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クルマだけでなくバイクも電動化が進んでいる
二輪の電動化が急激に加速しています。
すでに中国では電動二輪の普及は進んでいますが、世界トップシェアのホンダも「2040年代に全ての二輪製品でのカーボンニュートラルを実現すること」を宣言していますし、そこに向けて「2025年までにグローバルで、電動二輪車を合計10モデル以上投入。今後5年以内に100万台、2030年にHondaの総販売台数の約15%にあたる年間350万台レベルの電動二輪車の販売を目指す」ことも発表しています。
古くからある農産物由来のアルコール燃料のほか、カーボンニュートラル燃料などの研究も進んでいますから、カーボンニュートラル=エンジンの完全消滅とはいえない部分もありますが、確実に電動バイクが主流になる未来は見えています。
そんな電動バイクに対しては、「音がしない」「加速が鈍い」「高価」「航続距離が短い」といったイメージもあったりします。はたして、それらは事実なのでしょうか。
「音がしない」のウソ
まずは「音がしない」という点について。
本来、モビリティとして考えると「音がしない」ことはメリットといえます。早朝深夜に出かけるようなときにも気を遣わずにすみますし、移動手段として考えると静かなほうが快適なはずです。
一方で、趣味の乗り物としてのバイクには、エキゾーストサウンドを味わうという文化もあります。昨今、エンジンをかけて「ブンブン」と吹かすことに眉をひそめる人も増えている気もしますが、そうしてバイクの味を確認するライダーもまだまだ多く存在しています。そうした味わいが電動バイクでは感じられなくなるという指摘はもっともかもしれません。
また実用面でいうと、エンジンから発するノイズによって歩行者や四輪ドライバーがバイクの接近を認知することは、円滑な交通につながっているという指摘もあります。ノイズが減ることで接触事故などが増えるのでは、という懸念もあります。
この点について、少なくとも歩行者レベルであれば気付けるくらいには電動バイクのノイズは大きいというのが筆者の印象です。モーターやインバーターなどが発生する電子的なノイズは意外に耳につくものです。
最近では、ハイブリッドカーや電気自動車が、そうしたノイズを疑似的に発するようになっていますが、部品がむき出しの電動バイクでは疑似サウンドを出さなくとも十分に存在感を示すことができるのではないでしょうか。
電動バイクの発進加速はむしろガソリン車より鋭い
つぎに「加速が鈍い」というイメージについてですが、これはある意味では本当であり、特定のシチュエーションに限れば間違った認識といえます。
ご存知のように電気モーターというのは操作に対するレスポンスに優れ、さらに回りはじめに最大トルクを発生できるという特徴があります。
ですから発進加速については、同等クラスで比較すると電動バイクのほうがシャープに感じることが多いはずです。ただし、発進加速が鋭いがゆえに、中高速域での伸びが足りないという印象を受けることもあります。
たとえばBMWの電動バイク、CE 04の最大トルクは62Nmですから、600ccのスポーツバイク級の数値ですが、最高出力は31kW(42PS)と400cc級です。発進加速に600cc級のスピード感を期待していると、徐々に加速が鈍ってくるように感じるかもしれません。
こうした最大トルクと最高出力の関係がエンジンとは異なるという、ギャップが生む印象は四輪の電気自動車もあり得る話なのですが、とくに二輪では発進加速を鋭くセッティングしているモデルが目立つこともあって、思ったより(上での)加速が鈍くなるといった印象を受けることが多いのではないでしょうか。
電動バイクの価格はガソリン車の「5割増し」
つづいて、エンジン車より電動バイクは「高価」になるという指摘について。
たしかに電動バイクの多くが採用するリチウムイオン電池はまだまだ高価で、バッテリーを積めば積むほど車両価格は上昇してしまいます。
前述したBMW CE 04にしてもメーカー希望小売価格は168万7000円~となっています。似たような車格の400ccスクーターBMW C 400の価格が108万5000円ですから、割高感があるのは事実です。
そのほか原付一種・原付二種クラスの電動バイクで見ても、エンジン車であれば5割増しから、モノによっては倍くらいの価格感になっていることが少なくありません。
たしかに割高感はあるといえそうです。


航続距離は仕方がない
最後に「航続距離が短い」という指摘については、まさにその通りとしかいえません。
ホンダのビジネス向け電動バイク「ベンリィe:」の一充電航続距離は50ccクラスのモデルで87km(30 km/h定地走行テスト値)となっています。4ストロークエンジンを積むほうのベンリィは、同じ計測方法での燃費は65.2km/Lで燃料タンク容量は10Lですから満タンで652km走れる計算になります。
87kmと652kmは比べるまでもない大きな差です。
もっともベンリィe:は簡単に交換できるバッテリーシステムを採用しています。ビジネスユースに限定すれば、事業所に戻ってきて充電されたバッテリーに入れ替えるだけで運用できるのですからエンジン車に対して欠点があるとは言い切れません。
充電と給油の手間の違いは電動バイクを選ぶ際のポイントになります。現時点で電動バイクの航続距離を考えると、ガソリンスタンドが身近にあればエンジン車のほうが圧倒的に便利なのは間違いありません。
しかし、ガソリンスタンドまで10kmあるとしたらどうでしょう。給油のたびに往復で20kmを走らなければいけないのです。いくらエンジン車の航続距離が長いといっても無駄な時間とガソリンを消費してしまうことになります。
「給油難民」「SS過疎地」といった言葉を目にすることも少なくありませんが、地域によっては急激にガソリンスタンドやサービスステーションが減っています。短距離ユースがメインとなる原付クラスにおいては遠くのガソリンスタンドに行くよりも、家で充電できる電動バイクのほうが使い勝手がいいという時代は迫っているのです。


電動バイクは買いなのか?
そこまで切実でないというユーザーが、慌てて電動バイクを検討する必要はないフェイズだと思いますが、数年という単位で考えると、電動バイクが必要になる未来は着々と近づいているかもしれません。
エンジンの鼓動やサウンドを愛するユーザーからすると、電動バイクを拒絶したくなる気持ちが生まれてしまうのは理解できますが、場合によっては電動バイクが便利になる時代に対応できるよう、柔軟な気持ちでバイクの進化を見つめていたいものです。
レポート●山本晋也 写真●ヤマハ/BMW/ホンダ 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実