KAWASAKI Ninja ZX-6R
名車・GPZ900Rの後を次ぐモデルとしてデビューしたNinja ZX-9R。その弟分として誕生したのが、今回紹介するNinja ZX-6Rの初代である。
以降、636㏄と600㏄の排気量2本立て時代を経て、今回の’07-08モデルで再び600㏄専用に回帰。その実力のほどはいかに?
※本記事は別冊Motorcyclist2008年7月号に掲載されていたものを再編集しています。
文●近田 茂 写真●岡 拓
土砂降りの雨の日に乗る600SS。が、ひとたびまたがれば……
その日は雨だった。今回の試乗車を借り出しに行く日なのに、朝から降り続く雨がやまない。
レースポテンシャルを追求した過激なスーパースポーツでウエット路面に走り出すシーンを想像すると、借り出し日を改めてもらおうかと気分がトーンダウンする。
しかし、バイクって本当に不思議な乗り物だ。借り出したカワサキNinja ZX-6Rにまたがり、いざザンザン降りの街中を走り出すと、瞬間的に僕の頭の中だけは、すっかりと晴れ上がってしまった。
僕の脳内回路にある何かにスイッチが入り、とてもクリアな覚醒された気分を呼ぶ。
言うなれば「雨? そんなの関係ねぇ!」という感じである。
走り始めるとすぐに伝わってくるZX-6Rのエキサイティングなキャラクターが、僕のテンションを高いところに引き上げてくれたのだ。
さてZX-6Rのライディングポジションはハンドルが低く前傾姿勢となるがグリップ位置は意外と手前にある感じで、両腕が突っ張ることなく乗りやすい。
さらにゆとりを感じられるステップとシートの位置関係が絶妙だ。
一般的に窮屈なジョッキースタイルを強いられるスーパースポーツ系モデルの割に、ZX-6Rのステップ位置は少し前め、少し低めの位置にある。
そのおかげで脚力と腹筋を生かしやすく、市街地を走る常用域でも上体を楽に支えられる点に好感を覚えた。
もちろん身体の筋力を使わずに、だらけた気分で乗ると、両腕に負担がかかりすぐに手首が痛くなる。
上体が前傾しているので目線を遠くへ送ると、顔が上を向くために首がつらい感じにもなるだろう。
先頭で信号待ちするときは、ライディングポジションを取ったまま頭上の信号を視界の中に入れるのがギリギリの感じだ。
前傾姿勢と言えば、以前にレポートしたドゥカティ・スポーツクラシックシリーズ、スポーツ1000の場合は、頭上の信号を確認するために両手をハンドルから離して上体を起こす必要があった。
だが、ZX-6Rの前傾姿勢はそこまできつくはない。
シートはやや腰高感を覚えるが、スーパースポーツ系モデルとしては一般的レベルだ。
新開発エンジンは前後長が先代比40㎜も短縮化されているだけあって、車体全体もコンパクトに仕上げられている。
ただ、軽量コンパクトを徹底させて登場した当時のライバルモデル、ホンダCBR600RRと比較するとZX-6Rの車体はひとまわり大きい。
またがってニーグリップをするとフレーム幅はかなりワイドに感じる。燃料タンクの造形も前方部分が広い。
ピタリと前屈姿勢を決めると、ライダーが抱き抱える部分のボリューム感が大きく、ひとクラス上のバイクに乗るような雰囲気とともに安心感を覚えた。
ニーグリップ部の幅を実測すると390㎜あった。これまで試乗したスーパースポーツの中でも最もワイドである。
ちなみにCBR1000RRが365㎜、ドゥカティ1098は270㎜であったから、ZX-6Rはかなり幅広である。
フレームの高剛性化や、十分な吸気系容量を稼ぐためには必然のデザインだったのだろうか。
ただ、股からヒザまでV字状に開く内モモとのフィット感は絶妙である。
股からヒザにかけてモモ全体の線でグリップでき、マン・マシンの一体感を保ちやすい。それがライダーに安心感を与えている。
しかも、コーナリングでより積極的な体重移動をするために大きく腰を落とすようなとき、あるいは左右へ切り返す素早い体重移動もスムーズで動きやすいのがいい。
内モモやヒザをタンクサイドなどに引っ掛けるときの安定感にも優れ、連続するS字コーナーでは下半身の動きだけで、リズミカルに車体を切り返していける。
下半身でマシンとの一体感を保ちやすいので、ライダーがハンドルにつかまったり、無駄な力を加えることが少ない。
激しい体重移動をしてもバイクが揺れてしまうようなことがなく、バイクのほうから理想的な操縦法に導いてくれる雰囲気がある。
また俯瞰(ふかん)するとひし形状の燃料タンクデザインも、左右の頂点はかなりワイドである。
やや上体を伏せ気味でスポーツライディングをするようなシーンでは、左右への張り出し部分が両腕やヒジと近い位置にあるが決して邪魔はしていない。
むしろ旋回中に派手なハングオンスタイルを取るときもコーナー外側の腕を安定させることにも使える。
また、例えばステアリングが振れ出すようなシーンがあったとしても、瞬時に腕でタンクを挟むことが可能で、“人間ステアリングダンパー”を効かせやすいのだ。
今回そんなシーンは皆無だったが、いざと言うときにハンドルを押さえやすい点はライダーに安心感を与える要素のひとつになる。
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