1992年の初代登場以来、ホンダを象徴するスーパースポーツとして進化を続けてきた「Fireblade」。今回の新型は、公道モデルをベースに競技用に適応させるという従来のアプローチを根底から覆し、「勝つために創る」という理念のもと、HRC(ホンダ・レーシング)と共同で、最初からWorldSBK(スーパーバイク世界選手権)のレース要件を満たすべく開発された点が最大の特徴だ。
シャシーと空力性能の劇的な進化





従来モデルから大きな飛躍を遂げたのが、シャシーの基本構造と空力パッケージ。新型アルミフレームは横方向の剛性を従来比で20%低減させ、コーナリング性能とグリップ感、安定性を大幅に向上させた。クランクシャフトのセンターラインを5.2mm高く設定しつつ、前輪への荷重配分を増やすことで、コーナー進入から立ち上がりまでの運動性能を高めている。また、ライダーの動きやすさと重心最適化のため、シート高は831.5mmから843mmへと引き上げられている。
足周りには、フルアジャスタブルのShowa製43mmビッグピストンフォーク(BPF)とBFRC-Liteリヤショックを採用。ブレーキはNissin製ラジアルマウント4ピストンキャリパーと330mmフロントディスクの組み合わせで強力な制動力を誇る。さらに、新しい7本スポークホイールや、525から520へ変更されたチェーンの採用により、バネ下重量と回転慣性の削減も徹底されている。
空力面では、MotoGPマシンからのフィードバックを反映した新設計フェアリングを採用した。従来モデルで特徴的だったウイングレットを廃止しながらも、ロアフェアリング内に統合された空力サイドポッドにより同等のダウンフォースを発生させ、空気抵抗を減らしつつ高速域での安定性とコーナリング性能を確保している。

エンジンの改良と中速域の強化
1000cc並列4気筒セミカムギアトレインエンジンは、最高出力160kW(1万4000rpm)、最大トルク114Nmという圧倒的なピーク性能を維持している。従来モデルからの最大の進化は、中速域の出力強化とドライバビリティの向上にある。ホンダの量産モデルで初となる「2ステージ可変エアファンネル」により、1万1750rpmを境に吸気効率を切り替え、全域でのパフォーマンスを最適化した。また、ピストンや燃焼室の加工精度を上げ、圧縮比を従来の13.6から13.8へと引き上げている。
軽量化も抜かりなく、エンジンカバーのマグネシウム化やクランクケースの軽量化、チタン製燃料タンクの採用(プラスチックカバーの廃止)などにより、装備重量は従来比1.3kg減の199kgを達成。トランスミッションは1速が5%ハイギヤ化され、メインシャフトとカウンターシャフトの間隔を広げることで、サーキットの多様なレイアウトに対するギヤ選択の幅を拡大させている。



電子制御と環境性能への配慮

高度な電子制御システムも、マシンの新たなポテンシャルに合わせて洗練された。ボッシュ製6軸IMU(慣性計測ユニット)を軸に、9段階のHSTC(ホンダ・セレクタブル・トルク・コントロール)や、2モーター式の電子制御スロットル(TBW)が新しいエンジン特性に最適化されている。新たに4段階の回転数から選択可能なスタートモードも標準装備され、レーススタート時の確実な発進をサポートする。

また、環境負荷ゼロを目指すホンダの取り組みとして、一部のコンポーネントにリサイクル素材(PIRやPCR)や植物由来のDurabio Mを採用している点も、次世代のフラッグシップモデルにふさわしい進化である。
新型「CBR1000RR-R Fireblade」は、単なるマイナーチェンジの枠を超え、「公道も走れるレースマシン」としての純度を高い次元まで引き上げた。HRCの知見を惜しみなく注ぎ込み、従来モデルの課題であった中速域のトルクや旋回性を徹底的に改善した同車は、世界のサーキットで再びホンダの強さを示す最強の武器となるか。

まとめ●モーサイ編集部 写真●ホンダ



































