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交通違反で争うときに、ドラレコがあると有利?
みなさんのクルマは「ドラレコ」を装備していますか?
カーナビ業界で第2位の地位を誇るパイオニアが実施した調査によると、2022年時点のドラレコ普及率は54.5%に及んだそうです。
万が一の交通事故の際には「どちらに重い過失があったのか?」を証明したり、危険なあおり運転を受けた際の証拠になってテレビやネットで報道されたりと、ドラレコが活躍する機会は多岐にわたります。
では、交通違反について警察側と争うことになった場合も、やはりドラレコがあれば有利なのでしょうか?
基本的には「動かぬ証拠」になると思っていい。
過去、デジカメが普及しはじめて、携帯電話にもカメラが搭載されはじめたころ、さまざまな場面でカンタンに撮影ができるようになったことで「デジタル画像の証拠能力」が問題になりました。
カンタンに撮影できる反面、画像を加工するのも容易なので「デジタル画像では証拠として認められない」として、フィルムに記録する方式の写真・映像しか証拠にできないとされたのです。
とはいえ、カメラのフィルムやビデオテープは需要が激しく減ったことから大手メーカーも次々と製造を終了しているため、デジタル画像を証拠化できる方策が議論されてきました。ドラレコの映像についても、やはりデジタル方式なので「証拠にできない」という意見があるようですが、そもそもドラレコの映像を違和感なく加工するのは困難です。
単に「デジタルだから」というだけでドラレコの証拠能力が否定されるわけではないので、基本的には動かぬ証拠として認められると考えておけばよいでしょう。むしろ、近年ではドラレコの映像こそ重要な証拠として扱われる機会が増えました。ドラレコを装備していたからこそ有利な結果を勝ち取ることができたといった事例も増えています。
ただし、デジタル方式の映像である以上は技術的に難しくても加工は可能です。詳しい解析によって加工が判明すれば証拠の捏造(ねつぞう)として厳しい目を向けられるので、ありのままの状態でないと証拠としては認められません。
不鮮明、画角が悪い、色調がおかしい場合は不採用になるかも。
ドラレコの映像に証拠能力が認められているとしても「ドラレコで撮影していれば勝ち」というわけではありません。
いくら証拠として認められても、自分の主張を証明するだけの力がなければムダです。
画素数が低くて映像が不鮮明だった、カメラ位置の問題で画角が悪く重要な部分が映っていない、色調が悪く実際に見える色とは異なって記録されているといった映像では、証拠として採用されません。
「証拠」の考え方には、証拠として適切に扱ってもよいのかを評価する「証拠能力」と、事実を証明する能力を評価する「証明力」の2つがあります。どんなに有力な情報でも、証拠能力と証明力の両方が備わっていなければ意味がありません。
証拠能力の部分は基本的に問題にならないので、証明力の部分をクリアするためにはせめて購入・装備後に一度は撮影されたドラレコ映像のチェックをしておきましょう。少しでも問題があれば、販売店に相談して調整してもらうことをおすすめします。
自分にとって不利益になることもあると覚えておいたほうがいい。
何度も言うようですが、ドラレコの映像があれば「勝ち」と考えるのは間違いです。
ドラレコがありのままの状況を記録するものである以上は、自分にとっても不利にはたらいてしまう危険があることを覚えておきましょう。
2018年7月、大阪府堺市の路上で後方から追い抜いてきたバイクに激怒した男が執拗に追跡し、時速100キロに近いスピードでクルマをぶつけて死亡させた事故がありました。
この事件は単なる交通事故ではなく殺人罪として起訴され、その後の裁判で懲役16年が確定していますが、決め手となったのは加害者側のドラレコ映像でした。バイクに衝突する瞬間、加害者は「はい、終わり」というきわめて不謹慎な発言をしていたのです。
法廷では「自分の人生が『終わった』という意味だった」と弁明しましたが、裁判官は「そういった心情を吐露したものとは到底考えられない」と評価しました。
こういった事例をみると「自分に不利ならドラレコ映像を提出しない」という考え方も間違いではありません。しかし、ドラレコ映像があるのに提出を拒むと、それはそれで「なにか不都合でもあるの?」という疑いをかけられてしまうでしょう。
決定的な証拠となるのに提出を拒んでいると、裁判所による差し押さえを受けることもあるので、ドラレコは「よくも悪くも証拠が残るもの」だという認識をもたなくてはなりません。
ドラレコを過信してはいけない!
自分に都合がよいふうに考えていると、ドラレコの映像も「自分にとって有利な証拠になる」と過信しがちです。
しかし、ドラレコ映像に事実を証明するほどの力がなかったり、自分にとって不利を招く証拠になったりすることもあります。
しかも、ドラレコの映像をどのように評価するのかは、結局のところ裁判官の判断次第です。裁判官が「証拠として認められない」、「主張する事実を証明するものではない」と判断すれば、ドラレコの映像があっても有利な結果は期待できないと心得ておきましょう。
レポート●鷹橋公宣 写真説明●編集部 写真●キジマ/ミツバサンコーワ/デイトナ/アサヒリサーチ/阿部商会

元警察官・刑事のwebライター。
現職時代は知能犯刑事として勤務。退職後は法律事務所のコンテンツ執筆のほか、noteでは元刑事の経験を活かした役立つ情報などを発信している。