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和歌山利宏が、20年を経た「ZZ-R」を比較する。
得たもの、そして失ったもの。
同じ“ゼットゼットアール”を名乗るだけあり、この2台には明らかな相似性が感じられる。
しかし、’90年代のZZ-Rが秘めていたバランスは現行のZZRでは、わずかながらも確実に変質していた。
文●和歌山利宏 写真●真弓悟史
※本記事は別冊Motorcyclist2011年9月号に掲載されていたものを再編集しています。
最速でいて等身大
ZZ-R1100は名車だと思う。
その名車たるゆえんを考えるにあたっては、まず1990年の誕生に至る時代背景を振り返ってみたい。
1980年代後半は、レーシングマシンが今日的な形態へと進化しただけでなく、レプリカモデルが市販車として登場。
国内のバイクブームとバブル経済に乗じ、レーサーレプリカが毎年のようにフルチェンジされ、技術的にも今日のスーパースポーツの基礎を築いた時代でもあった。
そんな時代、カワサキは旗艦モデルを、’84年に登場したGPZ900Rニンジャをベースに、’86年のGPZ1000RX、’88年のZX-10を経て’90年のZZ-R1100(C)、そして’93年型ZZ-R1100(D)へと進化させていった。
ねらいは彼らの考える大型バイクの理想形であり、ハイスピードツアラーと言っていいだろうか。技術的には、ZX-10でエンジンをダウンドラフト吸気化し、ZZ-R(C)でラムエアインテークを採用、フレームは1000RXの角型鋼管ダブルクレードルからZX-10でアルミ押し出し材製ツインスパー、ZZ-R(D)でプレス成型ツインスパーへと進化、空力面でも進歩を見せ、レーサーレプリカに準じた技術が投入されてきた。
ここで注目すべきは、サーキット性能向上のための技術が、公道での性能向上に生かされてきたことである。
常にその時点の最強出力と最速性能を誇示しながら、「単車は使ってナンボ」という実用性を第一義としたのだ。
その結果、ZZ-Rは、怒涛(どとう)の最速性能やスポーティなハンドリング性能と、街中での用足しにも使えそうな扱いやすさと実用性が融合した、希有な一台となったのである。
147psという最高出力もさることながら、力強い中高回転域トルクを生かして超高速域へワープしていく迫力や、コーナリングを楽しめる一方で、マシンに最も愛着が沸く場面は、意外や、街中の路地裏でのことだったりする。
押し出しの効く存在感を備え、大型車ならではのパフォーマンスを堪能しながらも、自分の手中に収められる対象であることに、ホロッときてしまう。ZZ-R1100はそんなバランスを秘めていた。

試乗車はZZ-R・C型の最終モデルとなる’92年のC3(C型の弱点と言われる2速ギヤが強化されている)で、ほぼノーマル状態を保つ車両
今日、乗っても、そのことに変わりはなく、当時の感動がよみがえる。
ただ、最新モデルに馴染んでいる今の自分には、覚えている感覚以上に、車体を低くて長いように感じ、ハンドリングも鈍重だ。
現行モデルなら純然たるツアラーでも、コーナリング性能はこれに勝るだろう。でも、ワインディングロードを安全の範囲内で走り、走りを楽しむには十分である。
悪く言えば、低い速度域で悪戦苦闘していることになろうが、速く走ることが目的でなければ、これは悪いことばかりでなく、むしろ好ましいのではないだろうか。
2000rpm過ぎでのゴリッとした振動感が力強さを演出し、3000~4000rpmでスポーティにコーナーを流すことができる。
そして、日常域で性能を楽しみながらも、7000rpm前後からの加速では、気合を入れて非日常域に突入。
ただ、この醍醐味は現在の基準からすると、低い速度域で体験できることになる。
日常域と非日常域の境界が’90年代のバイクでは低くにあるのだが、むしろそれは人間にとって等身大だと思えてくる。
軸足の置き場所
これに対し、ZZR1400は、紛れもなく現在のバイクである。今の目でZZ-R1100を古いと感じた部分は見事に払拭されている。

●1400はカワサキから借用した広報車両だ
そのうえ、1400が1100の正常進化形であることにも感心させられる。
おそらく1400の開発においては、名車1100を傍らに置き、ZZ-Rらしさをそのままに、現在的に高水準化させようとしたに違いない。
ZX-12Rでは不評だったバックボーンモノコックフレームも見事に問題を克服、1400ccの排気量をかつての1100の大きさにパッケージングすることにも成功している。
またがれば、ZZR1400がZZ-Rそのものであることに気付くはずである。
ライポジは今風にコンパクトかつ前傾していても、低く前方にあるハンドルに手を伸ばすコンチネンタルスタイルはそのままで、現在の大型車の水準からすると足着き性も悪くない。1100のように車体を低く長く感じることがなく、それでいて落ち着きのある重量感が伝わる。
そうした第一印象の変化もあって、コーナリング性能は明らかに高い。
1100よりも高位置にある重心がリーンに伴う横移動に応じて、忠実に曲がる。
低中回転域のトルク感も、1100でのZZ-Rらしさそのものだ。
1100よりトルクフルに感じないのは、扱いやすく、ハンドリング性能も高水準化しているからだろうか。ワインディングを走っていると、1100よりも1000rpm程度常用回転数が高いが、その分、コーナリング速度も高まっている。
中高回転域の怒とうのトルク感が魅力のエンジン特性もZZ-Rらしさを受け継ぐが、1100よりも明らかに強力でワイドレンジである。
1100で非日常域へワープする速度域は1400ではあたかも日常域で、より速く走りたいという人間の欲望を満たしてくれる。
また、1100の美点である低シート高、低重心、十分なハンドル切れ角がもたらす良好な取り回し性も、近い水準にある。
しかるに1400が悪かろうはずがない。

●ZZ- R1100のライポジは、前方、低くにあるハンドルに手を伸ばすコンチネンタルスタイルだが、昨今のモデルに慣れた感覚からすると、ハンドル位置は決して低くない。ZZR1400もライポジは同種のものであるが、1100よりもハンドルは近くて低めだ。前傾度を高めながら快適性を保っており、それは現在のすべてのカテゴリーに共通する傾向でもある
では、1100は単に古いバイクなのか。いや、決してそんなことはない。
実は今回、ZZR1100から再認識させられたのは、’90年代のバイクでは軸足がしっかり日常域に置かれていたことだ。
街中で使うことが大前提にあり、そのうえで非日常域へ誘ってくれる。それからすると、現在のバイクは非日常域の魅力が取り沙汰された結果、ZZR1400がそうであるように、かつてよりも軸足が非日常域寄りに置かれるきらいがある。
確かに、1400の取り回し性は1100と同水準にある。
が、足着き性も低重心感もハンドル切れ角も1100よりは微妙に劣り、それらの違いは全体に意外なほど大きく影響を及ぼしている。
1100のそれは20年以上前に軸足を日常域に置くために必要とみなされたものであって、わずかながらもそれらを犠牲にしていることが、ひとつに決定的な違いになっていると思えてならない。
技術的に高度化しながらも、軸足が日常域にあって、等身大で付き合えた’90年代のバイクに対して、現在のものは、大きく速くなり、非日常域の楽しみを追求している。バイクはもっと人間に近い乗り物であるべきだと、新旧ZZ-Rは教えてくれる。
ZZ-R1100(C3)主要諸元
●エンジン:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク76×58㎜ 総排気量1052㎠(cc) 圧縮比11 燃料供給装置キャブレター 点火方式トランジスタ 始動方式セル
●性能:最高出力147ps/10500rpm 最大トルク11.2kgm/8500pm
●変速機:6速リターン 変速比①2.800 ②2.000 ③1.590 ④1.333 ⑤1.153 ⑥1.035 一次減速比1.637 二次減速比2.647
●寸法・重量:全長2165 全幅720 全高1210 軸距1480 シート高780(各㎜) キャスター26° トレール103mm タイヤF120/70R17 R170/60R17 乾燥重量228㎏
●容量:燃料タンク21L オイル3.5L
ZZR1400 主要諸元(試乗車型式)
●エンジン:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク84×61㎜ 総排気量1352㎠(cc) 圧縮比12 燃料供給装置デジタルフューエルインジェクション 点火方式トランジスタ 始動方式セル
●性能:最高出力140kW(190ps)/9000rpm 最大トルク154Nm(15.7kgm)/7500pm
●変速機:6速リターン 変速比①2.625 ②1.947 ③1.545 ④1.333 ⑤1.154 ⑥1.036 一次減速比1.556 二次減速比2.412
●寸法・重量:全長2170 全幅760 全高1170 軸距1460 シート高800(各㎜) キャスター23° トレール94mm タイヤF120/70ZR17 R190/50ZR17 乾燥重量220㎏
●容量:燃料タンク22L オイル4.5L
●車体色:キャンディライムグリーン×エボニー/エボニー