最初のニンジャ「GPZ900R」と、最強のニンジャ「H2」が映画で共演する記念に
「Z」と並び、カワサキを代表するブランドの「Ninja」。
その元祖と言えば、映画『トップガン』でトム・クルーズ演じる主人公マーベリックの愛車としても登場し、一躍世界的に有名になったGPZ900Rです(*)。
ちなみに、2020年夏に公開される『トップガン』の続編新作『トップガン マーヴェリック』にもGPZ900Rは登場するんです!
『トップガン マーヴェリック』のPVには、マーベリック(変わらず演じるのはトム・クルーズです!)がガレージでバイクカバーをめくると、その中にはあのときのGPZ900Rが……というシーンが。公開が待ち遠しい!
*:正確には「GP」のロゴが大きく、「Z900R」のロゴが小さい。そのためA1型、A2型は「GPz900R」と表記される場合もある。1986年から発売のA3型から「GPZ900R」のロゴの大きさが全て同じに。
ちょっと話がそれましたが、カワサキはGPZ900Rの車名に「Ninja」と付けるなんてことは考えていなかったものの……北米カワサキのスタッフがGPZ900Rを初めて見たときに「こいつぁcoolだ!Ninja(忍者)にしようぜ!」(ちょっと意訳&想像入っています)と言ったことが「Ninja」命名のきっかけとなりました。
そのため当初は北米仕様のみ車名に「Ninja」が付いていましたが、GPZ900Rが人気を得ていくとともに、Ninjaのペットネームは日本を始めとする各国カワサキが使用する形となりました。マシン自体の性能も高く、GPZ900Rは1984年発売のA1型から最終型となる2003年のA16型まで約20年に渡り各国のファンを魅了し続け、多くの国で「ベストモーターサイクル・オブ・ザ・イヤー」を獲得しました。
またGPZ900Rから始まったNinjaブランドも海を超えて6大陸まで轟くカワサキを代表するビッグネームとなり、現在では125ccから1400ccまで様々なラインアップを展開しています。
特に、川崎重工業グループが総力を結集して開発したNinjaシリーズの最高峰といえるのが、スーパーチャージャーを組み合わせ200馬力超を発揮するエンジンを搭載した「Ninja H2」。バイクに詳しくない人でも、名前を聞いたことがあるマシンではないでしょうか(過給機付きなので「ターボ付きバイク」なんて言われたりもしますが、スーパーチャージャーです)。
でもって、このNinja H2も『トップガン マーヴェリック』に登場! こちらは滑走路を走るシーンがPVで見られます。

●スーパーチャージャーを組み合わせた1000ccエンジンを搭載するニンジャ。写真はカーボンパーツが装着された「H2カーボン」。2019年モデルでは最高出力231馬力を発揮します! お値段も363万円とかなりスゴい数値ですが。
では『トップガン』同様、30年以上経っても愛され続け、最新作も作り続けられる「Ninja」の元祖を振り返ってみましょう。
フラッグシップ=リッターオーバーの時代に900ccで出したワケ
GPZ900Rが登場する1984年、もとい1980年代前半は「バイク黄金期」とも言われます。実際、各メーカーは毎月のようにニューモデルを出し、ライバル車が登場するとさらにそれを上回るモデルを出し……ということが当たり前のような時代でした。
中でもリッターオーバークラス、国内ではメーカーの自主規制があったために販売先は海外だったわけですが、いわゆるフラッグシップモデルの競争は強烈でした(国内でも逆輸入車として入手は可能でした)。
そんな中でも最も有名なバイクと言えば、初代カタナであるスズキGSX1100Sカタナでしょうか。
そうした時代に、なぜカワサキは1000ccにも満たないモデルを登場させたのでしょうか? 理由は、往年の名車「Z1」の成功と限界にありました。
900ccのZ1は、「ベスト・イン・ザ・ワールド(世界一)」を目指した世界戦略車として生まれ、大反響を呼びました。1973年には数々の速度世界記録を樹立したり、ヨーロッパでも耐久レースで活躍したり、と間違いなくカワサキのフラッグシップと言える存在でした。
その後Z1は、1015ccのZ1000、998ccのZ1000J、さらに排気量を拡大した1089ccのZ1100GPへと発展していき80年代を迎えるのですが、ライバルメーカーが4バルブ、水冷、Vツイン、ターボにロータリーなどさまざまな高性能エンジンを投入してくるなかで、2バルブの空冷4気筒で立ち向かうのには限界がありました。
Z1ベースのエンジンに変わる新エンジン案として、カワサキは2バルブの空冷6気筒を試作したものの「パワーもあるし、振動は少ないし、滑らかにまわるけど……なんかZ1みたいなインパクトが足りないんだよなぁ」(ちょっと意訳)とお蔵入り。
そして、最終的にたどり着いたのが「コンパクトで、熱にも強くて、パワーもでる!」900ccの4バルブ水冷4気筒エンジンという答えでした。カワサキの運命を変えたZ1=900ccという数字にあやかった面もあるのでしょうが、以降ヒット車を生み出す900という数字は「カワサキのマジックナンバー」なんて言われるようになりました。
今では当たり前となっている「サイドカムチェーン方式」を先駆けて採用
サイドカムチェーン方式は現在、各社のスポーツバイクが当たり前のように採用しているものですが、当時、バイクでは珍しかったサイドカムチェーン方式を採用したのはGPZ900Rでした。
大きなメリットは従来のものよりエンジン幅(クランク)がコンパクトになり、軽量となること。また、空気の流れがストレートとなり吸排気の効率を上げる効果もありました。
サイドカムチェーン方式の恩恵だけではありませんが、総排気量908ccながら最高出力115馬力というハイパフォーマンスを叩き出すことに成功したエンジンは、当時のテストで最高速度を253km/hまで引っ張り、ゼロヨン10秒55と、GPZ900Rを世界最速クラスのマシンにしました。
GPZ900Rの水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブエンジンは、「小さなエンジンを作る」というエンジニアたちが長年に追い求めていた夢を実現し、実際「当時のフラッグシップの常識だった1100ccよりも速いマシンになった」という事実が、スポーツバイク=サイドカムチェーン方式を確立したといっても過言ではありません。

●GPZ900Rのエンジン。それまで2-3番シリンダーの間に位置することが当たり前だったカムチェーンをエンジンのコンパクト化と吸排気の効率を高めるため左端へ配置。
コンパクトに仕立て上げられたフレーム、空力特性を追求したスタイリング
でも、GPZ900Rが凄かったのはエンジンだけじゃないんです。
大排気量車にダイヤモンドフレームを採用したのもカワサキとしては初の試みで、相当なチャレンジでした。
フレームはスチール製パイプのバックボーン部、アルミ角パイプのシートレール部、アルミのスイングアームピポット部の3つの部分をボルトでとめて組み合わせた構造で、当時「これが900のフレームなのか!?」と驚かれるコンパクトなものでした。

●エンジン同様にコンパクトさを追求したGPZ900Rのフレーム。当時は構造解析ができるコンピューターがなかったため、1日数百kmを走るような実走テストを繰り返したといいます。
フロントホイールが16インチということもあってGPZ900Rのハンドリングはクイックで、コーナーでの倒し込みでは「これが900ccのバイクなのかと思わせるほど軽かった」という声も。
ただ“気むずかしいハンドリングマシン”というわけではなく、当時の雑誌のテストでは「190km/h以上のスピードで、サーキット等の高速コーナーをクリアしようとすると軽いヨーイングが発生するが、それは乗り方を少し変えて、バイクに身体を預けてしまえば消失する」というコメントもあり(もちろんライダーのテクニック次第な部分もありますが……)ハイスピード領域での安定性も兼ね備えていました。
それもそのはずで、外観はハイスピード領域での空力特性を重視して形づくられており、Cd値(空気抵抗計数)は当時のバイクとしては抜群の0.33(低いほど優秀になります)を達成していたのです。
ちなみに外観デザインは当初「水面で跳ねるイルカ」をイメージにデザインは進められていたという意外な事実が!
ほんわかするイメージが「打倒1100ccのフラッグシップ」というコンセプトとうまくいかなかったというか、マシンに求められるイメージと違ったというか、その要素は薄められていったといいます。
始まりのGPZ900R・A1
A1型はフルパワー115馬力の欧州仕様と、110馬力の北米仕様が用意されました。
北米仕様は欧州仕様に比べハンドルが高め、ステップが前寄り、リアフェンダー短め、サイドリフレクター標準装備など外見的な違いがあるほか、最終減速比など性能面でも細かい部分が異なっています。
が、何より大きな違いは最初にお伝えしたように「Ninja」と付くのは北米仕様だけ。
ちなみに欧州仕様といってもスイス向けモデルは最高出力が69馬力だったり、ドイツ&スウェーデン向けモデルは最高出力が100馬力だったり、国によってメーターがマイル表示だったり、細かい違いが色々ございますが、今回はこの辺でご容赦ください。
GPZ900R・A1欧州仕様(1984年)
「Ninja」が付かない欧州仕様。ルミナスポラリスブルー×ギャラクシーシルバー(青×銀)、ファイヤークラッカーレッド×メタリックグレーストーン(赤×グレー)の2色を展開。
GPZ900R・A1北米仕様(1984年)
ステップの上部分に「Ninja」の文字が描かれる北米仕様。サイドカウルやナンバープレートステーに現地の法規に基づきリフレクターが付いている。車体色はファイヤークラッカーレッド×メタリックグレーストーン(赤×グレー)のみ。
カワサキGPZ900R諸元
[エンジン]
水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 総排気量908cc
ボアストローク72.5mm× 55.0mm 圧縮比11.0 点火方式電子進角式トランジスタ 始動方法セル
最高出力115ps/9500rpm(欧州) 110ps/9500rpm(北米)
最大トルク8.7kgm/8500rpm
変速機6段リターン式
[寸法・重量・容量]
全長×全幅×全高2200mm×750mm×1215mm (アメリカ仕様、カナダ仕様、スイス仕様は全長が2150mmになる)
シート高780mm タイヤサイズ前120/80V16 後130/80V18
乾燥重量228kg 燃料タンク22.0L オイル4.0L
(まとめ●モーサイ編集部)
2019年11月22日訂正:サイドカムチェーンの採用はヤマハGX750が先でした。量産車初という記述は誤りでした。お詫び申し上げます。