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前回の第8話では、リヤサスの作動効率アップとスイングアーム周辺のリヤホイール各部の点検と分解整備を紹介しました。
整備後は、小さな路面の凹凸通過でのサスの反応が一層よくなったので、低速から高速域まで快適度がアップ。でも、そこで気になってきたのがフロント側の動きでした。そこで第9回の当記事ではちょっと趣向を変え、「他力本願」でのフロントフォーク周りのリフレッシュ作業をレポートします。
リヤサス整備後に生まれた、フロントサスへの不満
整備を実施してリヤサスの入りが良くなった分、「スプリングをもう少し締めた方がいいかな?」という出来事がありました。
ZZR600を整備している車庫に来ていた姪っ子が、私がいつもいじってるこのバイクに興味を持ったらしく、初めて「乗ってみたい」と言ったんです。そこで、タンデムで近所を軽く走ってみると、じんわり目に加速しても、まだプリロードを締めた方が良さそうな雰囲気が……。

というのも、加速時にヘッドライトの光軸が思った以上に上向き気味になってしまうんです。
両足接地では、カカトまでベッタリ着いて膝が軽く曲がるくらいだし、タンデムでの感覚とはいえ、まだプリロードが柔らか過ぎかもなぁと感じて、オーリンズのスプリングを、もう1回転締め込むことにしました。
また、そんなリヤの設定変更にフロントサスの方をバランスさせるべく、専門ショップでの作業を頼もうかと検討してみました。
以前知人がヤマハ・セローのサスペンションをオーバーホールしてもらったところ、スムーズな作動となり、しっとりした車体の落ち着きに変貌したことがありました。
私もそのセローに試乗して強く印象に残ったので、作業を行った埼玉県の「テクニクス」に分解作業をお願いしたいなと考えました。
調べてみると、同社HPに掲載されている摺動抵抗が少なそうなオイルシールも非常に気になるアイテムです。
早速連絡してみると、依頼を引き受けてくださることに!
広報担当の梅森 靖さんと折角なのでしっかり撮影もできそうな日程を擦り合わせ、車庫でZZR600のフロント周辺の点検も兼ねて、車体の分解を行なって準備しました。

ものぐさせず、サービスマニュアルの指示通りにフォークを外すとなると、アッパーカウル外しも含めた作業になります。フォークを外す段階まで作業を進めてステアリングのアンダーブラケットを緩めようとしたら、あれ?という程クランプボルトの締め込みが緩い。
そう言えば、この部分に触ったことなかったなぁ、変だなぁ、と思いつつも全部外し、車体を安定状態で数日置いておけるように、ジャッキとタイダウンベルト数本を併用して固定しておきました。
さすがプロ!丁寧な洗浄&研磨作業
外したフォークを携えて、後日意気揚々とテクニクスに訪れると、同社の開発担当の稲葉 翔さんが作業を担当して下さるとのこと。普段はオフロードをガンガン走って、サスの開発や調整をしているという頼もしいエキスパートです。
まずはフロントフォーク全体の軽い掃除から始まり、フォークの残存オイル量を測ってから総分解。
フォーク上部のクリップは、固着気味で若干外しにくそうな印象でした。分解された各部品は、いったん柔らかいオイルで丁寧に洗浄されるのですが、それで終わりではなかった


大きな浴槽のようなサイズの超音波洗浄器に入れられ、各部品の細部に入り込んだ細かな金属粉等も徹底的に除去されます。
フォークオイルの交換を経験した人なら、オイルの色が走行距離や条件によっては暗いグレー色になってるのを見たことがありますよね。あのグレーというかガンメタ色、微細な金属粉なんですよね。
この作業を終えてエアブロー。そして薄く保護的な処理を終えると、大きな旋盤にインナーチューブを取付けて表面の荒れを整える研磨作業になります。
最初は細かな番手のペーパー、その後より細かなペーパーで表面を滑らかに仕上げると、最後は研磨用の綿で磨き上げます。すると、微妙なピンホールや表面の曇りが取れて、インナーチューブはすっかりきれいになりました。
それでも稲葉さんが言うには、まだ表面が荒れているので本当はコーティングと再研磨がお勧めとのこと。将来、要検討です。





バネレートの計測でデータを保存しておき、組立ての準備で同社で在庫しているメタル類やオイルシールを選択。ここで注目のオイルシールとダストシールが登場。純正と比べてフリクションの低減が期待できそうな、SKF製のオイルシールとダストシールです。
上記のように丁寧に洗浄されたボトムケースに、このグリーンのシール類が装着され、組立てと注油が済むと同社の言う「基本的」オーバーホールが終了!
インナーチューブの再コーティングというのにも非常に興味を持ちましたが、ここまでの作業の丁寧さとオイルシール類でどう変わるのかを、まずは体感してみることにしました。当面は、ZZR600全体のマメな掃除とインナーチューブの表面保護を常に意識して現状維持ということに。




現行モデルにも劣らぬ、しなやかな作動に感心!
仕上げてもらったフォークを持ち帰り、早速車体を復元。
再組立ての際には、フォークの組付けは当然ながら、その周辺で何か不調がないかも留意して作業を進めます。フェンダーの取付けが左右合わせると6点もあるのと、フェンダー裏に鉄製のブリッジ的な部品が沿わせてあるのですが、そこの錆落としと歪みもチェックして、塗装も実施。
こういう部品が歪んでいたらフォークの作動を邪魔するし、フォークがきちんと平行に動くかは大事ですよ。ここでは、紹介し切れないほど作業工程の写真があり、そうして撮影しながら復元していたら結構な時間がかかりましたが(笑)想定内です。
そして夜になり、道路が空いた時間帯にスローペースで発進して、試走を開始。
新品のオイルシールに加え、稲葉さんが調律師のような手作業で磨いて下さったインナーチューブ……20数年前のバイクなのに、動きのスムーズなこと!現行モデルにひけを取らない程です。
高速域での安定性から極低速域の反応、フロントブレーキを引きずりながらコーナーに入って行くような場面での挙動、通行車のスピードダウンをねらった意地悪な段差舗装パターンの路面も試しました。
サスを働かせながらのブレーキングでも、安全マージンが上がっています。どの場面も、以前のフォークの反応よりも明らかに良くなっており、第8話でお伝えしたリヤ周辺の改善と良い塩梅でバランスしてきたように感じます。
「本来あるべき性能を引き出すというか、取り戻す作業をしただけです」とはテクニクスの広報・梅森氏の言葉ですが、思い描いたような前後バランスが得られて実に気持ち良い走行感になりました。
ZZR600・2号機、外見こそ派手に変わりはしませんが、かつて所有していた1号車を超える内容で理想形に近づいてきたかも。

車体の再組立てを終え、数種類の想定で快適に走ってきたZZR600です。
快適度アップに気を良くした結果「トップケースの空力や外乱特性をもっと改善できないものか?」とまた怪しげな計画が頭に浮かんできちゃいました。
以前山岳での撮影ロケで使っていたオフロード車のリヤキャリヤが余ってたもんで……。
レポート&写真●小見哲彦 編集●阪本一史/上野茂岐
取材協力●有限会社テクニクス