今年のモーターショーでスズキが発表したジクサー250/SF250が注目される理由のひとつが、“油冷エンジン”を採用した、ということだろう。
油冷エンジンとは読んで字のごとく油(=潤滑用のエンジンオイル)を用いた冷却方式を採用したエンジン。高出力化と軽量化、低コスト化を目的に、第二次世界大戦時の戦闘機に採用されていた「液冷エンジン」から着想を得て開発されたものだ。
’84年にケルンショーで発表されたGSX-R750に初搭載されて以降、’01年に発売されたGSX1400(’08年に生産終了)まで、様々な車両に採用されたスズキ伝統のエンジンである。
今回復活した冷却システムが旧来方式とは全くの別物。ということは先日の速報にてお伝えさせて頂いたが、今回はその中身について、もう少し詳しくお伝えしよう。
スズキのお家芸「油冷エンジン」の原点、SACSとは?
本題に入る前に、’85年のGSX-Rから採用された油冷システムSACS(Suzuki Advanced Cooling System)についても少しだけ紹介しよう。
まず、潤滑/冷却の機能を兼ね備えたたオイルポンプから、ヘッドカバーへとオイルを圧送する。それがヘッド側のノズルを経由して、燃焼室の外側へと噴射されヘッド周りを冷やす。同時に別経路からピストンの裏側へオイルをジェット噴射し、ピストンを冷却する、というもの。
一方でシリンダーに関してはウォータージャケット(冷却経路)を設けることも検討されたものの、ヘッド周辺の冷却効果が想像以上に高く、空冷のままで十分との結論がでたため、従来より狭いピッチのフィンが切られる程度に留まっている(これは軽量化とデザインの斬新さを狙ったもの)。
つまるところ、シリンダーヘッドとピストンをオイルで、シリンダーを走行時の流速で冷やすため、厳密に言えば、空油冷というのが正しいのかもしれない。
復活の油冷エンジン、SOCSは従来方式となにが違う?
そしてSACSから進化したのが、今回ジクサーに搭載された新型油冷エンジンが採用している冷却システムのSOCS(Suzuki Oil Cooling System)だ。
SOCSは従来のようにオイルを噴射して冷やすのではなく、シリンダーヘッドまわりを中心に冷却回路(オイルジャケット)を這わせ、そこをオイルが通ることでエンジンを冷やしている。
実は’85年にもウォータージャケットにオイルを流すことが検討されたが、当時の設計では冷却面積が確保できずお蔵入りになったという経緯があるが、SOCSはその弱点を克服し従来方式と比較して約30倍の冷却面積を確保。さらに放熱面積が増えたことで、空冷フィンがなくとも全体を冷やすことが可能となった。また、オイルクーラーには電動ファンを備え、渋滞路や昨年のような酷暑下であっても油温を下げることができる(余談ながら、歴代油冷車で電動ファンを持つのはGSX1400のみ)。
なお、SACSで採用していたピストンの裏側からの冷却も当然採用している。が、同技法が画期的だったのは昔の話で、現在はすべてのエンジンに普通に使われているものとのこと。
ちなみに冷却方式以外の点で言えば、ローラーベアリングロッカーや、同社製軽自動車エンジンで採用しているピストンのプリントパターンも採用している。燃焼効率の向上やフリクションロスを低減させており、パワーを落とさずに低燃費を実現したSEP(Suzuki Eco Performance)エンジンとなっているのである。
なお、同エンジンを搭載したジクサー250/ジクサーSF250は’20年春の発売が見込まれている。油冷車再興のときはそう遠くはないだろう。