2019年末、川崎重工グループのカワサキモータースヨーロッパがイタリアの名門ブランド「ビモータ」と合弁会社を設立、ビモータブランドの再生を支援するとともに、ビモータブランドでマシンの共同開発を行っていくことが発表された。
かつて、ビモータはカワサキのエンジンを搭載した「KBシリーズ」など“コラボレーション”を行った縁があるが、カワサキ車をベースとしたスペシャルマシンとして忘れてはいけないのが、「ゴディエジュヌー・パフォーマンスレプリカ1135R」である。
ベースとなったのはカワサキZ1000J。ヨーロッパ耐久チャンピオンとなった名選手が開発を行い、世界耐久チャンピオンマシンのレプリカとして誕生したマシンだ。
生産台数は少なく、現在も高価な値がつくことも珍しくないが、一体どんなバイクだったのか? 1984年に別冊モーターサイクリスト誌で行った新車時の試乗&解説レポートを紹介したい。
カワサキZ1000Jベース、耐久レーサーの公道版

日本製エンジンを、特製のフレームに搭載したスペシャルバイクが、ここ数年輸入されている。ビモータ、エグリ、モトマーチンなどがそれで、いずれも戦闘的な走りを予感させる個性豊かな外観を特徴としている。
しかし、今回試乗のゴディエ・ジュヌー社製パフォーマンスレプリカ1135Rは、そうしたスペシャルバイクとはちょっと違うムードをもっている。外観は国産スーパースポーツよりも、むしろ刺激が少ないほどに抑えられているのだ。
カワサキZ1000Jをベースとし、カウリングやシートなどを耐久レーサーと似た形状のものにかえただけ、といった外観である。フレームもノーマルベース。大改造車というイメージはなく、このまま日本のメーカーが市販したとしてもおかしくない仕上がりだ。もちろん、日本のメーカーが量産ベースでは使えないような高価なブランドのパーツが随所に見られる。しかし、それらはトータルバランスを考えたうえでの組み合わせである。
よくある改造車の、パーツ1点豪華主義が生む「ネコに小判」的なムダ、おまけに性能低下、という矛盾が、この1135Rにはないということだ。スタイルと機能の接点をほどよいところに設定し、一般市販車並みの乗りやすさを確保している。

なにしろこれを造ったのは、1974年、1975年ヨーロッパ耐久チャンピオンとなった名コンビ、ゴディエとジュヌーなのだ。1975年にこのふたりはゴディエ・ジュヌー社を設立し、1978年でレースを引退、本格的にマシン造りを始めている。友人関係にあるM・ロセはパフォーマンス社のマネージャーであり、カワサキの耐久レース活動を請け負っていて、1979年に設立したパフォーマンスのカワサキチームを1981、1982年の世界耐久チャンピオンへ導いた。
この両者の関係から生まれたのがこの1135Rであり、レースで得られたノウハウが十分に生かされた造りなのだ。
車体まわりでは、高強度のアルミスイングアームが採用されているのが目を引く。コニー製のリヤショックは大きくレイダウンマウント。フロントフォークはインナーチューブ径38mmのカヤバ(ノーマル同様)で、フェンダーのマウントを兼ねたスタビライザーが付けられている。
ホイールはカンパニョーロの5本足キャスト。タイヤはミシュランで、フロントにA48(100/90V18)、リヤにM48(130/80V18)。フロントブレーキはブレンボの鋳鉄ディスク(300mm径)とキャリパー、ノーマルのマスターシリンダーの組み合わせ。リヤはノーマルだ。


102馬力のZ1000Jに対し、パフォーマンスレプリカ1135Rは120馬力に
エンジンも強化されている。ノーマルのZ1000Jはボア・ストローク69.4×66mmで、排気量998ccだが、これを4.6mmボアアップして排気量を1135ccとしている。ピストンはエリートモーター製だ。圧縮比9.2、気化器BS34はノーマルのままで、デビルの4in1マフラーを装着。
こうして最大出力はノーマルの102馬力/8500回転から、120馬力/8500回転へと大幅にアップされた。オイルクーラーは耐久レーサーと同様に、デュアルヘッドライトの上に付けられている。これは走行風によるシリンダー冷却を妨げないように考慮されたものだろう。リヤスプロケットはアルミで、ドライブチェーンはOリングでシールされたEK60Sだった。


※当記事は『別冊モーターサイクリスト』1984年3月号の記事を再構成したものです。
(試乗レポーター●大光明克征 写真●金上 学 編集●上野茂岐)
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