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革に北斎・神奈川沖浪裏を「彫る」 革ジャン工房の挑戦

日本製の革製品と、日本の伝統芸術「浮世絵」の融合

東京都大田区、恐らく日本で唯一、いや、恐らく世界でもただひとつの技術が生まれた。
それは写真の「革に超精緻な浮世絵を描く」というもの。

きっかけは「ご近所の縁」だった。
革ジャンをメインに日本製品にこだわるバイク用ウエアメーカー「ペアスロープ」だが、東京都大田区の工房近隣に現役で活躍中の浮世絵摺師(*)がいたのだ。

今日、浮世絵といえば「美術館で鑑賞するもの」だが、浮世絵が生まれた江戸時代には「ポスター」や「ブロマイド」のようなカジュアルなものだった。
そこで、ペアスロープ代表の三橋氏は考えた。「飾る浮世絵から、手にする浮世絵に」と。日常的に使える日本製の革製品に、日本の伝統芸術である浮世絵を描くことを思いついたのである。

*現代にも浮世絵の摺師がいるということに驚く人もいるかもしれないが、江戸時代と変わらぬ手法で木版を作り、江戸時代と変わらぬ顔料で、日々浮世絵は摺られている。それらは「復刻版浮世絵」と呼ばれ、海外では評価が高いものの、日本での流通量が少ない(海外への輸出が約8割)。

当初は革に直接浮世絵を摺ろうと思っていた

浮世絵の絵柄を用いた革製品自体は、決して珍しいものではない。
しかし、それらは転写プリントなどで出来上がった「絵柄」を革の上に乗せているものがほとんどだ(極端なたとえになるが「ラッピングバス」などと同じ構造と言えばわかりやすいだろうか)。
が、浮世絵とは本来版画。各色の「木版」による摺りを重ねていくことで、あの鮮やかな色彩が生み出されている。
そこでまず三橋氏は「紙に浮世絵を摺るのと同じように、革に浮世絵を摺る」ということを試みた。

紙が革に代わるだけで、簡単なことだろうと思う人もいるかもしれないが、革には柔軟性があり、しかも厚い。
当初は、浮世絵師が手彫りした「昔ながらの木版」を用いることに挑戦した。しかし、様々な革でテストを繰り返したものの、各色の版をズレることなく重ね合わせるのは困難を極めた。
細かい部分がつぶれてしまったり、本来の「絵」にならないのである。

試行錯誤するなかで別の問題にも直面した。
鞄や財布などに摺るため、「中判」という浮世絵の中では小振りのサイズを「原画」としているのだが……浮世絵の代表的なサイズは大判(大錦判)と呼ばれるもので、A3程度(北斎の「原画」も大判)。それを縮小するとなると木版の凹凸もより微細なものになる。

中判の「神奈川沖浪裏」の木版。船の側面に巻きつけられたゴザの部分と、0.5mmシャープペンシルの芯を見比べてみると、「凸部分」の細さに驚くのではないだろうか。

どれくらい微細かというと、木版の線(凸の部分)は最小0.2mmという世界なのだ! 彫り師の高度な技術により木版は作れても、柔軟性ある革に摺るのは向かない。

怪我の功名で生まれた「超精緻なレーザー彫刻浮世絵」

そこでやむを得ず、版を作る作業をレーザー彫刻に切り替えた。
といっても、木版の凹凸を3Dスキャナーなどでデータ化するといった方法ではやはり極細の線の再現が難しく、イラストソフトにて限界まで拡大し、三橋氏自らもデータ化を行った。

そうしてできあがったレーザー彫刻の「強度ある版」と、「浮世絵を摺することに対応できる革」を何とかして見つけることができた結果、紙に摺るのと同じように、版を重ねて革に浮世絵を摺る技術を確立した(顔料も実際の昔ながらの浮世絵と同じものを使用する)。

試作品の「革浮世絵バッグ」。

製品化にも目処(*)はついたが、材料から工程まで、非常にハイコストなのが泣き所だった。
当初の目的のひとつ「日常的に使える浮世絵を多くの日本人に」という趣旨から少し離れてしまう、と。

材料から手法まで様々な苦労と工夫を重ね「革に浮世絵を摺る」技術を確立。写真が実際、革に摺られたもの。

*現在、摺師による革浮世絵バッグは完成しているものの、発売時期は未定。

そこで、版を作るためのレーザー彫刻を直接革へ施工することを試しに思いついた。「摺り」の作業が省略される分、工程は減る。
レーザー彫刻による革の加工も、それ自体は珍しいものではない。
が、0.2mmの線を再現するためのレーザー彫刻は、多くの工夫により驚くべき仕上がりになった。

荒馬(馬革)に描かれた、精緻な波頭や水夫の表情

波頭の水煙から船を漕ぐ水夫たちの表情まで、つぶれてしまうようなことなく、極めて精緻に描かれているのが写真でもわかるだろうか。
加えて、独特の質感も生まれた。
浮世絵といえば鮮やかな色彩が魅力のひとつではあるが、モノトーン調となった浮世絵の絵柄は何ともシックな雰囲気をたたえていたのだ。

長年日本製にこだわって革製品を作り続けてきたペアスロープだけに「超高品質」である。
表革は馬革……それも、野性的な紋様が残る厚手の希少な「荒馬」の革を用いているのだ(「荒馬の革に、荒波の絵を描く」という三橋氏の思いも込められている)。

東京都大田区にあるペアスロープ店舗上階の自社工房。
独特の紋様がある「荒馬」の革に、レーザー彫刻で葛飾北斎「神奈川沖浪裏」を描いたペアスロープ製の鞄「MSB-2N荒馬浪裏」。価格は2020年内まで限定価格で税込5万6100円。少量生産のため注文から約1ヵ月納品の場合あり。

もちろん、浮世絵は鑑賞すれば人の心を豊かにしてくれる。
だが、それだけでなく日常生活を彩るアイテムとして浮世絵を使う……浮世絵が生まれた江戸時代の原点に帰るわけではないが、何とも粋な装いではないだろうか。

「MSB-2N荒馬浪裏」のサイズは横幅30cm、高さ24cm、マチ約8cm。B5サイズが余裕で入り、内装は耐久性に優れた高密度コットンを使用。
「MSB-2N荒馬浪裏」のファスナーはハイクオリティな「YKKエクセラ」を使用。ヘアライン仕上げがシックなデザインをさらに引き締める。
長財布、二つ折り財布、名刺入れなど、荒馬の革にレーザー彫刻を施した他の製品もスタンバイ。鞄「MSB-2N荒馬浪裏」に用いたものと同じ「中判」の判を使っているため、描かれる絵は一部となってしまうが、それも味(ただでさえ超精緻なため、全体を描くためにさらに縮小する……というのは無理な話なのだ)。

まとめ●上野茂岐 写真●革ジャン工房・ペアスロープ

問い合わせ

ペアスロープ

電話:03-3778-2616

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