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足まわりの手入れにより、前回第9話の作業で低速から高速までのサスの動きが非常によくなったカワサキ ZZR600。気を良くして最近高速走行を繰り返していたところ、外乱の影響を感じてトップケースの位置が気になり始めてきました。
そこで当記事では高速走行時の乱流の影響を減らすのと、前後ピッチング時の不快な重心変化低減を狙い、あれやこれやと細工してみました。
高速での安定性を求めたトップケース付き「仮想アウトバーン仕様」
以前に、トップケースの位置を段階調整出来るようにいじったことはありましたが、高速走行での車体の振れをさらに抑えるべく、トップケースの取り付け位置を、より車体のセンターに近づけられないものか試してみたくなりました。
例えばタンデム走行を考えずに、後部座席上にトップケースを移設したらどうだろうかと思いつき「何が部材になりそうなものはないか?」と車庫を見渡すと……以前自転車雑誌の山岳レースの撮影で使っていたホンダ SL230用のスチール製社外キャリヤを発見。
このキャリヤは照明スタンドの搭載のために、部材を追加溶接して撮影で愛用していたものですが、この増設した後部の骨組み部分がZZR600のタンデムシート上の面積に丁度いいように見えたんです。
早速、その部分を切断してバリ取りをし、ついでに横のグラブレール部も切り取って保管しておきました(これも後日役に立ちました)。

ちなみに、トップケースの位置が車体の中心から離れると、車体の前後が大きく揺らされたり、路面の荒れや強い横風の影響などを、ケースなしの状態よりもかなり強く受けるようになります。
重心が分散してしまうことや、空気の流れが大きく変わってしまうことが原因ですね。
また、テストコースで試した超高速域だと切り返しなどでハンドリングにも影響が出ました。
公道ではそこまで飛ばしたりはしませんが、今回は個人的な空力への興味もあって、「仮想アウトバーン仕様」を副テーマとして取り掛かることにします。
トップケースを後席着座位置へ移設
切り取ったスチール部材を持って、日頃カスタムなどで懇意にしてもらい、無理なリクエストにも答えてくれる葛飾区・堀切の狩野溶接工業に実車を持ち込みました。
代表の狩野敏也さんに、既存のキャリヤに何らかのステーを伸ばして付け、切り取ったSL230用キャリヤの半分を使えないものか相談に乗っていただくためです。
まずはタンデムシートとのクリアランスも適度に確保しつつ、元のキャリヤステーから簡単に脱着出来るような仕掛けができないかと考えました。そして、狩野さんの工場にあった9mmの丸棒ムク材で強度を確保し、台座として板材を加工して元のキャリヤの車体側面に座を溶接する加工を試みます。
座になる板材は、裏からナット締結をせずに済むようにタップでネジ穴を作り、車体外側からボルト4本で取り外し出来るようにしました。

シートとのクリアランスはあまり広くして重心を上げたくないので、程よく出来るだけ低い位置でトップケースの台座になる部材を溶接。
溶接が終わりキャリヤが冷えたら、酸化する(=サビる)前に、すぐさま暫定塗装を施して完成。加工したキャリヤの出来上がりに大満足な私に対して、狩野社長と工場スタッフの藤枝クンからは「カッチョ悪ーい!」と見た目が不評でしたけれど……。
まあ、少々不評を買おうが走ってみなきゃ分かりません。
深夜、道路の空いた時間帯に軽く実験がてら走り出してみると、やっぱりピッチング時や少しペースを上げた際の切り返しでは、以前のトップケース位置の頃と比べて車体の上に乗っている物の重心のバラけた感じが少なく、横風で後ろが軽くもっていかれるような感触も少なくなっています。
キャンプ泊ではなく、ビジネスホテルや旅館に泊まる荷物量で例えば自宅のある千葉から関西までひとっ走りとか、そんなツーリングならこの位置で丁度いいんじゃないかと思いました。




作業途中にサイドカバーの亀裂を発見!コチラも修理を……
この作業の続きとして、自分のガレージで細かい箇所の仕上げや塗装もし直したんですが、そうこうしているときに不具合を発見。車体後部のグラブバーを持ってセンタースタンドをかけようとしたところ、サイドカバーに亀裂が入っているのに気付いてしまいました。
スタンドがけの際、上腕内側がカバーに強く接触して圧をかけ続けたため、ここに亀裂が入ったのかも。バイオレットの純正色のカバー類は中古ではほとんど見かけないので、急きょ修理を試みることに。

サイドカバーの外側にはあまり手は触れず、内側の脱脂・汚れ落としをしてから亀裂に沿って若干切れ目を入れ、プラリペアを流し込む溝を作ります。そこにポチポチとプラリペアを根気よく流し込み、硬化。
割れ目を少しだけ開き気味にして溶液を浸透しやすくして接着後、硬化を待って翌日にプラ板を短冊状に切って重ね張りしてみました。
ガチガチに補強してしまうと別の場所に応力が行ってしまうかもしれないし、多少しなりの余地を残しておくように、接着剤も硬化後に柔軟性が少し残るタイプを選びました。
ZZR600に限らず、ZZR1100やニンジャなど同時代のカワサキ車で、純正色のカバー類の調達で困っている方、似たような破損があったらプラリペアは便利かもしれません。
なお、この亀裂の要因としては、純正グラブレールの位置も関係あるかもしれません。デザイン的にこういう造りになったのでしょうが、再び亀裂を生じさせないために、レールを外側に追加増設することにしました。
そこで登場するのが、SL230用キャリヤの端材のレール。これが実にいい感じの大きさで、純正レールの外側に90度外に向けて溶接したところ、スタンド掛けがすごくやりやすくなりました。
この増設も含め、狩野溶接さんには部材を持ち込んでは半自動、TIGと、強度を要求する箇所の溶接を安心して依頼できたのが助かりました。





「あれ、今度はステップが滑る!」さらなる劣化箇所を発見
そのほか細かなところの確認&微調整をするため走行実験を繰り返していた某日、足の力を踏ん張るステップに何か心もとない感触が。
早速そこを見てみると、ゴムの一部が欠け落ちていました。これでは滑りやすくて、荷重をかけて足が抜けたら危ない。すぐに新品を調達して交換しました。
ところで話題が変わりますが、夏場、各種パターンで走る際に新たに入手した物がいくつかあり、その中ではタクティカル系のグローブが使いやすく非常に役に立ちました。
警察特殊部隊出身のボスが主宰する田村装備開発がリリースする「マルチタスクグローブ」です。
これはグリップの握り感がトリガーアクション対応でタッチがよく、スマホ等のタッチパネルにも対応可能。以前から、同社のステルスグローブという薄手のグローブを愛用していたのですが、マルチタスクもフィンガータッチの感触が分かりやすく、雨の日のブレーキングなど神経を使う場面ではデリケートな操作がしやすくて気に入っています。


元はと言えば、ガチで凶悪犯に立ち向かう銃器対策班や自衛隊のエリート部隊にいた人たちが会社を設立し実地使用を念頭に作られた製品なので、引き金のタッチを感じ取る真剣度が伝わってきます。
コレって、深くバンクしながらの微妙なブレーキングタッチにもつながるものでは?と個人的に感じた次第。危険度の方向性は違いますが、真剣な世界なのは一緒かもしれません。
かくして、冒頭に書いた「仮想アウトバーン仕様」の位置変更。そのままで特に不便もないので、現状はその位置でトップケースを使用しております。
ですが、この暑い夏に実は事件があったんですよ。熱疲労って、怖いですね!
ああ、純正色のタンクが……。
レポート&写真●レポート&写真●小見哲彦 編集●阪本一史/上野茂岐