目次
キャンバスの上で自由に筆を走らせているかのように、ドゥカティのスクランブラーシリーズは実に魅力的なモデルばかり追加してきます。昨シーズンには、都会の夜がとてつもなく似合う「ナイトシフト」、そして今シーズンはその名も「アーバンモタード」です。ドゥカティはよほどモタードが好きなのでしょうか、ハイパーモタードに続いて2台目のネーミングです。
ただ、乗ってみればアーバン=都会のモタードという名前は実に言いえて妙でした。都会の道を右や左へトリッキーに、颯爽と駆け抜けていくシーンの似合うことといったらありません。褒めすぎかもしれませんが、あらためてドゥカティはバイクが大好きな人たちが作っているのだと、心底納得した次第です。
☆動画で詳細をチェック!!☆
体格を問わず誰もが親しみを持てるサイズ感
ドゥカティスクランブラー アーバンモタードは、ナイトシフトやアイコンとボディディメンジョンは変わらないので、体格を問わず誰もが親しみを持てるサイズでしょう。前出の2車と違うのはフロントホイールが17インチ、タイヤが120/70ZR(ピレリ・ディアブロ・ロッソ3)とされていること、シート高が805mmと7mm高いこと、そしていくつかのコスメティック程度。
ですが、ストリートグラフィックを意識したタンクのペイントや、ハイ・フロント・マッドガード(デザートスレッドの流用ではなく、専用品)といった装備によって見え方は相当違います。テレビゲームに出てきそう、といったらくだけすぎでしょうか。いずれにしろ、アイコンとも、またデザートスレッドとも明らかに違うルックスであることは確かです。
またがってみると、おなじみのスクランブラーではありますが、足つきは微妙に違います。これは高さというより、シートの形状による違いかと。この形状ですが、内またにあたる角の部分が硬く、同じポジションで乗り続ける高速道路などでは気になる方もいるでしょう。もっとも、身体を前後左右に動かすモタードらしい乗り方をしていればまったく気にならないはずです。
ハンドルはサイズもポジションも変わっていませんが、モタードやオフ車のようにシート前方に位置取り、上体をフォークポストにかぶせるようにして乗ると、ピタリと姿勢が決まりました。リヤが暴れ出しても、これなら存分にコントロールできそうだと、再びドゥカティのバイクづくりに感心させられたポイントです。




一体感と爽快感に満ちたフィーリングが味わえる
走り出せば、17インチのフロントが軽やかに回りだして交差点だろうと、ヘアピンだろうと臆することなくノーズを向けていけました。切れ込みが少し大きくなるかと予想していましたが、妙なクセはまったくなくて、前のめりになった姿勢とあいまって一体感に満ちたフィーリングが味わえました。乾燥重量180kgに、ブレンボの4ピストンブレーキですから、減速性能に不満が出るはずもありません。小気味よく、またコントローラブルな制動性能で、しかもコーナリングABSまで標準装備していますから、安心感&信頼感もバッチリでしょう。
ドゥカティのL型ツインというと、いまだに低回転でギクシャクするイメージを抱いている方がいますが、スクランブラーアーバンモタードはアイドル付近ですらそんな兆候はありません。街中であれば、だいたい4000回転くらいは回っているはずで、この回転域はシルキースムーズ。渋滞などでそれ以下の回転になったとしても、半クラッチを多用するなどという場面は滅多にありません。また、足元の熱というのも空冷エンジンのわりに気になるレベルではありませんでした。803ccで73ps/8250rpmというパフォーマンスは絞り出している感覚ではありませんから、エンジンのキャパとしても余裕があるのだと思います。もちろん、夏の渋滞などではかなり熱くなるはずですが、それはスクランブラーアーバンモタードに限ったことではないでしょう。
一方で4000回転あたりからのワイドオープンは爽快の一言。ドゥカティらしくシャープで速い鼓動を伴った回転上昇にはいつだって胸のすく思いです。およそ5000から6000も回っていると、右手とエンジンが直結したかのようなツキの良さ。極端な話、これだけでもドゥカティに乗る価値があると断言したくなります。なお、100km/h巡航は6速でおよそ4000回転なので、これまたスムーズで心安らぐクルージングが可能でしょう。




乾燥重量180kg!! 身軽さは正義
アーバンから外れ、アンジュレーションのあるワインディングでは車格を大きく越えたダイナミックな走りにワクワクする思いでした。コーナー進入時も17インチらしい機敏さ、軽さが感じられ、これなら誰しもブレーキングドリフトなどにチャレンジしたくなるくらいコントローラブル! ディアブロ・ロッソ3とのマッチングも特筆すべきポイントで、それほど荷重を意識せずとも、あるいは熱が入り切っていなくとも、グリップは良好で、またコンタクトの感覚をしっかり伝えてくれます。軽さは正義であること、改めて思い知ることになりました。
S字での早い切り返しというのも、スクランブラー アーバンモタードにとっては得意中の得意分野。ツインエンジンの回転数、アクセル開度がコーナーと同調した時の気持ちよさは他にたとえようもありません。あたかも自分がモタードレースに出ているかのようなフィーリングで、脳内がハッピー要素で満タンになること請け合いです。
素直な足回りも魅力
足回りはリヤショックのプリロード/リバウンドが調整できるのみですが、実に素直です。今回試乗した個体は走行距離1000kmを越えたばかりだったので、フロントフォークの動きがコツコツしていたのですが、コーナーで意識して荷重させると渋さは気にならなくなりました。また、その後500kmほど走らせるとあたりがついたのか、コツコツは消えて高速道路でもよりスムーズな動きになったこともお伝えしておきましょう。この先、さらにスムーズネスは増していくこと、容易に予想できます。
お伝えしているとおり、スクランブラー アーバンモタードに長所は数多あれど、取り立てて短所といったものは見当たりません。しいて挙げるとしたら、ステップペグのグリップが本格的なモタードやオフ車に比べていくらか弱いところでしょうか。筆者としてはソールにグサりと刺さるような感覚が好みですが、スクランブラー アーバンモタードはさほど食いつきの良さを感じません。が、都会でスタイリッシュなシューズを履くバイカーからしたらこういった形状の方が喜ばれるのかもしれません。

同価格帯に目立ったライバルがいない「唯一無二の存在」
ところで、142万9000円という価格から眺めてみると、Z900RSやCB1100、あるいはGSX-S1000といったネイキッドのハイエンドに近いモデルが揃います。また、803ccにフォーカスするとMVアグスタのF3やツーリズモベローチェ、トライアンフ・タイガー800など。こうしてみると、スクランブラー アーバンモタードに直接的なライバル、似たような存在がいないことがわかるでしょう。ちなみに、ドゥカティのもう1台のモタード、ハイパーモタード950RVE(タンクのグラフィティがスクランブラー アーバンモタードと通じるグレードです)は182万9000円。水冷エンジンで114psなので、ネーミングは似ていてもキャラはだいぶ異なります。
同じスクランブラーシリーズに探してみても、当然ながらスクランブラー アーバンモタードは唯一無二の存在。欲しくなったら、あまり迷うことなくゲットできるバイクと言えるでしょう。すると、目の前に広がるのはアーバンなストリートか、はたまた悪路を含めたワインディングロードなのか、いずれにしても素晴らしきスクランブラーの世界が広がること間違いありません!
ドゥカティスクランブラー アーバンモタード主要諸元
エンジン:空冷4サイクルL型2気筒デスモドロミック(OHC)2バルブ
総排気量:803cc、最高出力:53.6kW(73ps)/8250rpm
最大トルク:66.2 Nm/5,750 rpm
車両重量:180kg、シート高:805mm、燃料タンク容量:13.5L
価格:142万9000円

レポート/写真●石橋 寛 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実