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「スーパースポーツVT250FからフレンドリーなVTRへ」20年振りに乗って考えた、ホンダVT系の変わりゆく位置づけ

VT250

「4ストで2ストに勝つ」という目標を掲げ、新開発の250cc水冷V型2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載し、1982年に登場したホンダVT250F。
1982年6月の発売だったが、年間(実質7ヵ月)で3万台以上が売れる大ヒットモデルとなった。
80年代、このVT250Fで日本を旅した若者が数多くいたはずだ。
そんな「当時の若者」のひとりであった筆者が、24年振りにVT250Fの「子孫」VTRに乗って思うこととは。

V型4気筒の世界GPレーサー「NR500」を意識し開発された初代VT250F(1982年デビュー)。
1982年当時、VT250Fの新車価格は39万9000円で、年間販売計画台数は3万6000台だった。

VT250Fがデビューした1982年当時、性能もメカニズムもデザインも「最新鋭」に満ちていた

1982年の12月、当時の中免(自動二輪中型限定免許)を取得した高校2年生の私は、原付ライダーからのステップアップに胸を躍らせた。自動二輪ならば30km/h以上出しても速度違反にならないし、高速道路も走れる。
ぶち回し気味であちこち連れ回した相棒ホンダCB50Sは健気に走ってくれたものの、箱根の七曲りに行けばローギヤでハエの止まりそうな速度じゃないと上らない。愛着はあったけれど、そろそろ原付から卒業したい──。

次の愛車に考えたのは、車検付きの400じゃなく軽二輪の250。
幸いにも当時の250ccクラスは活況を呈しており、その急先鋒がヤマハRZ250、ホンダVT250Fだった。特に登場したてのVT250Fは、バイク誌で大きく取り上げられ、目を引いた記事には「大排気量バイクを、よく回るエンジンの250で追い回すのが楽しい」と書かれていたっけ。
「ナナハンキラー」の異名を与えられたのはRZが先だが、4サイクルのVTは1万rpm以上回る水冷Vツインで大排気量車を追い回せるんだと。これは面白そうだ。

親の援助と自分のバイト代を足して購入したのは、白いVT250F。
明るい車体色と赤いフレームが鮮やかで、ビキニカウル(当時の法規上「メーターバイザー」という扱いだった)に埋め込まれたウインカーも斬新。
さらに、フロントが16インチホイールで、ブレーキがカバーに覆われたインボードディスクも独特。さほどメカに詳しくない私でも、空冷単気筒のCB50Sと雲泥の差なのは一目瞭然だった。
ただしVT250Fは第一希望ではなかった。ホンダなら単気筒のCB250RS-Zが欲しかったのだが、在庫はもうないと言われた。結局ロードスポーツはVT250F一択で売れとの号令が末端の販売店まで行き渡っていたのだろうか。
ともあれ私は、最新鋭250のオーナーとなった。

自分は根が目立ちたがりでないのだろう。鮮やかな白のVTが、少し気恥ずかしかった。乗っているライダーは中免取り立て。勝負でも仕掛けられたら、さっさとコケるか遥か後方に置き去りにされる、そんな負い目を感じながらの公道デビューだったが、新開発の90度Vツインは洗練されていた。気になる振動はなく、スロットルの捻りに対して間髪入れず回転が上昇。
当時原付50ccと教習車くらいしか経験がない自分には比較する引き出しは無いに等しかったが、力強いモーターのようだと感じた。裏を返せばどこからでも盛り上がる、回転数を気にしなくていいバイクと感じた。つまり気を遣うクセも性能を引き出すコツも要らない、とも思った。

250ccクラス初の90度V型2気筒エンジンは、DOHC4バルブ、11.0という高圧縮比もあって、1万1000回転で最高出力35馬力を発揮。実際、2サイクルのヤマハRZ250に匹敵する数値だった。
ミッションは6速。油圧クラッチやオートカムチェーンテンショナーの採用など、メンテナンスフリー化にも配慮されたエンジンだった。

CB50Sの数十倍は速度のノリがいいエンジンはフレキシブルで鋭く、最新鋭の足回りはフワッとしたしなやかさで魔法のじゅうたんのよう。
クラッチミートに独特のタイムラグがあるように感じたものの(油圧クラッチのせいだったのだろうか?)、トルクの谷も特になく高回転まで回り、その時点でけっこうな速度域になっている特性(「これがフラットトルクというヤツか!?」)。

「ホンダらしいなぁ……」などと当時は思いもしなかったが(先にも述べたように比較対象はCB50Sと教習車くらいだったワケで)、250ccもある排気量という気負いを忘れさせる柔軟さはよく覚えている。つまり、ハイパワーゆえの手強さを感じさせない。この点で言って、2サイクルのRZ、後に続く2サイクルレプリカ群のような加速感の刺激で、VTが上回ることはなかっただろうし、市井のライダーも評価も同様だったろう。

VT250Fの場合、「16インチホイール」に感じた少しの違和感

かくしてド初心者ライダーは徐々にVT250Fに慣れていったものの、フロント16インチには自然な感じはしなかった。軽快には感じたけれど手応えがなく、もう少しゆったり切り返したり転回したいとき、自分の意図とずれるような内向感を感じ、ハンドリングに「乗せられてる感」があった。

一方、錆びやすい鋳鉄ディスクの保護と見た目のために覆われたインボードディスクの制動力は、確かによかった。「真綿フィーリング」と言われ、「ジワジワ、グーッ」と効くってことだけど、唐突に制動が立ち上がるわけではない反面、握るほどにグッと効く。まさに不満なしの性能だった。
けれど、今ではステンレス製のディスクローター&高性能パッドの組み合わせでそれ以上の性能とタッチを実現しているから、消滅したメカニズムだ。
パッド交換も面倒だし、部品点数的にも利点は少ないインボードディスクは、3世代目の途中(1987年)、最後のVT250Fでは通常のアウトボードディスクに変更されているから、過渡期のメカニズムだったのだ。

フレームは高張力綱製の「サイドパイプ式ダブルクレードルフレーム」。エンジン脱着作業をスムーズに行うため左側ダウンチューブが脱着式となっているほか、ヘッド周りのメンテナンス性を考慮しメインフレームをサイドパイプ式とした構造。
フロントブレーキにはインボードディスクを採用。当時は「冷却効率にも優れる……」なんて触れ込みだった。タイヤサイズはフロントが100/90-16、リヤが110/80-18。

過渡期の技術と言えば16インチホイールも同様で、これは80年代前半の世界GPからのフィードバックだった。
コーナリング手前の急激なブレーキング、そこから瞬時に移行するコーナリングの過渡特性で一時期優れていると言われ、GPレーサーのみならず各社は市販のスポーツ車にも採用したが、「16インチ乗り」なる言葉を生み出したように少々クセのある乗り味で、80年代半ば以降17インチの普遍的なスポーツ性に取って代わられることとなる。
そしてVTシリーズでも1987年のVTZ250から17インチ化。ある意味この年を境に、ホンダVTシリーズは当時の高性能マシンに求められた呪縛から、完全に解き放たれたのかもしれない。

なんら不満もなく、初期型VT250Fを高校2年の秋から乗り始めた筆者は、自宅のある首都圏から当然行動範囲を広げていった。
CB50Sのときと同様、相変わらず下道走りだったが箱根にも通ったし、祖父母の暮らす信州へも行った。そして、少々バイクに夢中になりすぎて浪人生活を送っていた時には、予備校までの足にもなった。
この間で走行距離は1万2000kmほどだったか。だが、だんだんVTへの愛着が冷めていった。性能に慣れてしまったことと同時に、ほぼノーメンテで走っていたマシンは徐々に調子を落としていたのかも。

他方で、市場のVTへの評価も変わっていった。GPマシンを意識し、性能もメカニズムも直系を感じさせた2ストレーサーレプリカに対し、VTはいったい何を受け継いだ250スポーツなのか、と。
これには結局MVX、NS、次いで大成功を収めたNSR250Rと2ストレプリカ開発を進めたホンダの展開も影響しているが、所期の目的「4ストで2ストに勝つ」がフェードアウトしていくように、VTは高性能路線から脱落していくのだった。

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