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さて次に一部の歴代社長が拘泥したという「車体パッケージングの創造」面を見ていこう。
彼らは「カブを超えられなかった!」というが、カブを超えたかどうかなんて、それを出したことによりカブが廃盤になることでしか客観的には証明できないわけで、これもあまりと言えばあまりにナイーブな、いかにもユメミがちなホンダらしい夢にも思える。
上記発言はまさかカブ価操作を意図したご発言ではないと信じるが、事実、よりクレバーなエンジニア達はよりリアルな夢を見たようだ。比較的記憶に新しい製品の、モーターサイクルとコミューター双方を車体パッケージング面から取り上げてみるね。
具体例その1:NC700、NC750シリーズ(2012〜)
60年におよぶカブの蔓延により、地球上のナイセストピープル埋蔵量はホボホボ観測できたかに見えたが、実はマダマダその鉱脈が掘り尽くされていないことを明らかにした凄いヤツがNCシリーズだ。



その車体パッケージングは、ボディパーツを取り去ってしまうともはや元のモーターサイクルの姿が想像できないという驚くべきものだ。
これはホンダのスクーターや一部のモーターサイクルに適用されてきた「プラットフォーム」(共通車体)の考え方をさらに推し進めたもので、量産効果によって価格を抑えながら、デビューから現在(2021年)までの9年間で、モデルチェンジを含み実に12種類のモデル展開を可能とする基本骨格となった実績を持つ。
これまさに車体パッケージングの創造にほかならない。
そしてホンダらしいのが、このクレバーなプランにより「世界中の多くの方々」に向け開発、それを実現してしまったことである。
搭載される669ccOHCの並列2気筒エンジンにしても「なんじゃこのヌルいエンジンは!こんなのホンダの新エンジンとして認めねえ!」と、当初は試作の承認すら下りなかった……なんてエピソードもあるようだが、つまりNCシリーズは社会の常識以前に、会社の常識に対する「アンチテーゼ」だったわけだ。
よってこのエンジニア達の「クレバー」とは単なるスマートさではなく本来の「狡猾さ」が正確な意味合いとなるわけだ。狡猾なエンジニア達であればこそ、その開発は夢にチャレンジする時や新しいものを作る時だけに訪れる、ゾクゾクする様な感覚に満ちていたことだろう。
NCシリーズでも「2輪の大衆化を志向するホンダ」の一貫性はブレていない。
車体部品配置の特徴は、カブに近づけた前傾エンジンによる低い重心、GPレーサーのタンク配置を、シート下を中心に前後ぐるっと180度回転させたような考え方の重量物配置などによる運動性の性格づけである。


これらは比較的おっとりしたハンドリングのみならず、今の天気や余った時間など「不要不急の急な外出」に躊躇しないで車両を引っ張り出せることも担保するものだ。
走り味はあくまで清々しく、同クラスの中では低く抑えられた価格や良好な燃費性能、ファンライドをサポートするクラッチ操作レスのDCT(普通のMTも選べるよ)、さらにはヘルメット収納スペースまで確保。
NCシリーズの骨子は「それぞれの生活を営む普通の人達」、すなわちナイセストピープルのペースを妨げることなく彼らが取り入れることができるモーターサイクルであること、だと思う。
道に一歩出ればそんな「バイクごときに自分らしさを乱されていない」数多くのナナハンライダー達と出会えることだろう。


具体例その2:PCXシリーズ(2010〜)
スーパーカブが本田宗一郎と藤澤武夫の欧州モペッドリサーチから始まり、日本で開発・生産、先述のアメリカ進出という過程を経たことでもわかるように、ホンダは創業当初より「世界的視野」を旨としてきた(現在は「地球的視野」に)。
この社是には「グローバル生産〜供給だから性能の優れた廉価な製品」(現在は「質の高い商品を適正な価格で供給」)を実現できるんだという「ホンダ製品作りの仕掛け」が簡潔に表されている。
PCXもまた「世界的視野」ならではの「性能の優れた廉価な製品」を体現したのだ。
きっかけはタイを中心とした東南アジア。日本に比べ公共交通インフラが未発達なこともあり、2輪は生活必需品としてまだまだ欠かせない存在だ。
そんな彼の地が迎えた「経済発展に伴う大衆の変化」を背景に企画されたのがPCXだ。かつての日本もそうだった様に、経済が発展する局面では、一般的にその上昇志向に見合った「より良い物の消費」を誘発する。

タイの場合、それは「もっと快適でもっと高級でもっと便利なコミューターへのニーズ」として現れた(と少なくともホンダは解釈したのだろう)。その「もっと」は、言うまでもなく「カブよりもっと」だ。
「ヨシそれだけ需要が見込めるなら、もっと快適でもっと高級でもっと便利なコミューターを廉価に造れるよな」と言ったかどうか知らないが、PCXは確かにそれらを全てクリアした、といったら過言だろうか。
イヤ、そんなチャレンジに対する意気込みが、今見てもなかなか野心的なオリジナルスケッチからも感じ取れるような気がするのだ。
初代のコンセプトは、車名の由来にもなっている「パーソナルコンフォートサルーン」であるが、それは同時にPCXの車体パッケージングを言い表す言葉でもある。
TVの映像などで1台のカブに3〜4人あるいは一家全員が乗っている姿をご覧になったことはないだろうか。ホンダはこのカブの万能性と決別することで、PCXという21世紀型スクーターの車体パッケージングを提案した。

「コミューターのグローバル標準」である125ccを採用した車体サイズ。「快適な乗り心地と優れた走行安定性」のための前後14インチの足まわり。46度のハンドル切れ角設定による取り回しのしやすさ。
これらを「250ccスクーター並みの快適な居住性をライダーのみに与える」ことで可能とし、さらに低燃費エンジン、大容量収納、オートマチックトランスミッションと組み合わせて完成させた。
果たしてその結果、日本ではそれまでの原付二種クラスの一般的なイメージ=中途半端を一夜にして「ベストバランス」に塗り替えたことから、現在の原二ラインアップ隆盛に繋がって行ったことは比較的記憶に新しい。
まさに「常識を覆すホンダ」大衆製品の面目躍如である。
またタイでのユーザーベネフィットはさらにダイレクトで、それに乗っていれば「豊かな個人」であることを表明できる生活必需品という評価をまさに当の大衆から与えられたというのだ。
これらの例も含めPCXが世界で受け入れられたとすれば、きっと現代は昔よりちょっとだけ豊かになったと信じていいのかも知れない。
具体例その3:GB350(2021〜)
ところでいわゆるイッパシのライダー達はなお言うかも知れない。
「大衆も丈夫も経済的も夢もチャレンジもわかったけど、面白みに欠ける」。
そんなアナタに、最後にGB350を紹介する。
この度背景となった大衆=ナイセストピープルはインドという相変わらずの世界的視野っぷりだが、GB350はそのインドから「日本人もびっくり!の逆輸入」……というのはチマタで語られている通説で、インド向けのCB350をベースに熊本製作所で組み立て・専用塗装が行われているのがGB350である。


そんな細かい話は置いておいて、車体パッケージングそのものには、ここまで見てきたモデルのような閃きはさして感じられない。というより芯からオーソドックスなオートバイオートバイした基本構成である。
そこにもってきてさらに「経験を積んだベテランライダーのみならず、新しくモーターサイクルライフを始める若年層のビギナーまで、お客様を選ぶことなく、自由で楽しい移動の喜び」などと追い討ちをかけてくる。
もうこうなってくると、様々なバイクに乗ってきたいわゆるイッパシのライダーは「他の日本人は知らんが、オレはびっくりしない!」と聞き流す勢いだろうが、この「楽しい」の中身に注目していただきたい。
ご存知のようにホンダは持ち前の「高回転高出力主義」が世界中の大衆に支持された結果、世界の名だたる名門2輪メーカーが消え去って行ったという経歴を持つ。なにしろ1960年発表のCB72では「トップ(ギヤ)70km/h以下では走れません」とその「楽しさ」を謳ったメーカーである。
そんなホンダが造ったGB350は、エンジンを「象徴」とまで言う。
しかし、それが高回転高出力の象徴でないことは20馬力/5500回転のスペックからも明らかだ。では何の象徴か?
これこそおそらく「面白みの象徴」なのだ。過去にV2や直4のフィールを語った製品はあるが、それにしてもホンダがここまで正面切って「面白み」つまり「数値化し難い世界」を推してくるモーターサイクルは他に印象がない。そしてその面白みは「トップ(ギヤ)30km/hからの息の長い加速」だというではないか。のの、納税者様の貴重な時間を何と心得る。

という訳でCB72からこのGB350まで来るのに実に61年。その間「チャレンジ」を常に「高回転」で繰り返してきたホンダをしても、大衆の変化って、こんなタイムスパンなのかもしれない。
GB350はまた「ライディングポジションやハンドリングを含めたモーターサイクルとしての万能感はスーパーカブにも通じる」とも評されている。ホンダはきっと、今までもこれからもナイセストピープルが大好きなのだ。
従って、あなたがいわゆるイッパシのライダーだとしたら、ホンダは「まあアト60年くらいは見といてくださいよ。それまでカブとかレーサーとかNCとかPCXとかGBとか進化させてますんで」って言うかもしれないですよ。こいつぁ目が離せませんなあ。
ともあれ、地球規模での2輪車需要が何となく見通せるようになった気もする現在、エンジン単体などの数値性能向上はますます極一部に限られていく流れが予測される。とにかく電気にしなさいムードもあるしね……。
一方、それらを独創的に組み合わせた車体パッケージングには今後も私たち大衆も期待できるということ、そしてその意味でもやはりホンダは先駆的なメーカーであることがうかがい知れた次第である。
さあ、こうなってくるとホンダ2輪がついえる時、それはおそらく地球上全ての大衆が停滞した時ではないだろうか。
レポート●高野守生 写真●ホンダ/八重洲出版 編集●上野茂岐
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本稿でも参照した開発者の貴重な証言による開発エピソードなどは書籍『Honda Motorcycle THE DREAM MAKERS』に詳しい。




































