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本誌にたびたび寄稿しているイギリス人モーターサイクルジャーナリストのアダム・チャイルドが、選ばれしドゥカティオーナーのためのプレミアム体験試乗会「DRE MotoGPエクスペリエンス」に招待された。その貴重なレポートを前・中・後編に分けてお届けする。
夢のような一日
私は今、市販スーパースポーツモデルの中で最上級の性能を誇るドゥカティ パニガーレV4Sから降りたところだ。信じられないほど速く、私の技量をはるかに凌駕するポテンシャルを秘めたマシンである。汗だくになった体を必死に拭きながら、ピットガレージ内でライディングテクニックについて人と語り合う。

これだけの記述では、それほど珍しくない光景を描写しているように思えるかも知れない。どこのサーキットの走行会でも見られるような場面だ。しかし、もっと詳細に述べると事情は変わってくる。場所はイタリアのアドリア海沿岸にあるミサノ・ワールド・サーキットであり、話している相手はMotoGPで2度の世界チャンピオンに輝き、伝説的なレーシングライダーとして崇められるケーシー・ストーナーなのである。
つまり、決して「普通」の状況ではないということだ。ケーシーは史上最高の才能を持つライダーとして名を挙げられることも多く、絶大な尊敬を集めているレーサーの一人であり、このサーキットは世界で最もテクニカルで難易度の高い歴史的なグランプリコースのひとつである。それゆえに私の鼓動は高鳴っている。だが、普通ではない要素はそれで全てではない。


ミサノでケーシーと過ごしていることに若干慣れ始めたそのとき、ガレージの外にいるドゥカティ・コルセ(ドゥカティのレース部門)のクルーメンバーが私を見て、小さくうなずいた。
「チャド、SBK仕様のV4Rに乗る時間だ」
時間の流れがスローになり、再び私の鼓動が激しく高鳴る。まるでサーキット仲間にそうするように「後でまた話そう」とケーシーに声をかけ、私はある事実に意識を集中させようと努める。それは、SBK(スーパーバイク世界選手権)の歴史上、最も圧倒的な強さを誇るマシン――今シーズン、この文章を書いている時点までの24レースで、ニコロ・ブレガ(23勝)とイケル・レクオナ(1勝)の手により、優勝を独占しているあのバイク――を、これから20分間、自分だけのものにすることができるという事実だ。

普通の夢なら、おそらくここで目が覚めてしまうところだろう。しかし、SBK仕様のパニガーレV4Rへと歩み寄る私の目には、レースウィークさながらにスムーズかつ効率的な動きでマシンの周りを立ち回るAruba.it Racingのクルーの姿が映っている。そして、これほどすばらしい体験でさえ、まだ今日のクライマックスではないという思いが頭を離れない。ワールドスーパーバイクでブレガとともに大記録を作り上げているこのマシンを走らせた後、私は続けて、MotoGPでマルク・マルケスが駆るデスモセディチGP26に乗り込むことになるからだ。そう、これは本当の話だ。驚くべきことに、このファクトリー仕様のスーパーバイクは、あくまで「前座」に過ぎないのだ。

DRE MotoGPエクスペリエンスの関門
この「極上の夢」のような体験をしているのは、私だけではない。ブレガのV4Rや、300馬力・160kgを誇るというマルケス車にまたがるチャンスを与えられたジャーナリストは世界で私ひとりかもしれないが、今回の「DRE MotoGPエクスペリエンス」はそもそも、ドゥカティが一握りの特別な顧客を招待し、SBKとMotoGPの両カテゴリーで世界をリードするマシンを体験する機会を提供するイベントである。そして、特別試乗会参加者全員にとって、ここにたどり着くまでの道のりは決して楽なものではなかった。

私と同様に、選ばれしドゥカティオーナーたちもまた、メディカルチェックやシミュレーターを使った訓練、技術説明、適性テストからなる本格的な準備プログラムの全てを受け、合格しなければならなかった。しかも、それはほんの始まりに過ぎない。
2台の特別なレーシングマシンを走らせる許可を得るには、厳しい身体的要件をクリアする必要がある。身長、体重、そしてBMIにはそれぞれ上限が設けられている。心拍数、血圧、そして全体的な身体能力も、ドゥカティが定める基準値の範囲内でなければならない。ドゥカティのエンジニアたちと医療チームが全面的に納得して初めて青信号が灯るのである。
走行前日の日曜日には、私たちはドゥカティ・コルセのエンジニアとともに数時間を過ごし、詳細な技術説明を受け、最後に適性テストに臨んだ。その内容は、SBK仕様のパニガーレV4RやMotoGPマシンであるデスモセディチGP26に備わっている各ボタンの機能、バイクがグラベルに突っ込んだ際の対処法、トラクションコントロールやエンジンブレーキの制御設定の変更方法など多岐にわたった。どのボタンをどんなときに押すべきか、そしてさらに重要な情報として、どのボタンを絶対に押してはいけないのか。ダッシュボードに表示される可能性のある警告メッセージと、それに対する適切な処置。学習すべき項目のリストは果てしない長さだった。
月曜日の朝、実際に走り出す前にも、サーキットで再度メディカルチェックが行われた。続けてレース用のバイクシミュレーターを使った訓練があり、そこでレーシングマシンのシフト操作を練習しつつ、ミサノにおけるブレーキングポイント、ターンインの地点、そしてコーナーの脱出ラインを学ぶ。
適性テストとFIM(国際モーターサイクリズム連盟)のメディカルチェック、現地でのメディカルチェック、そしてシミュレーターでのテスト全てに合格し、さらにドゥカティ・コルセの技術者たちが私のペースに満足して初めて、実際の走行プログラム開始にこぎつける。

私たちは、地球を離れるたった一度のチャンスのために生涯をかけて訓練してきた宇宙飛行士のような気分を味わった。他の誰も経験することのない忘れ得ぬ瞬間のために、果てしない準備を重ねてきたのだ。
最終的に、世界中から集まったごく少数の顧客だけが、この並外れた体験に参加する機会を手にすることができた。彼らの一日は私と全く同じ流れで進む。まずは市販車のパニガーレV4Sに乗り、次にSBK仕様のパニガーレV4R、そして全てが計画どおりにいけば、究極のごほうびとしてドゥカティ・レノボ・チームのデスモセディチGP26が待っている。これは、現役最速レベルのライダーたち、すなわちフランチェスコ・バニャイアと、マルク・マルケスが駆るマシンそのものである。

試乗までは緊張しっぱなし
ワールドドゥカティウィークが終わりを迎える日曜日に、その会場となったミサノワールドサーキットに到着するのは何とも不思議な感覚だ。慌ただしかった週末を終えて人混みはまばらになり、撤収作業が始まっている。このすばらしいドゥカティ創立100周年記念イベントは、多くの人々にとってはすでに幕引きを迎えている。

しかし、私と選ばれしドゥカティオーナーたちのグループにとっては、ここからが本当の始まりだ。他の人々が興奮の余韻に浸る中、私たちはこれから待ち受ける体験への期待で胸を高鳴らせていた。とはいえ、まずは所定の手続きを済ませなければならない。
受け付けを済ませ、ドゥカティコルセのチームに挨拶し、テクニカルブリーフィングに出席する。さらに、イギリスで事前に取得しておいたFIM(国際モーターサイクリズム連盟)の健康診断書を提示するなど、全27ページに及ぶ書類手続きもこなさなければならない。立っているだけでも、気温36℃の容赦ない暑さが刻一刻と高まる緊張感と同じように体にまとわりついてくる。
だがその夜は、昼間とは打って変わった雰囲気となった。一日の締めくくりは華やかで美しいディナーで、その席ではドゥカティのCEOであるクラウディオ・ドメニカリをはじめとする幹部の面々にも会える。それでも、私たちの笑顔や会話の裏には、引き続きある種の緊張感が漂っている。現状では試乗に関しては何一つとして確約されたわけではないからだ。ブレガが駆るSBK仕様のパニガーレV4RやマルケスのデスモセディチGP26に実際に触れる前に、明日の健康診断、シミュレーターセッション、そして最終評価をクリアしなければならない。それゆえ、見た目には祝宴のようでも、今夜の私たちにワインは用意されていない。あるのはたっぷりの水とおいしい食事、そして少しの胸騒ぎだけだ。

ディナーの席で、ベンジャミン・ライルやマーク・ブラックリーといった、熱狂的なドゥカティスタ(ドゥカティ愛好家)たちと語り合ったのも実にすばらしい体験だった。ふたりとも夢のようなガレージを所有し、もちろんスーパーレッジェーラV4チェンテナリオも購入している。彼らは社会的地位の高い人物だが、今夜ばかりはクリスマスの前夜を過ごす子供のような様子だ。朝が来るのを待ちわび、テレビやサーキットのスタンドから眺めることしかできないようなマシンを実際に走らせるチャンスを心から渇望している。ベンもマークもどんな体験が待ち受けているのか予想できていない(予想できるはずがない!)。しかし、これが人生で一度きりの、決定的な瞬間になることだけは確信しているようだ。

☆中編【SBK仕様のV4Rに試乗】に続く……
デスモセディチGP26試乗記は本誌2026年10月号でも読めるぞ!
report:Adam Child photo:Alex Photo/ドゥカティ まとめ:モーターサイクリスト編集部
































