’70〜80年代中盤にカワサキのフラッグシップを務めた空冷Zシリーズは、大別すると、1:’73〜80年型の前期(Z1とその直系子孫であるZ900、Z1000(A)、Z1000MkⅡ、Z1-R/Ⅱなど)、2:’81〜85年型の後期(Z1000(J)とZ1100GPが同時期にデビューし、後にZ1000RやZ1100Rなど)、3:GPz1100(’83〜85年型)の3種に分類できる。
この中で当企画がスポットを当てるのは、“J”という形式名称が与えられた第二世代のZ1000である。
ほかのZシリーズと比較すると少々地味な感が否めないこのモデルに、あえて今、注目してみることにする。
空冷DOHCフォアというエンジン形式こそ同様ながら、今回紹介する3台が目指す方向性は明らかに異なるが、先代を尊重しながらも進化を遂げるその姿は、温故知新にあふれている。
それでは、実車に触れながらそれを明らかにしていこう。
※本記事は別冊Motorcyclist2009年12月号に掲載されていたものを再編集しています。
空冷Zの総決算
Z1の衝撃的なデビューの影に隠れ、第2世代空冷Zの幕開けだったZ1000J系(’81〜)の存在感は、日本では案外薄い。
ライムグリーンに角タンク、ビキニカウルの限定モデルZ1000R(’82ローソン・レプリカ)の引き立て役のようでもあり、当時のAMAスーパーバイクのレースベース車といった紹介のされ方が多いことも、そんな印象を強くしているのだろうか。
また、後に控える水冷ユニットの存在もちらつき、後期Zといったところでモデルライフは’85年まで(’05年まで続いたZ1000Pは例外)と短命だったことも大きい。
ところが、である。乗ってみればZ1000J系は、これが空冷Zの総決算なのだなぁと感心させるモデルだったことに、改めて目を見開かされた思いである。
往年のCB750Fourなどと同様に、空冷Zの魅力は、2000〜4000rpmといった低中回転にある。
現代の直4エンジンのようなシュンとした鋭い回転上昇感もない代わりに、スロットルを開けて多少のタイムラグがあった後、右手のひねりにじわりと追従する少しザラッとした回転感(これが重厚な頼もしい感触に思えるのだ)が立ち上がる。
またその回転上昇には、ズオーッともクゥオーンともつかない重厚で心地よいサウンドが常に伴っている。
かようなフィーリングを味わわせる最後の世代が今回のZ1000J系なのだと思うが、その最後世代には、きちんとした熟成があったのである。
バランスのよいほどほど感
機関好調な試乗車は北米仕様の丸タンクを持つ渋い色のJ2。Z1の火の玉やイエローボールといった鮮烈な色目や、フロントからテールに至る色気のあるフォルムにはかなわない。
だが、同様にどうという特徴のない2本出しのSTDメッキマフラーから吐き出される音は、まさしくZである。
適度な重さのクラッチをミートして走り出すと、まずはZ1よりはるかに気軽なスロットル操作に気づく。
遊びと引き代が少ない上に軽く、スロットルに対するエンジンの反応もZ1より従順で速い(負圧式ミクニBSキャブレターの恩恵も大きいだろう)。
2000〜4000rpmの大まかなフィーリングはZ1系と共通ながらひと回り軽く、Z1では振動もジワジワと出始まる4000rpm以上という回転域を、Z1000J系はすんなりと超えて5000、6000rpmと上り詰めていく。
咆哮(ほうこう)とともに振動も増えて回転感も苦しげになってくる初代Z1(ただし、試乗車自体のコンディションはとてもよかった)に対し、この軽やかさと従順さのある回転感は、これまで空冷Z系をひとくくりに考えてきた印象を大いに改めさせられた。
そんなエンジンを抱える車体は、それまでのリジッドから、前2ヵ所をラバーマウントに変更していたり、ほかにステアリングヘッド周辺には武骨な補強用鋼板ガセットが溶接されている。
そこに元祖Z1のような見た目の端麗さはないが、エンジン内部の振動低減や内部の軽量化と、前述の見直しでフレーム自体も軽量化したことが、振動にためらう必要のない走りを楽しませてくれる。
フレームの剛性とさほど融通性の高くないサスペンションの動きが混ぜ合わさったようなZ1の挙動に対し、Z1000J系は一段上のフレーム剛性を確保しているようで、STDの柔らかめのサスから伝わる挙動が明瞭になっている。
Z1が前述のように車体&サスが混在して「ドスッ」と受け止める凹凸の挙動などを、「ストッ」と前後サスでいなしている具合が分かるのだ。
そしてエンジンレスポンスの軽さと車体の軽さが結びつき、旧車とくくるにはもったいないような、ツーリングスポーツバイクとしてのバランスのよい性能を見せる。
それはさしづめ現代のビッグネイキッドの気軽さとH・Dスポーツスターのように峠道にハマる適度な手応えのハンドリングの、良好なブレンドに思えるほどだ。
現代のような、レスポンス重視が主流となっている国産直4エンジンとコンパクト化が進む車体の中にあって、今さらこういうエンジンフィールと適度に手応えのある重厚なハンドリングを作ってほしいと言ってみたところで、多分無理だろう。
だが、そうであればこそ、空冷直4最後の重厚感に気軽さをちょいとまぶしたエンジンと、コンベンショナルな車体のほどほど具合が醸す、このZ1000J系のスポーツぶりが際立つ。
そうして、私はこのほどほどぶりが際立つ年代車に引き込まれ、またも時代の進化に逆行するバイク観に覚醒されてしまいそう。そんな記憶に残る試乗だった。
1981〜 KZ1000-J
オーナー●八幡雄一 車両協力●アサカワスピード
勝利のため、各部を見直した改良型
’70年代も後半になるとスズキGS1000、ホンダCB900Fなど他社勢がZの牙城を崩し始め、これに対応する形で’81年に投入されたのが新型Z1000(J)および上位機種のZ1100GPである。
新設計エンジンはキックシャフトやカムシャフト間のアイドラーギヤを省略、フレームも補強入りの新型で前側2点をラバーマウントとし、乾燥重量はZ1000MKⅡの245㎏→230㎏へと15㎏も軽量化された。
世界耐久やAMA-SBなどレースでも勝利を重ね、同じ空冷2バルブでもZ1系とは一線を画するモデルと言える。
↑取材車は北米向けの’82年型J2。
前輪19/後輪18インチ、リヤ2本ショックなどの基本的な車体構成はZ1〜MKⅡ時代から不変だが、キャスター/トレール、軸距の数値は安定成分が増やされている。
スタイリング各部は丸と角の混在したデザイン処理が特徴。
↑心臓部は排気量が998㏄、ボア×ストロークは69.4×66.0㎜として当時のレース規定に対応。
キャブレターも新たに負圧式のミクニBS34に。
キックシャフトを省略、カムチェーンもローラーからサイレント式へと変更されたが、クランクはZ1〜MKⅡ同様の組み立て式を踏襲。
↑丸形二眼式メーターは全世界共通(速度表示は異なる)で、中央に燃料計を配置。警告灯類は文字盤内に、距離計とメインスイッチは下部のボックスにまとめられている。
フロントフォークは従来の36から38㎜径となり、頭頂部にエアバルブを介した調整式だ。
なお’83年型J3ではメーターケースが角型の一体式に改められた。
↑キャストホイールに組み合わされるタイヤはチューブレス式が標準。
不等ピッチの穴あき270㎜径ダブルディスクは従来より小径だが軽量化に寄与、キャリパーは片押し1ポットが採用された。
なおフォークオフセット量はJ1が60㎜、J2以降では50㎜となった。
↑18インチの後輪に備えられたブレーキディスクも前輪と同径の270㎜で、レイダウンされたリヤショックもプリロード7段/伸び側5段の調整式となった(Z1はプリロード5段のみ)。
2本出しマフラーはZ1100GPがブラック仕上げなのに対し、Jではクロームメッキ仕上げ。
↑シートは従来のヒンジ開閉式から脱着式となり、その下にエアクリーナー、バッテリー、工具を配置するのは従来どおり。
本来はテールカウルに書類ケースを内蔵している。Z1-RやMKⅡでは装着されなかった、テールカウルをまたぐ形状のグラブバーも復活した。
Z1000-Jの燃料タンクは北米仕様がティアドロップタンク、欧州や他の地域では角型タンクと、仕向け地により形状が異なるが容量はどちらも21.4ℓ。
北米仕様はハンドルが高く幅広でステップ位置も前方となるが、’83年型で欧州仕様に準じて一本化された。
KZ1000-J2(1982年型北米仕様)主要諸元
●エンジン 空冷4サイクル並列4気筒DOHC2バルブ ボア・ストローク69.4×66.0㎜ 総排気量998㏄ 圧縮比9.2 燃料供給装置BS34キャブレター 点火方式トランジスタ 始動方式セル
●性能 最高出力102hp/8500rpm 最大トルク9.3kg-m/7000rpm
●変速機 5段リターン 変速比①2.642 ②1.833 ③1.428 ④1.173 ⑤1.040 一次減速比1.732 二次減速比2.733
●寸法・重量 全長2240 全幅845 全高1145 軸距1520 最低地上高140 シート高805(各㎜) キャスター27.5° トレール99㎜ タイヤサイズF3.25V-19 R4.25V-18 乾燥重量230㎏
●容量 燃料タンク21.4ℓ オイル3.7ℓ
※本機の正式な車名は北米仕様が「KZ1000」それ以外の地域は「Z1000」だが、従前型と区別するため、末尾に型式名のJを付すのが一般的であり、本誌もそれに倣っている。
旧車からスーパースポーツまで整備やチューニングを手がける
試乗車は近年逆輸入された程度良のKZ1000Jだが、齢を経た車両なので各部が劣化しているのは当然のこと。
それを最良の状態にまで整備したのが本誌でおなじみの浅川邦夫さん(元ヨシムラ)が代表を務めるアサカワスピードだ。
チューニングも大得意の同店だが、基本はAS30という整備徹底メニュー。
新車旧車分け隔てなく各部にきっちり手を入れてくれるのが魅力だ。
なお、AS30のチェックメニュー一覧はホームページに詳しい。
アサカワスピード
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TEL:045-961-9622 http://www.asakawaspeed.com