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ホンダEV戦略が生んだ電動モーターサイクルをテスト!【ホンダ WN7】海外試乗記・後編

2026年の大阪・東京モーターサイクルショーに参考出品されたホンダの電動バイク、WN7。第102回箱根駅伝では先導用の白バイとして使用され、注目を浴びたモデルである。そんなWN7はいったいどういう車両なのか、イギリス人モーターサイクルジャーナリストでマン島TT参戦などレース経験も豊富なアダム・チャイルド氏が、スペインでの試乗インプレッションをレポートする。

※本文で言及されている周辺事情はヨーロッパのものです。充電規格などは日本国内とは異なります。

【前編はこちら】

市街地を機敏に走れるハンドリング

WN7は、走り始めはほかの電動モーターサイクルと同様に少々違和感を覚える。例えば、最初の信号待ちでは、存在しないクラッチレバーを握ろうとしたり、加速しながらエアギターを弾くようにシフトアップ操作をしてしまった。しかし、すぐに慣れて自然に操作できるようになる。まるでエンジン音のないマキシスクーターのようだ。

市街地走行のテストを行うアダム・チャイルド氏。

5インチのTFTディスプレイは操作が簡単で、複数の表示オプションが用意されている。バッテリー残量表示は識別しやすく、残りの走行可能距離を表示することもできる。走行モードはスロットルを閉じた状態でイーコン(ECON)、レイン、スタンダード、スポーツの4つを切り替えられるほか、アプリリア製バイクのトラクションコントロール用パドルに似た左スイッチボックスのトリガーで、停車せずに回生ブレーキのレベルを調整できる。

5インチTFTディスプレイの中央部に速度を表示。その下には現在のライディングモード(写真ではイーコン)が表示される。回生ブレーキの減速度は左上の下向き矢印の数で表示される(写真では減速ゼロの状態で、オレンジ色に表示されている)。
回生ブレーキの減速度を下げるときに使う「R/-」スイッチ。反対側上方にある「F/+」スイッチでは減速度を上げるときに使用する。またこれらのスイッチは、停車時に長押しすると微速後退/前進モードを起動することができる(WN7試乗記前編参照)。

スペインのラッシュアワーの交通渋滞の中を数マイル走るとようやくWN7に慣れてきて、ディスプレイの画面よりも、周囲のテンパった通勤車両の動きに集中力を割けるようになった。WN7は低重心(ホンダの現行モデルの中で最も低い)なので、低速走行時のバランスが非常に優れている。車両重量は217kgで、同社のアドベンチャーモデル、XL750トランザルプより数kg重いだけであり、電動モーターサイクルとしては比較的軽量である。低速走行時の動きからカタログ車重がどれほどか予想して当てることは、不可能だろう。

重心高を抑えるため、前後分割形態のフレームレスシャーシを採用することでシートからピボットブラケットをスリムに設計している。

レインモードとイーコンモードではスロットルレスポンスは穏やかで、スタンダードモードではややシャープになるが、過度に敏感すぎたり、扱いにくかったりすることはない。初心者ライダーは、特にその軽さと走行時の安定性の高さから、WN7の使いやすさを気に入るはずだ。

シート高は800mm。日常での扱いやすさを考慮して、ホイールベースは1480mm、ハンドル切れ角は35°に設定されている。最低地上高は139mm。

WN7は、街なかではほぼ無音で走行する。ホンダはこれを実現するために、従来のチェーン駆動ではなく、ベルト駆動を意図的に採用している。ICE(内燃機関)車では、排気音やエンジン音によって周囲の音やロードノイズはある程度かき消されるが、電動モーターサイクルでは他の道路利用者の存在をより意識するようになり、歩行者の会話や、荒っぽい運転で走るタクシーのエンジン音なども聞こえてくる。周囲の状況をより意識するようになるのだ。

私はこれまで多くの電動モーターサイクルに乗ってきたが、それらでは市街地にある速度抑制用の凸凹道を通過する際などに、チェーンがスイングアームに当たる音が必ずと言っていいほど聞こえたものだ。しかし、WN7はそういった音をたてることが一切ない。凸凹の路面や荒れた路面でもほとんど音がせず、その品質の高さを実感させてくれる。

WN7の水冷モーターの軸は車両右側に出ているが、そこから3つのギヤとシャフトを介して左側のベルトドライブに駆動力を伝えている。動力伝達用ギヤには、静粛性を重視してヘリカルギヤ(はす歯歯車)を使用。

各ライディングモードにはそれぞれ異なるレベルの回生ブレーキが設定されているのも面白い点だ。例えば、イーコンモードではスロットルを閉じたときの減速力が高いが、レインモードは低くなる。その違いははっきりと体感できる。

さらに、回生ブレーキの設定は左側スイッチボックスにあるパドルを使って変更したり調整したりできる。例えば、赤信号を確認して減速する際に、パドル操作で回生ブレーキを強化して、まるでシフトダウンをしてエンジンブレーキを利用するように、制動行為を効率化できるのだ。これはブレーキディスク&パッドの使用量を減らすだけでなく、バ​​ッテリーへの電力供給にもつながる。最初は違和感があるかもしれないが、慣れてしまえば回生ブレーキをギヤボックスのように使うことが可能だ。ただし、感覚的には似ているものの、回生ブレーキの減速力はシフトダウンほど強くない。街なかの急な下り坂で回生ブレーキを強めていくとどのくらい減速力を発揮するのか試してみたが、ギヤつきバイクで3速から1速に落としたときほどの減速力はなく、5速から4速に落としたくらいの感じだった。なお、回生ブレーキを弱くしていく場合は、通常のバイクでクラッチレバーを握って空走しているときのような感覚に近づいていく。

市街地走行の後は郊外へ……。

加速は力強く、コーナリングも自然

ありがたいことに、今回のテストでは市街地だけではなく、高速道路や急なアップダウンのある二車線道路も走行できた。それらのシチュエーションではWN7は力不足になるのではないかと予想していたが、意外な性能に驚かされることとなった。初めてスポーツモードを選択してスロットルを全開にすると、軽く曲げていた腕が伸びるほどの加速力が生じ、一瞬意識を持っていかれたのである。ホンダはWN7の加速力は同社のCB500ホーネットよりわずかに速いと主張している(0→50km/h加速は3.9秒でCB500ホーネットと同等、0→100km/h加速は4.6秒でCB500ホーネットよりも速いという)が、私はそれに強く異議を唱えたいと思う。信号待ちからの発進は速く、グリップ力の高いピレリ製のタイヤでも苦戦するほど力強い走りを見せ、公称最大トルク10.2kgf・mのおかげで追い越しも問題なし。途切れることのないスムーズな加速や静粛性によって速く感じられるのかもしれないが、本当に感銘を受ける乗り味だった。

WN7の最大トルクは10.2kgf・m。1082cc並列2気筒エンジンを搭載する同社のクルーザーモデル、レブル1100の10.0kgf・mを超える数値だ。

なお、WN7の最高速度は129km/hに制限されている。つまり、70mph(約113km/h)で流れている道路を走っているときは、余裕はほとんど残されていないということだ。実際に最高速を試すとメーターには135km/hと表示されていたので、厳密には129km/hがリミットではないようだが、加速はそこで止まる。公平な視点で評価すると、そもそもWN7は高速ツーリング向けに設計されたバイクではないのだが、少なくとも安定性は抜群である。ちなみに、高速走行時に回生ブレーキを最小限に抑えると、スロットルを閉じた状態でもかなり長い時間、惰性で走行できる。

WN7の車名のWは「Wind(風)」の頭文字、Nは「Naked(ネイキッド:カウルを装備していないモーターサイクルのこと)」の頭文字、7は社内で設定した出力クラス分けとされている。ターゲットはヨーロッパでバイクを通勤に使う20代〜30代の人々で、開発中には「パリ在住の小柄な女性」という具体的なイメージもあったという。

小規模な電動バイクメーカーとは異なり、ホンダは80年近くにわたってバイクの走行・停止・旋回に関するデータを収集してきたメーカーであるため、WN7のハンドリングは全域ですばらしいものに仕上がっている。だが、それでもやはり少々慣れが必要ではある。ショーワ製の前後サスペンションは高品質で、快適な乗り心地を提供してくれる。標準装着タイヤはピレリ ディアブロロッソⅢなので、自信を持ってコーナーに突っ込んでいくことが可能だ。重量はネイキッドタイプのガソリン車の装備重量とほぼ同じで、ニッシン製のブレーキはほぼ十分な制動力を発揮するものの、回生ブレーキを弱めるとやや力不足と感じる。しかし全体的に見て、WN7は山道での爽快な走りにも、市街地での軽快な走りにも適している。

フロントには、ショーワ製の倒立式フロントフォーク(43mm径、ストローク量120mm)と、ニッシン製のラジアルマウント対向4ポットブレーキキャリパー、296mm径のブレーキディスクを装備。リヤブレーキディスク径は256mm。リヤモノショックはアクスルトラベル量120mmで、プリロード調整が可能。タイヤはピレリ ディアブロロッソⅢ。

ちなみにホンダは、幅広のベルトドライブに対応するためにリヤタイヤのサイズを150にしたと説明しているが、私にはそれとは異なる目的があるように思われた。ホイールベースが長く重心が低いため、高速走行時の操縦性を向上させる、具体的にはバンクさせやすくするために、細めのリヤタイヤを採用したのではないかという推測だ。低重心は街なかでの低速走行時には有利だが、速度が上がる郊外ではWN7の操縦には少々コツが必要だった。しかし、コーナリング時のフィードバックは抜群であった。ホンダがもしWN8やWN10を開発すれば、サーキット走行にも十分対応できる可能性を秘めているだろう。

WN7の車体寸法のベースとなったCB750ホーネットのリヤタイヤサイズは160/60だが、WN7は150/60となっている。フロントタイヤサイズは120/70で共通。

あえて難点を挙げるとすれば、シートはスタイリッシュで車体をスリムに見せてくれるが、快適性はそれほど高くなく、どちらかというとエンデューロバイクのシートといった感じである。また、充電ポートの蓋にはロック機構がなく、軽く触れたり寄りかかったりすると開いてしまうことがある。

シートは前後一体型で、前後長は通常のネイキッドモデルよりも長く取られている。車体同様、スリムな造形だ。シート高は800mm。

そして、WN7の実際の航続距離はどれくらいなのかということは、誰もが気にするところだろう。ホンダは140kmを公称しているが、今回のテストでの航続距離は100km程度だった。ただし、これはとても活発にライディングしたり、全開走行していた時間があった場合の数値である。現実的な乗り方をしていれば、100~110kmほど走った後でもバッテリーは20%ほど残っているであろう。そして、モード4の充電器であれば、20%から80%まで30分でチャージできる。なので、イギリスやヨーロッパのほとんどの都市では問題なく使えるだろう。実際、ロンドンではWN7のバッテリー残量が10%になっても不安を感じることはない。しかし、街から出発して郊外へハイペースで走ると、100kmまたはわずか1時間で充電が喫緊の用事となるかもしれない。

充電中のディスプレイ画面表示。残り時間も表示される。

電動モーターサイクルとしては最高峰のクオリティ

一部のガソリン車愛好家は、排気口から2ストロークエンジンの青い煙が出ないという理由で、このバイクを敬遠するかもしれない。また、WN7と同社のCB750ホーネットやCB500ホーネットといっ​​た優れたICE車を比較すると、それらはWN7よりはるかに安価で、燃費も良く、維持費もそれほど高くない。おそらくICE車の方が運転が楽しく、航続距離も長く、実用性も高いだろう。確かに、ICE車は環境に悪影響を与え、騒音も大きく、乗りこなすには多少の技術がいるかもしれない。しかし、少なくとも今のところはICE車の方がはるかに安価であるため、短期的視点では電動モーターサイクルにコスト面でのメリットを見出すことは難しい。

けれども、1万2999ポンド(日本円に換算すると、記事制作時のレートで約276万5000円)のWN7を同価格帯の他社製電動モーターサイクルと比較すると、まったく異なる印象を受ける。優れた製造品質、乗り心地、ハンドリング、そして急速充電に対応しているおかげで、このモデルは現在市場に出回っている電動モーターサイクルの中でも最高クラスのモデルだと私は考えている。シートの快適性は最高とは言えず、激しい走行では航続距離が短くなることもあるが、微速前進/後退機能や、簡単に減速度を切り替えられる回生ブレーキなど、便利な機能が満載されたすばらしいパッケージだ。コスト面以外では電動だということにほぼハンデを感じさせない、完成度の高いモデルである。

WN7の完成度に舌を巻くアダム・チャイルド氏。

ホンダ WN7 諸元(ヨーロッパ仕様18kWモデル)

【原動機・性能】種類:水冷電動モーター 定格出力:18kW<24.5ps> 最高出力:50kW<68ps> 最大トルク:100Nm<10.2kgf・m> 【バッテリー・性能】種類:リチウムイオン 電圧:349.44V 充電時間(0→100%):2時間30分(モード3での充電時) 一充電航続距離:140km 【寸法・重量】全長:2,156 全幅:826 全高:1,085 ホイールベース:1,480 シート高:800(各mm) 車両重量:217kg タイヤサイズ:(F)120/70R17 (R)150/60R17 【カラー】グレー、ブラック、マットブラック

※日本国内導入未定

ホンダ WN7

report:Adam Child photo:Honda Motorcycles/Motocom まとめ:モーターサイクリスト編集部

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