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BMWの水平対向エンジンで史上最大の排気量となるR18シリーズ
1923年のR32以来、BMWモトラッドの象徴でもあるボクサーエンジン(水平対向2気筒)で史上最大の1801ccという排気量を実現し、これをロー&ロングな車体に搭載するクルーザーモデル「R18」シリーズ。
そのフル装備バージョンといえる「R18トランスコンチネンタル」、そしてバガースタイルのスポーツツーリングバージョン「R18B」が日本に上陸開始した。
R18の1801ccOHV空油冷2気筒エンジン自体、環境問題などを考慮したダウンサイジングという世界的トレンドに逆行するような強烈な個性である。
そのうえ、R18トランスコンチネンタル、R18Bともに全幅970mm、ホイールベースはトランスコンチネンタルが1720mm、R18Bが1700mm。車重はというとR18トランスコンチネンタルが427kg(満タン440kg=国土交通省届出値)、R18Bで398kg(同410kg)と、排気量・サイズ・重さの横綱である。
BMWはこのとんでもない超弩級モデルで、北米を中心に世界で最も大きな市場であるクルーザーセグメントに乗り込んできたのだが、ライバルには王者たるハーレーダビッドソン、そして近年勢力を拡大中のインディアンというこれまた強烈な個性を確立した二大巨頭がいる。
その2社と競合するには相当な存在感が必要だということだろう。
BMW R18トランスコンチネンタル
BMW R18B
2020年に登場したBMW R18/R18クラシック
BMW R18トランスコンチネンタル/R18Bは専用の車体設定
R18トランスコンチネンタルにまたがってみると、率直に言って440kgの車体には緊張感が伴う。サイドスタンドをはらって車体を起こすだけでもかなりの質量を感じさせる(トップケース類がない分、重心が低く、車重も軽いR18Bはまだ少し優しい)。
そして、3000rpmという低回転で158Nm(16.1kgm)もの最大トルクを発揮するエンジンを始動した瞬間、そのトルクリアクションによって車体は大きく左側に傾くのだから「これは相当手強いぞ」と予感した。
ところが走り出してしまえば、スピードが上がるにつれハンドリングはどんどん軽快になり、その動きは440kgを感じさせなくなる。つまり、停車時と走行時に感じる印象は大きく異なるのだ。
これには驚いた。さすがBMW、その車体の作り込みに感心する。このフィーリングの実現には、スタンダードのR18からフレーム剛性を向上させたR18トランスコンチネンタル/R18B専用の「ツーリングシャシー」と、やはり独自に設定されたステアリングジオメトリーが効いている。
R18トランスコンチネンタル/R18Bは、先行して発売されているR18やR18クラシックと同じ車体構成に見えるが、そのフレームとジオメトリーは主に大きなフェアリングによって生じるフロント荷重の増加に対応するため、フロントフォークを逆オフセットしている(スピーカーなど装備が組み込まれた大型フェアリングは重量もさることながら、空気抵抗も増える)。
ステアリング軸よりライダー側にフロントフォーク後退させ、安定性のためのトレール量を確保しつつ、フォークアングルを立ててステアリングフィールを軽快に味付けしているのだ。これによってハンドリングはニュートラルで軽快、それでいて落ち着きがあるものとなっている。
ただ、さすがに重心が高いトランスコンチネンタルでは、ロール方向の動きがやや不安定に感じる場面もあったが──。
ちなみに、R18とR18クラシックに対して、トレールは150mm→183.5mmに延長され、一方ホイールベースは1725mm→1720mm(R18トランスコンチネンタル)/1700mm(R18B)へと短縮されている。
1801ccの水平対向エンジンは高速クルージングにも効く!
やはり真骨頂は高速道路のクルージングだ。
2000〜4000回転で最大トルクを発生するエンジンのトルクフルなセッティングもさることながら、トップ6速・約2000回転で100km/h巡航が可能!
その回転領域ではブルブル来るボクサーツインの振動もちょうど良い具合に落ち着き、非常にスムーズかつ穏やかで、またまた感心する。
加えて、R18トランスコンチネンタルなら大きなフェアリングとウインドスクリーン、エアフラップ、レッグシールが優れたウインドプロテクション効果を発揮し、小雨程度なら上腕以外ほとんど身体が濡れないほどで、快適そのもの(実際試乗時には雨の中走る場面もあった)。
これなら長距離を走らせても、ほとんど疲れを感じさせないはずだ。見た目や排気量のインパクトからすると意外とも思えるジェントルなこのクルージング性能は、特筆に値する。
3つのライディングモードとDCC=ダイナミック・クルーズ・コントロール、前車との車間を制御するACC=アダプティブ・クルーズ・コントロール、さらにASC=オートマチック・スタビリティ・コントロール(いわゆるトラクションコントロール)、ダイナミック・エンジン・ブレーキ・コントロールと、電子制御も山盛り標準装備だから、高速道路のクルージングはより快適で安心感のあるものとなる。
また、クラシックなスタイルを追求したR18/R18クラシックでは「あえて電子制御レス」とされたが、R18トランスコンチネンタル/R18Bのリヤサスペンションには電子油圧制御式スプリングプリロード(自動走行状態補正付)を採用しているので、積載やタンデム時の姿勢変化を抑制してくれることだろう。
ライディングモードは「レイン」、「ロール」、「ロック」(R18シリーズのコンセプトに基づくネーミング)のモードが用意されており、「レイン」の安定感は言うに及ばずだが、フルパワーとなる「ロック」はスロットル操作をラフに行えば、大して車体がバンクしていなくてもリヤタイヤをアウトに振り出すほどのパワーをライダーに伝えてくる。まさに大トルクのなせる技だろう。
穏やかに高速道路を走るのなら、雨天時でなくても「レイン」で加速性能は十分だ。
ちなみに、車体後進機構=リバースギヤや坂道発進を容易にするヒル・スタート・コントロールも標準装備されており、この車体サイズに慣れることができれば、所有する満足感はかなり高いのではないだろうか。
超弩級のサイズだけではなく、文字通り「至れり尽くせり」の仕様と装備を与えている点は、ツーリングバイクの名手・BMWならでは。
とにかく他にはない強烈な個性と、抜群の快適性がR18トランスコンチネンタル/R18Bにはある。
R18トランスコンチネンタル/Bの足着き・ライディングポジション
ゆったりと余裕ある座面形状のシートはシート高720mmで、身長170cmのライダーでは両足の足の裏が全面接地し、足着き性は良好。ステップボードが装備されるが、特に足着きの邪魔にはならなかった(写真はR18B)。
ちなみにサウンドシステムは、往年のロックファンにはお約束のマーシャル製。世界中のミュージシャンに愛用されてきたアンプシステムの名門と、初コラボ・共同開発したシステムが標準装備となっているのだ。
さらなる高音質を追求したいというユーザーには、工場オプションのサウンドシステムも用意されている。
BMW R18トランスコンチネンタル主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク:107.1mm×100.0mm 総排気量:1801cc 最高出力:67kW<91ps>/4750rpm 最大トルク:158Nm<16.1kgm>/3000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2650 全幅:970(ミラー含む) 全高:1500(ミラー除く) ホイールベース:1720 シート高720(各mm) タイヤサイズ:F120/70R19 R180/65B16 車両重量:427kg 燃料タンク容量:24L
[価格]
372万6000円
BMW R18B主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク:107.1mm×100.0mm 総排気量:1801cc 最高出力:67kW<91ps>/4750rpm 最大トルク:158Nm<16.1kgm>/3000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2560 全幅:970(ミラー含む) 全高:1400(ミラー除く) ホイールベース:1700 シート高720(各mm) タイヤサイズ:F120/70R19 R180/65B16 車両重量:398kg 燃料タンク容量:24L
[価格]
311万2500円
試乗レポート●関谷守正 写真●岡 拓 編集●上野茂岐