バイクライフ

自衛隊との合同訓練も行う静岡市のバイク隊「スカウト」 主力車種はあえてのヤマハ セロー「225」

静岡市オフロードバイク隊「スカウト」とは

静岡市のバイク隊「スカウト」に所属する隊員たち(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

平成7年(1995年)1月に発生した阪神・淡路大震災では、震度7の激震により多くの建物が倒壊。瓦礫の散乱などで道路は各所で寸断されて、自動車の利用が大幅に制限された。

このときには静岡市の職員も神戸に派遣され、避難所支援などの活動を行っていたが、交通網に加えて情報網や通信網も混乱に陥った中では情報収集もままならず、思うように活動できない状況が続いた。

そんな状況下で、バイクが機動力を大いに発揮していたのを目の当たりにし、災害時における最も有効な交通手段としてだけでなく、災害発生時の情報収集手段としても有効活用できるのでは、という考えから震災発生の翌年に発足したのが静岡市オフロードバイク隊「スカウト」だ。
スカウトとは、Shizuoka City Off- Utility Teamの略で「静岡市」「オフロード」「実用」「部隊」の頭文字を集めた「SCOUT」は、「偵察」という意味を持つ。

東日本大震災のほか、熊本地震でも活動していた

スカウトはこれまでにも2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震などでも活動している。具体的にどういったことをするのかというと、先遣隊として現地の情報を集め、静岡市本部へ支援等に関する情報を伝えるほか、その後に派遣されてくる静岡市職員に対し、現地の状況、どういった支援が求められているのか、といった情報を伝える活動を行う。

2011年の東日本大震災では、先遣隊として現地の情報を集めていた(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

東日本大震災の際には現地の避難所支援を静岡市職員とともに行う傍ら、宮城県仙台市に設けられた静岡市の現地本部を拠点に福島県の南相馬市から岩手県の久慈市まで、現地調査する形で被害状況を収集。
基本的には1週間交代で、静岡市と仙台市を往復する形で活動が行われていたが、甚大な被害で移動もままならない中、400km近い範囲を実際に調査したという。

なお、現地ではガソリンスタンド前で2時間・3時間待ち、最悪の場合休業なのに“デマ”で行列ができるような状態だったため、被災者に迷惑や負担を掛けないよう、支援用の資材を運搬するトラックに燃料やある程度の修理道具を積み込んで持っていき、すべて自己完結させる形で活動した。

静岡市ではスカウト発足以降それほど大規模な災害は起きていないものの、2001年と2009年に震度5強の地震が起こった際には速やかに出動して、特に大きな被害がなかったことを早い段階で確認できたそうだ。

東日本大震災発生時、現場で崩れた家屋や瓦礫などカメラで状況撮影している隊員(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

有事に備えて訓練内容は多岐に渡る

元モトクロスライダー(右端)を講師に迎え、丸太超えの練習をする「スカウト」の隊員(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

訓練も普段から怠りなく行われている。ヤマハ発動機からインストラクターを招いての不整地における操縦訓練に加えて、市の総合防災訓練、静岡市に派遣が割り当てられている自衛隊の部隊と連携した訓練も行っている。

総合防災訓練では市内のさまざまなポイントを回って本部への情報伝達を行ったり、自衛隊との共同訓練では部隊や個別の行動の仕方を教わったりする。また、自衛隊が災害派遣に静岡市に来る際は不慣れな土地に来ることになるため、土地勘のある市の職員と一緒に訓練することで市の地形に慣れてもらう、また、自衛隊の動きを確認しながら、自分たちはどういうふうに動けばいいのかを確認する。

訓練ではいろんな場所を走行。時には吊り橋を渡ることも(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

これらの訓練には、各防災関係機関と普段から連携して、静岡県三島市のオフロードバイク隊も含めて「顔が見える関係作りをしておく」という目的もある。

何かあったときのためのロープワーク訓練や救命救急、負傷者の搬送法なども自分たちで訓練を独自に行っているほか、そういったノウハウを生かして地域住民に指導することもあるそうだ。

主力はセロー、それもセロー225

ヤマハ セロー225に積載されている装備類。救急キット、食料やロープなど万が一のために備えている(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

スカウトではヤマハのセロー225が30台とTW200が4台、トライアル車のホンダTLM220を6台保有する。これは静岡市の8割を占める中山間地に対応するための構成だが、東京消防庁をはじめ、各地で使われているセロー250は1台もない。

これにはちゃんと理由があり、バッテリー上がりなどで行動できなくなるようでは話にならないため。同隊が保有するセロー225は当時オプションだったキックスターターを装着している。

このクラスのオフロード車は近年FI化が進むとともにキックスターターが省かれる傾向にあり、代替機が見当たらないのが悩みの種。用途上、走行距離はそれほど延びていないが、セロー225の生産終了から20年近く経ち、パーツの供給も心細くなっているため、今後は所有するセロー225から使えるパーツを外して利用するなどの運用も考えている。
「ヤマハさんにもことあるごとに、『キックスターター付けたモデルを出してくれない?』と要望は出しております」とのこと。

静岡市のバイク隊「スカウト」が使用するヤマハ セロー225(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

静岡市のバイク隊「スカウト」が使用するヤマハ TW200(画像提供:静岡市オフロードバイク隊)

活動継続に向けた対策を模索中……

そして、現在同隊が抱える1番の課題が“なり手不足”である。若年層の減少、バイクに乗る人の高齢化が問題としてあるわけだが、市職員の場合は年齢層が上がり、定年退職であったり、昇進して責任のある地位に就いたりすると、災害時においてはその所属の活動を指揮することとなるため、バイク隊としての活動はできなくなるとのこと。
加えて、近年のコロナの影響で、バイク隊の活動自体や募集活動等に時間が取れなくなってきたことも大きいという。

東日本大震災の際には「どこの人? 自衛隊? 警察?」と聞かれ、静岡市から来た職員だと言ったら驚かれたことは何度もあるそうだが、同時に被災者の方から「よく来てくれたね」「頑張ってるね」「ありがとう」と言われてコーラやパンをもらったこともあるという。おそらく、普段あまりなじみのない地域からも応援に来ていることが分かって、大きな励ましになったのではなかろうか。

追記2022年11時15分訂正:青森県の久慈市と表記していましたが、正しくは「岩手県」の久慈市でした。お詫び申し上げると同時に、記事を修正いたしました。

レポート●高野栄一 編集●モーサイ編集部・小泉元暉 写真提供●静岡市オフロードバイク隊

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静岡市 オフロードバイク隊 スカウト
https://www.city.shizuoka.lg.jp/000_001492.html

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