バイクライフ

ホンダ GB350開発陣の姿勢は、NSR250RやRC30と同じだった?

GB350の発売から1年経ったからこそ知りたいこと

どうして今、ホンダ GB350の開発者インタビュー?
当記事を読み始めた人の中には、そう感じている人がいるんじゃないだろうか。というのも、2輪/4輪の開発者インタビューは、デビュー直後、大幅刷新を受けた時、あるいは、歴史に残る名車と世間で認知されてから行うのが通例で、登場から1年ちょっと後はレアケースなのである。

もっともそういった事実を踏まえて、モーサイwebが当記事を展開する理由は至って単純で、きっかけは少し前に当サイトに掲載したGB350+ブリヂストンBT46のタイヤテストだった。あの記事を担当した僕、フリーランスの中村友彦と、実際にオーナーとなってモーサイwebで連載を執筆している柴田直行カメラマンがテスト中にGB350談義で盛り上がり……「このバイクの面白さは、どんな風に作られたのだろう」と開発者に話を聞いてみたくなったのだ。

旧車好きも納得する資質

本題に入る前に僕のGB350に対する印象を記しておくと、最近の新型車の中では筆頭に挙げたくなるほどのお気に入りで、乗れば乗るほど楽しくなったため、これまでにトータルで2000kmほど走行した。1950~1970年代の旧車を思わせるフィーリング、ビッグシングルの鼓動感や細身の大径タイヤならではの操安性を、ここまで真摯に追求したモデルは過去に前例がないと思う。

あら、この表現だとかつてのホンダが販売したGB400/500TTやCL400、CB400SS、ヤマハSR、スズキ・テンプター、ロイヤルエンフィールドの350/500cc単気筒などのオーナーから苦情が来るかもしれない。
でもそれらが既存のエンジン、既存の車両の基本設計を継承していたのに対して、すべてを新規開発したGB350からは、現代の技術を用いてシングルの美点を抽出しようという強い意志が、ヒシヒシと伝わって来るのだ。

ただし、初試乗時の僕がそうだったように、旧車好きの中にはGB350がピンと来ない人がいそうである。と言うのも、このバイクは旧車の多くに付き物のクセや雑味がどこにも見当たらず、始動時の面倒な儀式が不要なので、どんなライダーでも気軽に乗れてしまうのだ。だから日常的に旧車に接している人の場合は、インパクトが希薄、お手軽すぎる、などと感じてしまいがちなのだが……。

僕の場合は数時間ほど乗った時点で、このバイクが秘めている資質、いや、べつに秘めているわけではないものの、心地いい鼓動感やフロント19インチならではの操作感など、旧車好きがニンマリできる資質に気づいた。実は当初の僕はGB350に対して、世間の流行に便乗した、なんちゃってクラシックだろう、という勝手な推測をしていたのだが、まったくそんなことはなかったのだ。
もちろん、旧車好きと言っても感性は各人各様だから、どんなに乗っても腑に落ちない人がいれば、走り始めた瞬間からピンと来る人もいるだろう。いずれにしても僕にとってのGB350は、多くの人がホンダに期待する扱いやすさと、旧車好きが嬉しくなる資質を両立した、稀有な存在なのである。

1978年に初代が登場したヤマハSR400/500は、トレールバイクとして開発されたXT500のオンロード仕様と言うべきモデル(写真は1978年の初代SR400)。
ホンダ GB400TT。ヤマハSRへの対抗馬として、ホンダは1982年にFT400/500、1985年にGB400TT/500TTを発売。OHC4バルブ単気筒の開発ベースは、オフロード車のXR500。
ホンダ CB400SS。1998年にデビューしたCL400と、その兄弟車として2001年に登場したCB400SSは、XR400から転用したOHC4バルブ単気筒を搭載。(写真は2007年発売の最終型)。

旧車好きが多かったGB350開発陣「自分たちが欲しいバイクを作った」

さて、ここからはいよいよ本題の開発者インタビューで、僕と柴田カメラマンの疑問に答えてくれたのは、車体設計の井口貴正さんと、エンジン設計の若狭秀智さん。まずは、「どうしてこんなバイク、旧車の魅力を巧みに抽出したバイクが造れたんでしょうか」という抽象的な質問をしてみると、意外にして嬉しい答えが返って来た。

モーサイwebのインタビューに答えてくれた2人のホンダマン。右が車体設計の井口貴正さん(1985年生まれ/2007年入社)で、左がエンジン設計の若狭秀智さん(1983年生まれ/2008年入社)。

井口さん「直接的な答えにはならないかもしれませんが、私と若狭を含めた開発陣の多くが旧車好きで、自分たちが欲しいバイクを作ったから……というのが、大きな要素かなと感じています。私の場合は2輪免許を取得してからの愛車はほとんどが旧車で、2007年にホンダに入社するまでは、前後17インチの現代的なバイクに乗る機会はほとんどなかったんですよ(笑)。GB350の車体では、フロント19インチの佇まいと乗り味にこだわりました」

若狭さん「20代の頃から2輪と4輪の旧車が大好きだったこともあり、GB350の本格的な開発が始まる前から、鼓動感や空冷単気筒エンジンの可能性に関する研究に、積極的に携わってきました。その根源にあったのは、自分が魅力を感じている旧車の面白さを、現代の視点で解析したいという意識で、GB350には研究で培ったノウハウがしっかり活かせたと思っています」

開発陣の多くが旧車好きという話は、すでに他の媒体も報じているけれど、今回のインタビューを通して、2人の旧車好きがニワカではまったくなく、筋金入りであることを僕は実感。ちなみに、井口さんはGB350のスタンダード、若狭さんはGB350Sのオーナーで、ここ最近は休日にGB350やGB350Sを購入した開発チームメンバーとツーリングに出かけることが多いそうだ。

ただしメディアの人間の視点で見ると、いくら旧車好きが作ったと言っても、よくぞこれで上層部のOKが出たものだなあ……と感じる部分がGB350には数多く存在する。
具体的な事例を示すなら、70×90.5mmのボア×ストローク、前後の形状を非対称としたコンロッド、ミッションのメインシャフトにウェイトを設置する同軸バランサー、インナー式のスイングアームピボット、あえてねじれ剛性を低く設定したフレームなどは、既存のホンダの常識で考えれば、あり得ない構成・数値だろう。

単気筒だから当然と言えなくもないけれど、GB350のクランク+コンロッドは昔ながらの組み立て式。コンロッド大端部の微妙なズレに注目。
オフセットシリンダーは基本的に摺動抵抗を低減する技術。とはいえGB350の場合は、理想のルックスを実現するため……という狙いもあった。
シリンダーヘッド内には冷却用のオイル通路を設置。この機構は、2010年に登場したCB1100の発展型と言えそうだ。
パッと見はオーソドックスでも、スチール製セミダブルクレードルフレームには「ホンダらしからぬ?」と言いたくなる思想が随所に投入されている。

以下に参考として2001~2008年にホンダが販売した単気筒車、CB400SSの構成・数値を記すと、ボア×ストロークは85×70mm、コンロッドは前後対称、バランサーは1軸式、スイングアームピボットはアウター式で、フレームのねじれ剛性はGB350より29%も高かった。

井口さん「確かに、GB350ではかなり大胆なチャレンジを行っていて、それが実現できた理由は、会社からあまり大きな期待をされていなかったからかもしれません(笑)。逆に世界中の注目が集まるグローバルモデルや、伝統のシリーズの最新型だったら、もっと手堅い手法を選択した可能性はあるでしょう。とはいえ我々は、主要市場のインドだけではなく、日本を含めた世界中で販売することを念頭に置いて、GB350を開発したんです」(*)

若狭さん「既存の常識に当てはまらない構成や数値が採用できた背景には、解析技術の進化という背景もあるでしょうね。試作品を作ってのトライ&エラーが必要だった昔とは異なり、今はコンピュータ解析で剛性や耐久性などが算出できるので、失敗を恐れず、いろいろなチャレンジが行えるんです。例えば前後非対称コンロッドは従来の常識で考えれば耐久性の検証が悩ましいところですが、GB350のパワーと回転数なら問題ないことが解析で把握できたので、現物を作って本格的な検討に入れました」

2人の話を聞いている最中、僕の頭にはふと、NSR250RとRC30(VFR750R)の開発陣にインタビューした際の記憶が蘇って来た。
昨今ではホンダの歴史を語るうえで欠かせない名車と呼ばれているNSRとRC30だが、実はGB350と同様に、いずれも当時のホンダにとっては異端のモデルで、いずれも会社から大きな期待はされておらず、いずれも開発陣が欲しいバイクを、表現としては語弊があるかもしれないが、好き勝手に作ったのである(登場から十数年後に、両車のプロジェクトリーダーがそう語ってくれた)。

もちろん、レースでの勝利を前提にして生まれたNSRとRC30は、GB350とはまったく狙いが異なるモデルだ。とはいえ、既存の常識に迎合することなく、自分たちの理想を追求した井口さんと若狭さんの口調から、僕はNSRとRC30の開発陣に通じる雰囲気を感じたのである。

ワークスRS250RWのフルコピーという姿勢で生まれた1986年型NSR250Rは、そこまでやるのか!?と言いたくなるほど、振り切ったモデルだった。

レポート●中村友彦 写真●柴田直行/ホンダ 編集●上野茂岐


*編集部註:ご存知の方も多いと思うが、インドで現地生産・現地販売する車種として2020年後半にハイネスCB350がデビュー。その日本版として2021年4月にGB350が発売となった。なおGB350に関しては、日本の熊本製作所で組み立てとフレームや外装部品などの塗装が行われている。

インドで販売されるハイネスCB350。

ホンダ GB350主要諸元

[エンジン・性能]
種類:空冷4サイクル単気筒OHC2バルブ ボア・ストローク:70.0mm×90.5mm 総排気量:348cc 最高出力:15kW(20ps)/5500rpm 最大トルク:29Nm(3.0kgm)/3000rpm 変速機:5段リターン
[寸法・重量]
全長:2180 全幅:800 全高:1105 ホイールベース:1440 シート高800(各mm) タイヤサイズ:F100/90-19 R130/70-18 車両重量:180kg 燃料タンク容量:15L
[車体色]
マットジーンズブルーメタリック、マットパールモリオンブラック、キャンディークロモスフィアレッド
[価格]
55万円

GB350 ホンダ

【インタビュー・エンジン編】音と振動の「解析」から生まれた鼓動感!ホンダ GB350開発秘話

【インタビュー・車体編】「19インチだけじゃない」ホンダ GB350のしなやかハンドリングはいかにして実現したのか

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