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ドゥカティを象徴するスポーツネイキッド「モンスター」が、5年ぶりのフルモデルチェンジを受けて登場した。新世代のV2エンジンを搭載し、伝統を受け継ぎながらも進化を遂げた。先ごろスペインで開催された国際メディア試乗会から、ケニー佐川が新型モンスターをレポートする。
パニガーレV2の心臓で再定義された第5世代モンスター
1992年に誕生したドゥカティ・モンスターは、スーパーバイク世界選手権を見据えて開発された851系フレームに、900SS由来の空冷Lツインを組み合わせた、同社初のネイキッドモデルとして登場した。以来、空冷から水冷へ、さらには400ccから1200ccまで幅広い排気量を展開し、スーパーバイクと並ぶ“二枚看板”としてブランドを支え続けてきた存在である。
その根底にあるのは、「必要なものだけを残す」というシンプルな哲学だ。世代ごとに2バルブ、デスモクアトロ、テスタストレッタへと進化を遂げながらも、その本質は揺らぐことなく、世界中に“モンステリスティ”と呼ばれる熱狂的なファンを生み出してきた。そして迎えた第5世代。新型モンスターは、その伝統を現代技術で再構築した一台だ。


最大のトピックは、昨年登場したパニガーレV2譲りの新世代Vツインエンジンとモノコックフレームの採用にある。長年ドゥカティの象徴でもあったデスモドロミック機構を廃し、一般的なバルブスプリング方式へと転換。これにより軽量化と構造のシンプル化を実現すると同時に、IVT(吸気可変バルブタイミング機構)を組み込み、扱いやすさと高性能を高次元で両立させた。
排気量は936ccから890ccへとダウンサイズされながらも、最高出力111psを発揮。さらに4000〜10000rpmの広いレンジで最大トルクの80%以上を生み出す特性により、低速域の扱いやすさから高回転域の伸びまでをシームレスにつなぐ。加えて、バルブクリアランス点検は4万5000kmごととアピールされるなど、耐久性やメンテナンス性の向上も見逃せないポイントだ。
シャシーはエンジンを構造体とするモノコック構造を採用し、ショーワ製サスペンションやブレンボ製ブレーキ、ピレリ・ディアブロロッソIVタイヤを組み合わせる。装備重量は175kgに抑えられ、俊敏さと安定性を高次元でバランスさせた。さらに4つのライディングモードや各種電子制御、5インチTFTディスプレイなどを備え、現代的な扱いやすさと先進性も抜かりない。
デザイン面では、象徴的な“バイソンバック”タンクをよりスリムかつ筋肉質に再構築。短く引き締めたテールや一体感のあるシングルシートとともに、ネイキッドらしい凝縮感を際立たせている。そしてダブルCデイライトを備えたフルLEDヘッドライトが、モダンで精悍な表情を与える点も印象的だ。


削ぎ落としの先にある“共に走る”感覚

スペイン・マラガの郊外。朝の澄んだ空気の中で跨った新型モンスターは、第一印象からどこか“肩の力が抜けている”。スターターボタンを押すと、新世代のVツインが軽やかに目覚めた。かつてのような荒々しい鼓動は影を潜め、耳に届くのは整ったリズムと、その奥に潜む確かな力強さ。ひとことで言えば、ずいぶんと洗練された。走り出してすぐに気づくのは、「操っている」という感覚の希薄さだ。もちろん操作しているのは自分だが、その意識が前に出てこない。気づけば自然に発進し、気負うことなくコーナーを抜けている。まるで長年連れ添った相棒のように、こちらの意図を先回りしてくる感覚がある。
搭載されるパニガーレV2直系の新世代Vツインの排気量は先代より47cc小さいにもかかわらず、ピークパワーは同等で発生回転数もほぼ変わらない。最大トルクこそわずかに譲るが、4000rpm以上でその80%を発揮するIVTならではのワイドバンドな特性により、どこからでもスッと力が立ち上がり、どこまでも自然に回っていく。この扱いやすさは、とりわけ市街地で強く実感できる部分だ。実際に街中を流すと、その完成度の高さがよく分かる。発進から低中速域までのつながりは極めてスムーズで、スロットル操作に対する反応も穏やか。

さらに驚かされるのがハンドル切れ角の大きさで、歴代ドゥカティ随一ではないかと思うほどよく切れる。Uターンもまったく気負わずこなせてしまうあたりに、このモデルのキャラクターがよく表れている。信号のストップ&ゴーや交差点でのターンでも、“構える”必要がない。次の動きを考える前に、すでに車体が応じている。結果としてライダーは余計な操作や判断から解放され、視線やリズムといった本質に集中できる。“速く走らせる”から、“一緒に走る”へ――そんな価値観の変化すら感じさせる。

扱いやすさと軽さが際立つ“優等生”Lツイン

ハイウェイに乗り入れると、その“余裕”はさらに明確になる。111psという数値以上に実用域の厚みが効いており、追い越し加速も実にスムーズ。エンジンは終始落ち着いていて振動も少ない。かつてのドゥカティにあったデスモドロミック機構は、ロッカーアームでバルブを強制開閉する独自の構造ゆえにダイレクト感は際立っていたが、そのぶん硬質な回転フィーリングとメカノイズの大きさも特徴だった。対して新型は、全域でスムーズかつ静か。それでいてIVTの効果で中速トルクは厚く、高回転域まで淀みなく伸びていく。いわば“優等生的なLツイン”だが、従来型のワイルドな味わいを好む人もいるだろう。このあたりは好みの分かれるところだ。

そしてワインディングでは、このマシンの真価が一気に開花する。マスを中央に凝縮した軽量な車体は、軽くきっかけを与えるだけでスッと向きを変え、そのまま自然に旋回へと入っていく。ハンドルをこじる必要はなく、下半身でわずかに合図を送るだけでいい。セルフステアの出方は極めて素直で、操作と挙動の間に“間”がない。
興味深いのは、その“軽さ”の質だ。数値上の車重は先代より約4kg軽量化された175kg前後だが、実際エンジン自体がコンパクトかつ軽量になったことで、車体の中で最も重いはずのエンジンのマスを感じさせない。コーナーに向けての倒し込みや切り返しといった一連の動きの中で、新型はまるで空気のようにフワッと軽い。ハンドリング自体の方向性は大きく変わらないものの、“動的な軽さ”という点では明らかに一歩先へ進んでいる印象だ。
エンジンもまた、そのリズムを乱さない存在だ。スムーズな鼓動を刻みながら、必要なときにはきちんと背中を押してくる。中速域でIVTが効き始めると、さらに一段力強さが加わり、躍動感ある加速へと変わる。その瞬間、パニガーレV2の血筋を確かに感じることができる。
今回の試乗はあいにくのウェットコンディションだったが、コーナリング中でもABSやトラクションコントロールが自然に介入し、車体の安定をしっかり支えてくれたのも印象的だった。走り終えた後に残っていたのは、強烈な達成感ではなく「まだ走っていたい」と思わせる穏やかな満足感だ。バイクではなく、自分が主役でいられる時間が長いからこそ生まれる余韻だろう。
新型モンスターは、“速さ”や“凄さ”を誇示するためのバイクではない。削ぎ落とすことで見えてくる本質を、現代の技術でここまで昇華した一台だ。軽さ、楽しさ、そしてドゥカティらしい個性――それらを磨き上げた新型モンスターは、“原点回帰”と“進化”を同時に体現する、現代ネイキッドスポーツの新たな基準と言えるだろう。










【日本導入仕様について】
海外試乗記では、モンスターの標準仕様で紹介しているが、日本へ導入されるのはビキニカウルとシングルシートカウルが標準装備となるモンスター+で、ローシート、ローサスキットを装着した775mmのシート高の仕様となる。またカラーリングはドゥカティ・レッド、アイスバーグ・ホワイトのほか、特別色のスポーツカラーが少し遅れて9月頃に導入予定とアナウンスされている。



ライディングポジション:ローシート仕様でもバランスが良く快適

ライポジに関しては、メインで試乗した欧州スタンダード仕様と日本仕様では、だいぶ異なっていた。日本仕様はシート高が775㎜と欧州仕様より40㎜低く設定されていて、足着き性は断然優れている。一方でリヤサスペンションも短くなっているため、着座したときのストローク量も減っている。新型のハンドル位置は若干高くなり前方へ移動したが、日本仕様はシートが低い分、相対的にハンドル位置はさらに高く楽に構えられる。
ただ、実際に走行中の違和感やハンドリングが変になっている感じは全くせず、バイクの姿勢が常に安定してフラットなので、むしろ市街地などを流すときには扱いやすく快適と思ったほど。そこはやはり“走り”のドゥカティだ。シートもサスペンションもメーカー特製で調整され、単なるアンコ抜きやリンクを変えて無理やりローダウンした改造とはレベルが異なる。ほぼ一日雨の試乗だったので、アグレッシブな走りはできなかったが、もしドライで思い切り走れるとしたら、重心の高さや車体のピッチングを生かして積極的に操れる欧州仕様のほうが、スポーツ志向のライダーにはフィットすると思われた。どちらが良い悪いではなく、方向性の違いと理解すれば納得できるはずだ。
モンスター+ 主要諸元
■エンジン 水冷4ストローク90度V型2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク96×61.5mm 排気量890cc 圧縮比13.1 燃料供給装置:フューエルインジェクション 点火方式フルトランジスタ 始動方式セル
■性能 最高出力81.6kW(111ps)/9000rpm 最大トルク91.1Nm(9.3kgm)/7250rpm 燃費19.2km/L(WMTCモード値)
■変速機 6段リターン 変速比1速2.714 2速2.000 3速1.600 4速1.318 5速1.143 6速1.040 一次減速比1.84 二次減速比2.625
■寸法・重量 全長─ 全幅─ 全高─ 軸距1492 シート高775(各mm) キャスター23.3° トレール92mm タイヤF120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量175kg※燃料除く
■容量 燃料タンク14L エンジンオイル─
■車体色 ドゥカティ・レッド、アイスバーグ・ホワイト、スポーツカラー(灰×黒×赤)
■価格 169万円(レッド)/171万円(ホワイト)/179万円(スポーツカラー)
■発売時期 2026年5月下旬~6月上旬(レッド&ホワイト)※スポーツカラーは9月頃の販売予定で受注開始

レポート●佐川健太郎(モーターサイクルジャーナリスト)
フォト●ドゥカティ
ドゥカティジャパン
http://www.ducati.co.jp





































