バイクのロードレースという、残念ながら現在の日本ではちょっぴりマイナーな競技で、切磋琢磨する3名の中学3年生。日本を飛び出しアジア圏で戦う彼らにとって、最大のライバルは同学年の同じ日本人選手で、当然のように夢はMotoGPライダーだ。世界の扉を開けようと手を伸ばす中3トリオの真剣バトルが、熱い!!
世界選手権行きの“青春15きっぷ”はアジアにあり!
知識隼和(ちしき・はやと)、国立和玖(くにたて・わく)、富樫虎太郎(とがし・こたろう)。
あなたがロードレースファンでなくても、モーターサイクルを愛するライダーで、世界最高峰のMotoGPで大活躍中の小椋 藍にちょっとは興味を持っているなら、この3選手の名前も知っておいて損はない。
そう遠くない将来、この中から“第二の小椋”が生まれる可能性は高いから。
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2026年、この3選手が主戦場とするのは「Idemitsu Moto4 Asia Cup(以下Moto4 アジア)」。昨年までは「Idemitsu Asia Talent Cup(以下ATC)」と呼ばれていたたシリーズで、アジアおよびオセアニアの各国から選抜された10代のライダーたちによって競われる。マシンはホンダ(HRC)市販レーサーのNSF250R、タイヤはピレリ製が使われ、マシンのチューニングはもちろんのこと、アライのヘルメットやアルパインスターズのライディングギアなどを含め、基本的にはイコールコンディションが保たれている。つまり、小排気量クラスのため体重や体格の違いがスピードに与える影響は大きいとはいえ、同等の条件で速さを競い合える環境が構築されている。
そしてこのMoto4 アジアは、MotoGPの運営に携わってきたドルナスポーツがサポートする、若い世代のライダーを対象とした大会やプログラムの総称である「Road to MotoGP」のひとつで、実際に小椋(と2026年はスーパーバイク世界選手権に参戦するタイ出身のソムキアット・チャントラ)は、ATC時代のこのシリーズを経て世界選手権最高峰のMotoGPクラスまでたどり着いているし、今季のMoto2クラスにフル参戦している佐々木歩夢と古里太陽、Moto3クラスの山中琉聖と三谷然も、ATCを世界に羽ばたく足掛かりにしてきた。


意識せざるを得ない、日本人同学年のライバル
つまり、今季のロードレース世界選手権にフル参戦している日本人ライダーは、全員がMoto4 アジアの前進となるATC経験者ということになる。もちろんMoto4 アジアに参戦できたからといって、実力と運がなければ世界の舞台にたどり着くことはできないけれど、このシリーズが世界につながるバイパス道路の途中にあることは確かだ。
その道を、同じ日本出身かつ同学年のライダーが走っている……となれば、当然ながらお互いに意識しないわけがない。例えば隼和は、和玖や虎太郎についてこう話す。
「Moto4 アジアもそうですが、日本国内でHRCが頻繁に実施しているトレーニングに3人とも参加しているので、同じ環境にいることが多いんです。同学年ということもあり、自分だけではないとは思いますが、どうしても意識してしまいます。今年、同じTN45に所属している和玖とは昨年ほどバチバチではないですけど、少なくとも本音を正直に笑顔で語り合えるような関係性ではないですね」


和玖も、基本的なスタンスは隼和と同じようだが、聞いていると表現はほんの少し柔らかく感じる。
「虎太郎とは、キッズバイク時代から同じレースを走ってきたし、隼和も虎太郎もMiniGP時代から競ってきた相手。当然のようにライバル心はあります。Moto4 アジアの会場では、自分たちと違って海外勢はみんな仲良くて、超わいわいしている感じはありますね。日本では隼和と同じチーム(TN45)に所属しているので、それなりに話はします。虎太郎とは話す機会がないですが……」


対して、普段から物静かなタイプの虎太郎は、闘志をより内側で燃やしているように感じる。
「当然ながら気にはしていますが、他人のことをあまり気にしてもしょうがないとも思っています。仲良しこよしなわけでもないし、ペラペラしゃべることもないですし。ただ、もしかしたら将来、自分とまったく同じようにステップアップしていくかもしれないし、自分が他の2人のライディングや性格をよく知っているように、向こうも自分のことをわかっているだろうから、手強いライバルになることだけは間違いないと思います」


チーム監督は、それぞれに世界の厳しさを知る
ちなみに、未来のMotoGPチャンピオンを夢見てMoto4 アジアを戦う3名の中学生は、日本で所属するチームの監督もスゴい人物だ。まず、虎太郎が小学5年生から所属する56RACINGを率いるのは、かつてMotoGPライダーとしてヤマハ、カワサキ、ホンダのマシンを駆り、カワサキ時代の2006年オランダGPで自己最高の2位を獲得した中野真矢。2009年限りで現役を引退し、2012年から若手育成を目的としたチームの運営を続けている。
「全日本のヤマハファクトリーチームでシリーズチャンピオンを獲得した後、海外では11年間レースを戦いましたが、それ以前のところにさかのぼると、僕はSP忠男レーシングチームという名門の出身。だから現在でも忠さん(※創立者の鈴木忠男)のトレードマークである目玉のイラストが入ったヘルメットを受け継いでいるのですが、自分自身がSP忠男に育成してもらったライダーなんです。ロードレースというのは、ミニバイクくらいまでは親子でも十分に戦えるのですが、さらに上を目指そうと思ったらとても大変。うちもそうだったのですが、だからこそ苦労している若いライダーを助けたいという想いをずっと持っているんです」

ちなみに1期生は、鈴鹿8時間耐久ロードレースの優勝経験もあり、今季限りでの引退を表明している名越哲平。その後、56RACINGは「Road to the World」というより明確なスローガンを掲げたが、「あくまでも育成チームという立場から、ミニバイクレースとロードレースの地方選手権あたりまでをサポートし、その後はプロを目指すライダーが集う大きなチームに巣立ってもらうというのが、基本的なスタンス」だと中野は話す。ただし、全日本ロードレース選手権のJ-GP3クラスに、若手育成のための特別参加枠が設けられたことから、2025年は虎太郎とともに全日本に参戦。今季は、Moto4 アジアで勝つためのスキルを学ぶことを目的に、再び虎太郎と全日本にフル参戦している。

一方、隼和と和玖が所属するチームを率いるのは、現役レーサーの長島哲太だ。世界選手権のMoto2クラスでは、2020年の開幕戦カタールGPで優勝。2024年から3年計画で、ダンロップタイヤの開発を目的として全日本最高峰のJSB1000クラスにフル参戦を続け、フルウェットとなった2026年第6戦ではついに勝利を挙げた。長島は、レースへのフル参戦を休止してホンダのテストライダーとして精力的に活動していた2021年に、若手育成を目的としたTN45を設立している。
「自分がポケバイ、ミニバイク、ロードレースとステップアップした際、一番苦労したのはお金。本当は、2012年に全日本J-GP3で3勝を挙げ、翌年は海外に行きたいという想いが強かったのですが、何千万単位の費用が必要で実現しませんでした。自分の中に、あのとき世界選手権のMoto3クラスを走れていたら、もう少しGPで活躍できたのではないか……という後悔のようなものが少なからずあります。だから、経済面が理由で、才能のある若いライダーが埋もれてしまわないチームを作りたいという想いがあったんです」

そして長島は、現役時代にチームを設立することにこだわった。「ライディングの技術を教えるときに、近年のレースシーンを経験として知っているほうが、説得力があると思うから」と長島。またこの3年間は、ファクトリーマシンではないバイクかつダンロップタイヤでJSB1000クラスを戦ってきたことから、「多少は不利な条件でもライダーの技量次第で戦えることを、間近で見てもらいたかったんです。監督がここまでやっていたら、若い子たちは誰も言い訳できないと思うし、そうでないと海外では通用しないので」とも語る。

最終目標がMotoGPなのは同じだけど……
チーム監督、もちろん家族やメカニックをはじめとするチームスタッフなどにも支えられ、隼和と和玖と虎太郎は、順調に実力を伸ばしている。それと同時に、今後のステップアップについて、これまでよりもリアルに考える年齢にもなってきた。ただし、思い描く理想のプランは、微妙に違っているようだ。
まず隼和は、どちらかと言えば一直線で世界に駆け上がることを理想としているようだ。
「できることならMoto4 アジアは1年で卒業して、来年はヨーロッパのシリーズへ。そこもなるべく早く駆け上がって、世界選手権に挑戦したいと思っています。もちろん最終的な夢はMotoGPチャンピオン。これは和玖や虎太郎も同じはず。ということは、同じようなタイミングで同じ道をたどって競うことになるわけで、今後もライバルになり続けるんだと思います」

隼和と比べたら和玖は、もう少し現実的に、自分の将来を予想している。
「これまでのレース経歴を振り返ってみると、順調にステップアップしているようで、苦戦したり一歩及ばなかったりしたことも多かったです。世界選手権のMoto3クラスに参戦できるのが18歳からなので、すべてが完璧なら21歳でMotoGPクラスにたどり着きますが、これまでの経験からそんな簡単にいくわけがないことは知っているので、ほかのライダーもそうだと思いますが、2年ごとのステップアップを目指すのが現実的だと考えています」

そして恐らくもっとも冷静に、自分の未来像を俯瞰しているように見えるのが虎太郎だ。
「Moto4 アジアも、1年で終えるのともう1年残って経験を積むのとどちらがいいのか、悩ましいところ。その先はヨーロッパですが、なるべく向こうの感触に慣れてから世界選手権のMoto3クラスに行きたいけど、なるようにしかならないとも思っています。だからあまり先のことを考えすぎず、いまやるべきことをやっている感じ。まだ、ようやく『Road to MotoGP』のラインに乗ったところなので、どう攻めるかはこの先次第。選択にミスがないように成長していきたいです」

中学3年生の戦いは、ここからが本番!
そんな隼和と和玖と虎太郎が参戦するMoto4 アジアは今季、全6ラウンド12レースが予定されており、基本的にはMotoGPのアジアラウンドと併催されるため、10月以降に4戦を実施する連戦となる。序盤の2戦を終えて、ランキングトップに立つのは開幕戦で2レース優勝を達成した隼和。これを4レースのうち2レースで2位を獲得した和玖が6点差のランキング2番手で追い、同じく2レースで表彰台に立ちながらもラウンド2のレース2を他車の追突による不運なリタイアで終えた虎太郎は、隼和と25点差のランキング5番手から巻き返しを図る。

ラウンド3の舞台はモビリティリゾートもてぎ。MotoGPの日本グランプリと併催で、10/3(土)の16時10分からレース1、10/4(日)の8時45分からレース2が開催される予定となっている。Moto4 アジアはYouTubeでもライブ配信されるが、今年は小椋藍の走りを見るため日本グランプリの現地観戦を予定している人も多いはず。土曜日はちょっと遅め、日曜日はかなり早めの時間帯だけど、ぜひ日本の中学生が世界を目指して戦うMoto4 アジアも応援してもらいたい!
ちなみにこの3名のうち虎太郎は、全日本にもフル参戦しているが、8月下旬に開催された第5戦「スーパーバイクレース in もてぎ」のJ-GP3クラスには、Moto4 アジアを見据えて隼和と和玖もスポット参戦。ライセンスの関係からノーマル車両の特別参加枠で戦うことになった和玖は、クラス優勝したものの全体では7位だったが、隼和と虎太郎は激しいトップ争いを繰り広げ、隼和が優勝、虎太郎が僅差で2位を獲得している。ただしMoto4 アジアのマシンは仕様が異なり、全員がイコールコンディションとなるため、どんな戦いになるか予想がつかない。



最後に、自分のどんなところを見てほしいか、それぞれに答えてもらった。ぜひ、観戦の参考にしてもらいたい。まずは隼和のメッセージを紹介しよう。
「昨年、全日本のJ-GP3クラスにフル参戦していたときから、『何も武器がない』と言われ続けてきて、自分でもそう思っていますが、ここまでのMoto4 アジアでひとつだけ評価できるとしたら、外国人ライダーはがむしゃらに前を狙いたがるのに対して、自分は冷静に状況を判断して、タイミングを見て仕掛けられていると思います。まだそれしかない……とも言えるのですが、そういうレース展開の部分を見てもらえたらうれしいです!」

次に和玖。意外な見どころも教えてくれた。
「Moto4 アジアはかなりレベルが高く、開幕戦と第2戦ともに一歩及ばずというカタチに終わりました。とはいえ、すぐに大きく進歩するわけではないと思うので、できることをひとつずつやっていくだけだと思っています。自分は1歳から英会話教室に通っていて、英語がしゃべれるというのはけっこう大きな強みだと思います。走りのほうはなんでしょうね……。パッと言えるモノはないですけど、英語でのコミュニケーションと、笑顔には自信があります!」

そして最後に虎太郎。こちらも、ぜひ応援の参考にしてもらいたい。
「ライバルたちと比べて、走りに関する引き出しの多さには自信を持っています。だから、どういう展開に持ち込むかというのが自分のレースの見どころ……と言いたいところなんですが、今年はなかなかそれが活かしきれていません。逆に『あ、コイツちょっと焦ってる!?』なんてところも、観戦していたらわかると思うので、そういう部分も含めて楽しんでもらえたらうれしいです。もちろん自分としては、引き出しを全部開けて、持てる力を出し切って勝つのが目標です!」

この先、日本のレースシーンをけん引することになるであろう隼和、和玖、虎太郎。いまのうちにちょっと注目しておいて、損はない!
知識隼和(ちしき・はやと)

2011年7月11日生まれ、大阪府出身。父親に連れられて訪れた鈴鹿8耐会場でのバイク体験試乗をきっかけに、5歳からバイクに熱中する。長島哲太が率いるTN45に加わりたいという思いから、家族で埼玉県に移住。2022年に新設された「FIM MiniGP ジャパンシリーズ(2026年からMotoMini)」に参戦し、2024年にシリーズチャンピオンを獲得した(ワールドシリーズは総合6位)。2025年は全日本ロードレース選手権J-GP3クラスに参戦。特別参加枠で出場したライダーの年間最上位となり、2026年のMoto4 アジア出場権を獲得した。Moto4 アジアのゼッケンは『16』。
国立和玖(くにたて・わく)

2012年1月8日生まれ、愛知県出身。5歳ごろからモトクロスバイクに乗りはじめ、小学3年生ごろからロード転向。FIM MiniGP ジャパンシリーズでは、新設された2022年に年間3位、2023年と2024年には年間2位を獲得し、日本代表として2年連続出場となった2024年のワールドシリーズでチャンピオンに輝いた。2025年は全日本ロードレース選手権J-GP3クラスに特別参加枠で参戦し、秋のセレクションで2026年のMoto4 アジア出場権を獲得。英語でのコミュニケーション能力も生かし、海外レースでさらなる挑戦を続けている。Moto4 アジアではゼッケン『8』を装着。
富樫虎太郎(とがし・こたろう)

2011年10月4日生まれ、群馬県出身。小学1年生からキッズバイクでレースに参戦。中野真矢に素質を評価されてスカウトを受け、小学5年生に上がる2022年から56RACINGに所属する。2023年のFIM MiniGP ジャパンシリーズでチャンピオンに輝き、ワールドシリーズでも総合2位を獲得。2024年からロードレースにステップアップした。2025年は、全日本ロードレース選手権J-GP3クラスに特別参加枠でフル参戦。同年秋のセレクションで2026年のMoto4 アジア出場権を得た。3名の中で唯一、2026年も全日本J-GP3に年間エントリー。Moto4 アジアのゼッケンは『11』だ。
写真/真弓悟史、Idemitsu Moto4 Asia Cup 文/田宮徹


































