ヒストリー

【遙かなるグランプリへ5】世界は知っていた…スクランブルレースから始まるヤマハ・GP史(前編)

●路面状況は浅間によく似ていたカタリナGP。プラグトラブルがなければ表彰台も狙えた伊藤の快走を現地では「KAMIKAZE」と呼んで賞賛した。

 

新大陸への戦略

マリリン・モンローが最初の結婚で、ジョー・ディマジオと新婚旅行に訪れたことから一躍有名になったカタリナ島は、カリフォルニア・ロングビーチからフェリーで数時間の太平洋上にある小さなリゾートアイランドだ。
まるで地中海の小島を思わせる優しい気候と美しい風景は観光を主たる産業とし、1951(昭和26)年からCATALINA GPと称する観光客誘致を目的としたスクランブルレースを開催し、全米の注目を集めていた。

1955(昭和30)年に2輪生産を開始したヤマハ発動機は、その年に開催された第3回富士登山レースに発売間もないYA-1を送り込んで初陣を飾り、続く第1回浅間高原レース125㏄クラスでいきなり1位から4位を独占して2輪業界をアッと言わせていた。

中学から東大工学部まですべて特待生で、一度も月謝を払ったことがない東海随一の俊英と呼ばれた父・川上嘉市が請われて就いていた日本楽器社長の席を、父の急逝によって受け継いだ源一は、40歳を過ぎたばかりながら父の才気を充分に継承した敏腕経営者だった。
鍛冶屋の倅に生まれそこから叩き上げた本田宗一郎は、声高にマン島出場宣言を発し2輪産業の輸出促進を謳い上げていたが、社長就任時までに経営と市場分析のノウハウを充分に身につけていたヤマハの川上源一にとって、それは分かりきった事だった。

海外へのレース参戦は必須だが、富士登山や浅間のダートしか経験がない状態でいきなりオール舗装路のグランプリレースに挑むことは、マシン開発の上で無理があるというのが源一の考えだった。
浅間に似た、ダートでありながらロードレースの体裁を整えた格好のレース…それが、ヤマハが海外初挑戦の場に選んだ「カタリナGP」だった。

●伊藤(手前)と2名の現地ライダー。その後ろ一段上に立っているのが川上源一。すべては彼の統率によって計画されたヤマハの海外初挑戦だった。

そして、路面やマシン構成での整合性はもちろん、源一が重視したのは北米という巨大なマーケットの将来性だった。
確かに営々たる歴史を誇るロードレースの中心はヨーロッパにあったし、手本とすべき2輪産業の核も英、独、仏、伊だった。
しかし第2次世界大戦の終結から10余年、アメリカという巨大な市場が大きな口を開けて世界の生産物を飲み込もうとしていることに、源一は気付いていた。

カタリナGPで伊藤史朗は6位に入賞した。
同行した源一は現地の雑誌とタイアップし伊藤の写真を表紙に掲載させた。
その後、本土でのクラブマンレース数戦に出場した伊藤とヤマハは、すぐさまアメリカでその存在を認知された。
残してきたマシンはロキシー・ロックウッドの手で早くも国内レースに優勝し、ヤマハブランドは注目を集めた。
それは、ホンダがマン島に出場する前年のことだった。

 

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