これから紹介する車両をいきなり“ヘン”と言い切ってしまうのは少々失礼かもしれない。どれも並み居るライバルを凌駕するため、開発陣が命を燃やしたモデルたちであることは間違いないからだ。
とはいえ、現在の目で見るとユニークな機構や「どうしてこうなった?」という車両があるのも事実。
残念ながら主流となることはなかったモデルから登場するのが早かったモデルまで、開発車の強い思いを感じられるバイクを紹介していこう。
クルマ用1600ccエンジンをバイクに搭載 アマゾネス
ブラジルで生産されていたフォルクスワーゲン・ビートルなどに積まれていた空冷1600ccフラット4エンジン(56馬力)を搭載したアマゾネス1600。モーターサイクリスト誌1981年11月号の表紙を飾ったこともあった。
クルマのエンジンを搭載したバイクと言えばボスホスが有名だが、そのコンセプトで製作されたのはこちらのほうが早い。
なお、370kgもの車重のため最高速度は150㎞/hに達しなかった。
国内唯一の実車(76年式)は大阪にある ミュンヒ マムート 1200TTS

●大阪府八尾市の珈琲店「ザ・ミュンヒ」に実車があるとか、村上もとか先生のバイク漫画「熱風の虎」に出てくるとか、話題は尽きない。
マンモスの意味を持つマムート1200TTSはカスタムビルダー"フリューデル・ミュンヒ"が製作。
ドイツNSU製1200ccの4気筒エンジンを搭載していた。
2000年にはアウディ製2000cc、260馬力のマムート2000を発売して話題に。そちらは約900万円で250台が限定生産された。
1958年の創業時から二輪駆動車を販売 ローコン・スカウト
後輪だけでなく前輪にもチェーンで駆動力を伝える二輪駆動車。
日本への輸入は現状止まっているが、本国アメリカでは現在も販売中。同様のチェーン駆動式2WDではドリームトキの「COMA」が有名だ。
スズキもかつて東京モーターショーで2WDのコンセプトモデルを毎年のように発表していた。なお、ヤマハは前輪油圧駆動式のエンデューロモデル、WR450-2TRACを2005年に限定発売している。

●前後輪ともチェーンで駆動され、サスペンションなど存在しないリジッドサス。泥ねい地や急傾斜の路面では圧倒的な走破性を誇る。

●85年のファルコラスティコ、87年のNUDA、そして写真のXF4/XF5(こちらは平成の91年)他、2WD試作車にご執心だったスズキ。
“ワイルド・スクランブラー”を標榜した ホンダ・ベンリイSL90

●高剛性のダブルクレードルフレームにしっかり締結された黒いレッグシールドがイカす。エンジン冷却を妨げない“逃げ”の形状もいい。
ホンダの4ストオフロードモデルは大まかに言ってCL→SL→XL→XR→CRFという系譜を持つ。
しかしその流れに反し、スーパーカブC90のエンジンを流用した初代SL90(1969年型)は泥除け用の大型レッグシールドを装備する激レアスタイルだった。
現存数は定かではないが、残っていたらかなり稀少であると言っていいのではないだろうか。
“ハブステア”以外にも革新の機構山盛り! エルフモト
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●ホンダエンジンを搭載し、耐久選手権用に開発された「elf e」。マフラーのエキパイがパワーユニットの上を通る様はなかなかに異様だ……。
78年から88年までの間、フランスのオイルブランド「elf」が開発し、世界に衝撃を与えたレーサー群。
ハブセンター・ステアリングと片持ちリヤスイングアームが特徴的で、さらにタンクをエンジン下に、マフラーを従来のタンク部に配置した超低重心マシンも開発した。
試作で終わったエレクトリックモペッド ユアサ・ギャスノンペット
バッテリーの名門ユアサが12V・40Aバッテリーを2個搭載した直流モーター駆動の電動スクーターを試作。車重は78kg(バッテリー重量含む)で、20km/h巡航での走行可能距離は120km。最高速度は30〜40km/hと発表。1970年のことだった。

●車体の横には「YUASA Gasnon-pet」と大書きされている。シートの前には針金で囲まれた物置きスペースも用意され、とにかく全てがかわいい。
あのダイハツが3輪スクーターを出していた!? ダイハツ・ハロー
前輪ひとつ、後輪ふたつの三輪スクーターと言えばホンダ。81年のストリームや後のジャイロ、ロードフォックスが有名だ。
だが、実は70年にBSAがアリエル3、75年にはダイハツがハロー(50cc2ストエンジンだけでなく電気モーター式も用意)を販売し、先行していたのだった。
こちらも現存数はどれだけあるのか不明。持っている人がいたらちょっと見せてほしいと思ってしまうお宝だ。
All Terrain Vehicle(全地形型車両)の元祖 ホンダ・US90
極低圧タイヤを装備するATVの元祖が70年登場のホンダUS90だった。
エンジンはスーパーカブC90系。車体を6つに分解して持ち運べる構造を持ち、標高1800m以上の高地にも対応できる構造のキャブレターを装備していた。
時代を先取りしすぎた異形&革新のスクーター ホンダ・ジュノオK/ジュノオM

●ミッションは3段MT、始動はセルフ式。車重が重く、馬力向上や軽量化を行ったモデルを矢継ぎ早に追加したが人気は高まらず。
189cc空冷4ストOHV単気筒エンジン+FRPボディ+超大型スクリーンの本格スクーター、ジュノオKを1954年に発売したホンダは、61年、124cc空冷4ストOHV水平対向2気筒エンジンにバダリーニ式ATを採用したジュノオM80を発売。
共にスーパーカブシリーズの圧倒的人気に隠れてしまった非常にレアな存在だ。

●白い車両は62年に排気量アップして登場したジュノオM85。採用された油圧式無段変速機は2008年のDN-01にも使われ再び注目を浴びた。
いかがだっただろうか?
確かに時代の徒花とも言える車両もあるが、先取りしすぎて時代に受け入れられなかった車両もある。
今後こういった“ヘン”といえる車両が出て来ないかもしれないが、こういった変わり種が出てくる時代を経たからこそ、今のバイクたちがあることは忘れてはいけないだろう。