ヒストリー

ホンダ=エンジン屋ではなかった!? 「車体パッケージング」=スーパーカブ的車体構成こそホンダの真骨頂だ!

ナイセストピープルに取り憑かれたフルラインアップメーカー「ホンダ」

ここはノッケからひとつあくまで私見とさせていただけますよう至極恐縮にございますが、ホンダという2輪メーカーは、ご存知のように常に自分達を「夢」「チャレンジ」「先進技術」などと定義づけたい印象がある一方、いわゆるイッパシのライダー達からは「ホンダのバイクは丈夫で経済的だが面白みに欠ける」と言われることもあるようだ。

筆者は長年、何というかこの辺にメーカーとユーザー間の「すれ違い感」みたいなものを抱いており、要は「ホンダってわかりやすいこと言う、わかりにくいメーカーだな」と思っている。

そこで、今一度「ホンダって?」というのを、公表資料や記録などを参照しながら考えてみたいと思ったのだ。

そもそもホンダ自身はどんなお客さんを想定してバイクを造っているのか?
知っている人は知っているかもしれないが、ホンダは1977年以降、日本で発売された代表的なモデルの公式情報を「ファクトブック」(製品説明書)として公開している。これは雑誌などメディア向け発表会・試乗会で配布されるものとも全く同じものだ。

現在までに公開されている計195編の製品説明書から、それらは誰に向けて造られたのかを探るため「ユーザー」「ライダー」「お客様」「人達」に連なる語句を抽出してみた。
言葉の「表記揺れ」をどうとらえるかといった問題や集計方法によって結果は振れるが、とりあえず拾ってみた結果の「トップ5」がこのグラフである。

原付スクーターからスーパースポーツまで、オンロードからオフロードまで、50ccから1800ccまで……超ワイドな製品ラインナップの中心は「より多くの」「幅広い」「世界中の」「多様な」人々に向けた「経験を問わない」製品であることを示す結果となった。
すなわちホンダは自らを「大衆向け2輪メーカー」であると主張しているようだ。

うん、それ知ってる。けどワカリニクイ(笑)。
イヤ、こんな集計結果では先ほどのユーザーが抱くイメージ「丈夫で経済的だが面白みに欠ける」に対し、ホンダは「だからウチ大衆向けって言ってるし」ってことで終わっちゃうだけで、それ以上の何かは見えてこないのであった。

しかし、ホンダが語るナルホド感しかない各フレーズをしばらく眺めていたら、ポワンと例の絵柄が浮かんでくるではありませんか。
「YOU MEET THE NICEST PEOPLE ON A HONDA:素晴らしき人達ホンダに乗る」。いわゆる「ナイセストピープルホンダ」ってヤツですよ。

そこに至って、「より多くの」「より幅広い」「世界中の」「多様な」人々に向けた「経験を問わない」製品の具体例にして代表格である「スーパーカブ」に秘伝のタレ的要素があるのではないか──と思ったわけです。

まあ知っていればどってことない明るいタッチのイラストではある。
しかし、この広告が展開された1960年代初頭のアメリカにおける「バイクと言えばナラズモノ」という常識の対立軸として、「それぞれの生活を営む普通の人達」つまり大衆を「ナイセストピープル」って言ってのけたことはやはり驚きに値すると思うのだ。

すなわちこれは当時、ホンダという新参者がアメリカ社会に投げかけた「アンチテーゼ」に他ならない。この辺りの記録はホンダ自身がwebサイトで公開しているので、もっと詳しく知りたい方はそっちを見てほしいのだけれど、この「世間の常識を覆す行き方」こそが、ホンダ本来の「夢」「チャレンジ」を体現していることにおそらく異論はないのではないか。

想像してみよう。
「ソバも元気だおっかさん」のカブを「先進技術」の変速システムでやっとこさ実現したと思ったら、スカさず「世界的視野」な目に遭わされる社員達のことを。
「アメリカ行って調べてこい!」「行ってきました!」「で?」「ダメです!アメリカにソバ屋ありませんでした!」ではすまされないのがホンダの「世界的視野=社是」である。何とまあ恐ろしい社是ですこと。

1971年、鈴鹿製作所で行われた2輪車累計生産1000万台達成セレモニーでスーパーカブにまたがる本田宗一郎。カブ自体は1974年に累計生産1000万台、1991年に2000万台、2005年に5000万台、2017年に1億台を突破している。

スーパーカブの特徴って言ったら燃費や耐久性……じゃなかった!?

では、2輪の歴史を変えたとも言われるこのスーパーカブ、それまでの2輪に比べて「1台の車両」としては何をクリエイトしたのか。ここでもホンダ自身の証言にあたってみると、2018年登場のスーパーカブC125の製品説明書に「スーパーカブの主な特徴」という記述がある

スーパーカブC125 ホンダ
スーパーカブ生誕60年という節目の2018年に登場したスーパーカブC125(125cc)。初代「C100」をイメージしたデザインに現代的装備を与え、上質感を追求した「趣味のカブ」。

それをまとめると、スーパーカブは「独創の車体パッケージング」で60年にわたり「性別を問わず幅広い年齢層に使い勝手の良いモビリティー」を目指し続けて「世界生産累計一億台を達成」した。
……と読み取ることが可能だ。つまりホンダは、スーパーカブにおいて「車体パッケージング」を創造したと規定しているようなのだ。ここでいう車体パッケージングとは「エンジンフレーム他の構成部品同士のスペック的なバランスと、それらの配置の仕方」と解釈して良いだろう。
また、これも知られた話であるが、歴代ホンダ社長の幾人かは、就任時に「カブを超える!」と意気込むも、「果たせなかった!」と実に爽やかに退任しているという。

以上を組み合わせると、ホンダとは「カブを超える大衆2輪」を「夢」見て「チャレンジ」し続ける「車体パッケージング創造会社」となる(アレ?エンジン屋さんじゃないってこと!? )。
ちなみに、このように代替わりしても受け継がれる一貫した姿勢をその企業の「思想」と呼ぶ。

その「思想」の具体的な裏打ちとして、スーパーカブC125の製品説明書の中にある車体パッケージングの説明「乗る人、燃料タンク、エンジンなどの重量物を車体中心付近にほぼ縦一列に集中配置したことによる高い運動性能」という一文に注目したい。

ライダーを含めた重量物の集中配置。
これをホンダは、いわゆるイッパシのライダー向け用語として「マス集中化」と表記する。この言葉、公開されている製品説明書では41年前のスーパーホークIIIが初出だが、今やバイク業界では常套句となっている語句のひとつだ。

でもって、それが製品作りの「思想」であることの所以として、スーパーカブの対極に位置する究極の非大衆商品であるMotoGPマシン・RC213Vの公道版・RC213V-Sでも、そこは全く変わらないことを挙げたい。
いわく「世界一速いマシンは、世界一操りやすいマシンである」。
その車体パッケージング図を見ると、ガソリンタンクがシート下にメリ込んでいる様子がわかる。これを見る限りMotoGPマシン(の公道版)はあたかもカブを夢見ているかのようだ。

しかしスーパーカブとMotoGPマシンレプリカ、この2台かけ離れすぎてて信号待ちで並んでる絵を想像しても普通にシュールさしかないんですけど……。
果たして車体パッケージングまで共通点を持たせる必要なんてあるのか。

さっき真逆とかいったが、実はあるのです。カブはビジネス車として、GPレーサーの方は勝つことで、ともに「金を稼ぐための車両」ゆえに「車両の運動性能を高める」という共通目的が。
この2台はともに「本来プロ用ですが、よろしかったら」とアマチュアにも門戸を開く任務を帯びた製品なのだ。

スーパーカブの「マスの集中化」を説明したイラスト。
RC213V-Sの車体パッケージング。スーパーカブとの共通点は「マスの集中化」による運動性向上。
昨今は趣味の乗り物としても大人気のスーパーカブでございますが、当初は「運びのプロ」のための乗り物であったわけで。排気量50cc、日本でのお値段約24万円、最高出力は3.7馬力。

MotoGPマシンの公道走行可能なレプリカとして2015年に限定発売されたRC213V-S。排気量1000cc、日本でのお値段2190万円、レーシングキット装着時の最高出力は215馬力以上。

スーパーカブは老若男女が乗りやすく、RC213V-Sの乗り味は一説によると「目から鱗が落ちるようなタイプの普通さ」だと言う。このあたりをいわゆるイッパシのライダー達は「面白みに欠ける」と指摘するのかもしれない。

しかし当のホンダのエンジニアからしてみれば、マルケスとソバ屋から「こんなんじゃ生活できないよ」と言われることが一番恐ろしいのだ(多分)。なればこそ、その開発は当然ながらそれ相応にシリアスにならざるを得ないだろう。

そこでは何よりも「乗らなければならない時間をなるべく短く(=速さだ)、疲れないように、壊れないように」が求められるのではないだろうか。
世界グランプリ参戦もスーパーカブ開発も本田宗一郎が始めたことだが、こう考えてくると彼の中では両者にさして隔たりなどなかったのではと思えてくる。また彼は従業員にも言う。「神様に平等に与えられた時間を酷使しろ」と。

そして本田宗一郎を大好きな私こと大衆ライダーもこの点、強く影響を受けている。だからこそ路上で「旦那さんお急ぎですね」などとオマーリさんに気安く声を掛けられるとつい憤りを覚えちゃうのだ。
控えめに言って納税者様の時間に対するデリカシーがないんだよね(文章はイメージです)。

カブから始まるホンダの車体パッケージングは何が凄いのか?

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関連リンク

本稿でも参照した開発者の貴重な証言による開発エピソードなどは書籍『Honda Motorcycle THE DREAM MAKERS』に詳しい。

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