのレベル」で組み合わせ、合理的なエンジンを作ろうと考えた……と言うのが今回のエンジン設計の根底にある。
これをスズキのエンジニアは「ちょうどいい最適化」だと言う。言い換えればジクサー250のような普遍的、あるいは平均的な使われ方をするモデルだからこその新型油冷エンジンなのだ。

「現代のエンジンでもフリクションによって生じるエネルギーの熱的損失は大きく、1000ccスーパースポーツでは40〜60psのいわゆるメカニカルロスがある」とスズキは説明する。40馬力というとおおよそカセットコンロ10個分の熱量に匹敵すると言うから、排出ガスや燃費など環境性能が重視される現代にあって、この点はますます重要になるだろう──。では、この新型SEPエンジンの具体的なフィーチャーはと言うと、油冷システムSOCS、小型シリンダーヘッド、シリンダー連通穴、低フリクションピストンの4つである。

オイル噴射ではない新たな油冷システム「SOCS」

オイルクーラーには冷却ファンが装備されている

ジクサー250「SEP」エンジンのオイルライン図

SOCSは図のように専用のオイルジャケットを設けて燃焼室の周辺を局地的に冷却する方式だが、冷却とエンジン潤滑は別系統としており、少ないオイル量で高い流速が得られて、エア噛みもないという。
オイル通路の内側にはBLB(バウンダリー・レイヤー・ブレーカー)という細かな突起が設けられており、それが流れるオイルに乱流を発生させ、オイルと通路内壁表面に形成された熱境界層を壊すことで冷却効率を向上させている(これはスズキの特許だそうだ)。

またアルミ鋳造シリンダーボディと鋳鉄スリーブの密着性を確保し、熱伝達を向上させるため、スリーブ外周に細かな凹凸を設けたクーパーグリップを採用。十分な容量を持つオイルクーラーには、夏場の渋滞時に有用な冷却ファンが付く。そもそもは日中の気温が45℃になろうかというインドでの使用を考慮したものなので、日本国内でも十分だろう。

そして、軽量コンパクト化にも貢献している。完全にオイルだけで冷却するSOCSでは細かなエンジンフィンが必要だったが、SACSではそれが不要となる分、材料の抑制ができる。また、水冷とは異なりサーモスタットなどは必要ないし、熱交換の触媒としての冷却水1Lが1kgだとすれば、オイル1Lは約700gだ。

小型のシリンダーヘッドとMotoGPマシンのノウハウを生かしたバルブまわり

ピストン表面にはアルトやスイフトといったスズキの四輪車で実績のある「シナジーサークル・テクスチャー・コーティング」が施されている

さらに、シリンダーヘッドを小型化した。ジクサー250シリーズに求められる性能を考えるとDOHC4バルブでなくともエンジン性能は十分に確保できる。したがってOHC4バルブとし、MotoGPマシンで培われたノウハウを投入。コンパクトで低フリクションのバルブまわりを実現した。
こうした取り組みによりジクサー250のエンジンは、前後長でジクサー150と同等、高さはジクサー150よりも低いという驚くほどシンプルで小さいエンジンとなっている。

シリンダーには真円度の確保とピストンによるポンピングロスを抑制するため、左右内壁に各ふたつの穴を設けている(結果的にオイルパンの油面も安定化し、エア噛みが抑制される)。
これに組み合わせるピストンの表面処理は「シナジーサークル・テクスチャー・コーティング」と呼ぶ低摩擦技術を採用。これはアルトやスイフトといったスズキの四輪車で実績のある技術で、最適なピストンクリアランスの実現と、高回転時のオイル引きずりを低減し慴動抵抗を減らす効果がある。
またピストン自体はアルミ鋳造だが、ピストン外側サイドウォール部まで肉抜きし重量の軽減、振動の低減を実現する念の入れようだ。

水とオイルでは比熱が格段に違い、加熱されたオイルは早い時期に温度が安定化するし、冷間時の高い粘性によって(熱伝導が低くなるので)暖気運転時の燃焼性能にも優れることから、排出ガスのクリーン化に寄与する。エンジン各部の熱分布を比較しても、油冷は水冷と空冷の中間にあり、燃焼室温度を高めに安定させることで、十分な出力がありながら燃費が良く、それでいて部品点数の少ない軽量なエンジンを実現したというわけである。
ジクサー250シリーズの走行実験を担当したスズキの開発スタッフいわく「低中速は確保しながらも、7000rpm以上でしっかりパワーを出しておりスポーツ走行が楽しい」とのこと。

高効率で安定した燃焼とコンパクトサイズの両立という点では、この新しい「SEPエンジン」は、二輪車用レシプロエンジンのひとつの理想に近づいたとも言えるだろう。加えて、必要十分な性能を実現しながらシンプルな冷却システムと軽量コンパクトなサイズので、汎用性も高いはずだ。
たとえば、このエンジンを搭載したオフロードバイクはどうだろう。あるいはこれを連結して多気筒化するのはどうなのか──新たな油冷エンジンがもたらす可能性に興味は尽きない。

レポート●関谷守正 写真●岡 拓/スズキ 編集●上野茂岐

追記(3月29日):ジクサーのエンジンは正しくはOHC4バルブでした。訂正のうえ、お詫び申し上げます。

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