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期日:2023年11月12日(日)
場所:山あげ会館(栃木県那須烏山市)
主催:那須烏山商工会/メグロの聖地那須烏山・(一社)那須烏山市観光協会
後援:那須烏山市
102台の歴代メグロが集結
1924年(大正13年)に創業したかつての老舗二輪車メーカー、目黒製作所。戦前から完成車の製造を始めた同社の創業地は、社名にも入る当時の目黒付近(現在の東急目黒線不動前駅近く)と言われている。
だが、太平洋戦争で戦況が悪化し、都市部にも被害が及び始めた時期の1944年(昭和19)年、生産を継続すべく疎開先として栃木県那須郡烏山町(現・那須烏山市)に工場を移転。戦後は本拠を東京へ戻す一方で、烏山工場でも変速機部分の生産のほか、一部完成車の生産を昭和30年代半ばまで継続。そうした縁もあり、那須烏山は「メグロの城下町」、メグロ製バイクの第二の故郷とも言われた地なのである。
そうした古くからの縁と地元の協力もあり、当地でメグロ製旧車のイベントを2021年に初開催。そして2023年で3回目を迎えたメグロ・キャノンボール那須烏山は、全国のメグロオーナーには周知のイベントとして定着しており、会場となった那須烏山市の「山あげ会館」は、2022年にカワサキモータースから寄贈された大看板の設置後、メグロオーナーだけに留まらない多くのライダーが立ち寄るスポットとして人気となっている。
前日までは寒波の襲来のほか降水の予報もあり、自走での参加を躊躇するライダーも多少いた模様。しかし何とか雨が降らずに済んだ当日は、前年を上回る102台のメグロブランドと約170台の一般車が参加し、地元の住民ら見学者も700人以上が集まる程の大盛況となった。
メグロ製旧車のほとんどは生産から60年以上経っており、その走行性能や維持に苦労は避けられないが、参加者の多くは自走で来場し、驚くほど遠方のナンバープレートも散見された。


開発中の「メグロS1」がサプライズ展示
今回はサプライズ企画として、カワサキモータースからジャパンモビリティショー2023で世界初公開したばかりの「カワサキメグロS1」とメグロ100周年の新作看板が持ち込まれた。当日集まった参加者たちもこの展示には驚いた様子で、手が届くほどの距離に置かれた新型メグロS1に興味津々だった。
筆者はこの新型車が旧車メグロのオーナー達にどう映るかが少し心配だったが、会場では好評価が多く、実際に「良く作り込んである」「安心して乗れそうでいい」「妻に乗らせるかな?」といった声も聞かれた。旧車とは別の意味で、広くメグロS1に対する期待は大きいようだ。
開会式後にはカワサキモータースとのトークショーも行われ、メグロS1に関してはまだ開発途中のため詳細は明かされず「見て想像していただきたい」とのコメントに留まったが、トークショー内ではほかに前年ここでお披露目された1949年製メグロZ型のレストア作業の報告も行われた。
このレストア事業は、那須烏山市商工会工業部会の各社が参加しており、その数は15社にものぼる。今年は新規に製作中のマフラー関連部品やシャーシー等が展示され、旧車マニアの目を引いていた。レストア事業は3年間で計画されているというので、今後も進捗が報告されるだろう。
またZ型の隣りには、兵庫モータースH.M.C号のエンジンも展示された。これは二輪車の生産を始めるより前に目黒製作所が設計したもので、昭和12年(1937年)に製造された自動三輪車用のエンジン。今回初公開の貴重な一品だ。この展示品は目黒製作所の製品としては現存する最古級のもので、戦前製品の現存数は二輪車を含めても数例以下と推測されるため、その歴史的価値は非常に高い。

歴史的希少車から現行車まで、会場がそのままメグロ歴史館に

■静岡県浜松市から参加のスタミナZ7(1956年~ 496ccOHV単気筒)はレストア段階で下地に白いペイントが現れ、元白バイだったことが判明。そこで白バイ仕様の再現を画策。当時の白バイ色への再塗装は難しかったが、浜松市在住で元ライラックの塗装担当者と試行錯誤を繰り返して上手く再現できたと言う。シートも当時と同じ構造でフレームまで新作したダブルシートという力作。

■神奈川県からタンデムで参加したスタミナK1(1960年~ 497ccOHV2気筒)。フロントに付いた旗の「目黒植輪介」とは、古き良きバイクを次の世代に知ってもらい、乗ってゆくことで助け合う活動を行うグループのこと。そのメンバーはSNSなどを使って全国につながっている。

■会場には現代のメグロとして復活したカワサキ メグロK3(2021年〜 773ccOHC2気筒)が31台も集まった。カワサキのプレミアムな1台として、高度な技術が求められる銀鏡塗装のタンクや職人の手仕上げという専用エンブレムを採用するが、それゆえ大量生産ができない。そのようなモデルとしては驚きの集結率だろう。

■当時のままの未再生原型といった姿で展示されていたメグロ ジュニアS8(1963年~ 248ccOHV単気筒)。1960年代後半から1970年代にかけては、このような古びたメグロが全国の解体屋などで見かけることができた。

■トラックに積まれて参加のこの車両は1953年型のヒカリ号(大日本機械工業製)。同車は戦前の川崎重工の流れをくむ高槻工場で製作されたOHV150cc単気筒エンジンを搭載している。この時代のカワサキはエンジン供給のみを行っていたが、現存する実車は極めて珍しい。

■イベント前週までジャパンモビリティショー2023で展示されていたメグロ100周年の看板の前には、レストア事業が行われている1949年製Z型の車体と部品類が展示された。

■Z型の再生で新作されたマフラーは5軸マシニングセンタを用い、鉄のブロックを両面から削り出した金型で厚さ0.8mmに仕上げられたもの。その左右ピースを腕の立つ溶接職人が見事に合わせて完成させた。

■有名なメグロコレクター、故・榎本功氏所蔵の目黒製作所製H.M.Cエンジンとその関連部品が初めて公開された。エンジンは戦前、兵庫モータース製作所のH.M.C号に搭載されていた物の生き残りだ。

■エンジンは水冷のV型2気筒750cc。冷却は水温の温度差により循環させる自然循環式で、ウォーターポンプを持たない。シリンダーブロックには目黒製作所のMWマークの他に、製造年の1937の刻印も打たれている。
地元の支援も熱いメグロ保存活動
トークショー終了後は、この日のメインイベントともいえる、市内周遊のパレードランが行われた。コースは那珂川に架かる橋を4回も渡り、秋の景色を楽しめるもの。このパレードランにはメグロを先頭グループに、約180台のライダーが参加。経路の要所には地元ボランティアの誘導員が立つので、信号などで列が切れても不安なくコースを走れる。同時に市内では住民が手を振って声援を送るので、参加者達の多くが「気温は低かったが心温まった」と語っていた。
筆者はこれまで数多くのバイクイベントを見ているが、このメグロ・キャノンボール那須烏山は4つの理由から異色のイベントと言える。
その第一に、戦前にルーツを持つ伝統の国産ブランド「メグロ」に多くのファンが存在すること。
第二に戦時中の疎開が理由とはいえ、この地で工場が稼働し現在もその敷地が残っていること。
第三に、2020年にカワサキモータースからメグロブランド復活が宣言され、このイベントとの協力関係が構築されていること。
最後に主催や後援が地元の商工会や観光協会と那須烏山市で、更にアマチュアの実行委員会が活動している点である。このようにユーザーからメーカー、行政までが密着して連携している姿勢は、国内イベントでも極わずかしかない。
2023年のメグロ・キャノンボール那須烏山は天候の影響を受けながらも大盛況に終わり、主催者は来年への意気込みも上がる。2024年は目黒製作所創立100周年の特別な年であり、カワサキからはメグロS1が発売されている可能性もある。参加者からの支持も高いこのイベントは、来年のさらなる盛り上がりが今から約束されているのだ。







レポート&写真●上屋 博
追記2023年11月28日:実行委員長の氏名を誤って表記しており、修正を行いました。正しくは山田佳之さんとなります。
(一社)那須烏山市観光協会 栃木県那須烏山市金井2-5-26
TEL0287-84-1977
メグロの聖地 那須烏山ウェブサイト
https://meguro-nasukarasuyama.com/