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気筒休止システムの基本構造
かつて四輪車では「気筒休止」エンジンが流行ったことがある。エンジン排気量というのは、車格や要求性能によって決まるものだが、ともすると日常ユースではオーバースペックになることもある。
たとえば、7名乗車のミニバンを想定してほしい。エンジンにはフル乗車でも十分に加速する性能(≒排気量)を持たせる必要はあるが、実際には一人乗りでそれほど負荷がかかっていないことも多い。そうしたときにエンジン排気量を実質的に小さくするような機構といえるのが「気筒休止」システムだ。
過去には4気筒エンジンを2気筒にするもの(*1)、V6エンジンを3気筒にしたり、はたまた4気筒にしたりするタイプ(*2)など様々な気筒休止パターンがあったが、いずれにしても気筒休止は吸排気バルブを動かさないことで実現していた。


「気筒休止」という漢字の字面をみると、あたかもピストンの往復運動が止まっているような印象を受けるかもしれないが、じつは気筒休止状態でもピストンは動いている。
動いているピストンをクランクシャフトから切り離すことが絶対に不可能とはいわないが、量産エンジンにおいてはカムシャフトとバルブ間になんらかのデバイスを追加して、カムやクランクは回っている状態でバルブは動かないようにする方式が現実的だからだ。
バルブが動かないだけでピストンは往復運動をしている……だとすると摩擦由来のメカニカルロスは減らないから大した燃費改善にはつながらないのでは? と思うかもしれない。しかし、閉じたシリンダー内でピストンが往復している状態は、空気を吸い込んだり排出したりという行程がなくなる。その行程に伴う「ポンピングロス」がほとんどなくなることで機械損失を大きく低減、それが燃費をよくするという仕組みになっている。
というわけで、四輪車における気筒休止エンジンは、巡行時などさほどパワーのいらない状況において実質的なエンジン排気量を小さくすることで燃費を稼ぐ技術として生まれ、各社が採用していったといった経緯がある。
そんな気筒休止システムが下火になった背景には四輪車の電動化が進んだことが挙げられる。2000年代以降、燃費を稼ぐのであればハイブリッドにするのがベターソリューションであり、発電用と駆動用に2つのモーターを持つストロングハイブリッドであれば、モーターだけで走るときにはエンジン自体を止めてしまうことができる。
気筒休止のような複雑になるシステムを採用するよりもエンジンを動かさない領域を拡大する(電圧アップや駆動用バッテリーの容量増など)ほうにコストを回したほうが環境性能の追求においては有利といえ、そのために四輪車からは気筒休止システムがほぼ消滅している。
本来は環境性能のためだが…二輪では信号待ちなどでの熱気対策に有効
一方、二輪車においては気筒休止システムが拡大する可能性がある。
最新のドゥカティ ムルティストラーダV4シリーズでは走行状況に応じてV4エンジン(1158cc)のリヤバンク2気筒を止める気筒休止システムが採用されている(*3)。基本的には無駄なガソリン消費を抑えて燃費改善を狙った技術といえる。その点においては、かつて四輪車において気筒休止が普及したのと同じベクトルといえるだろう。

ただし二輪車の気筒休止においては燃費改善以上にユーザーベネフィットにつながる要素がある。それは熱対策だ。
大排気量エンジンになればアイドリング状態でも発生する熱量は半端ではなく、暑い季節の信号待ち・渋滞走行などは苦行となってしまう。気筒休止によって、市街地走行における様々な発熱が少しでも抑えられれば、ライダーの肉体的負担が軽減されるからだ。
環境性能や経済性としての燃費と、ライダーの負担軽減につながる熱対策を期待できるメカニズムという点において、気筒休止エンジンの拡大に期待したい。停車中の熱対策だけに話を絞れば、アイドリングストップ機構を備えたほうが効果的かもしれないが、高圧縮比エンジンの再始動に伴う騒音などを考えると、気筒休止を普及させるほうが現実的ではないだろうか。
レポート●山本晋也 写真●ホンダ/三菱自動車/ドゥカティ 編集●上野茂岐