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この記事では、エッジの利いたオリジナリティあふれるスタイリング、ワクワクさせるハイパワー、そして、快適な旅を実現してくれる最新機能……KTMの最新大型アドベンチャー2モデルの試乗レポート&おすすめポイントを二輪ジャーナリスト鈴木大五郎と編集部の対談形式で紹介する。
より臨機応変に進化したKTmのアドベンチャー
編集部(以下・編) ここ数年、さまざまなカテゴリーで話題のKTMですが、大五郎さんにとってKTMのアドベンチャーマシンの印象ってどんなものでしょうか?
大五郎(以下・大) もともとは旅バイクというより、ラリー競技からのイメージが強かったよね。
編 やっぱり「READY TO RACE」でしたか。
大 そうそう。アクセルをガンガン開けているとめちゃくちゃ面白いし安定するんだけど、市街地で多用するような中途半端な開けだと逆にギクシャクしちゃうっていうのが過去のKTMだったよね。
編 その気にならないと乗りこなせない、みたいな? でも、それもある意味、魅力ですよね。
大 ただ、時代の変化で「それだけじゃだめだ!」ってなった。KTMのエンジニアたちって思いのほか?すごく純粋で真面目なんだよね。だからこそ「これは譲れない!」というプライドで、かなりスポーツ寄りのマシンを開発してきたと思うんだ。それが今、電子制御のグレードアップによって刺激的な面と扱いやすさを両立できるようになったこともあって、変わったんじゃないかな。それにしても、1290スーパーアドベンチャーSの新型は格段に乗りやすくなったね。まず、エンジンがウルトラスムーズ。前モデルまでは荒々しさを随所に感じたけど、これは鼓動感がありながらも、それがマイルドで優しい。それでいて開けるとびっくりするほど速い。でも「開けろ開けろ!」って無理強いしないところがいいよね。ゆっくりのんびりの走りも全然許容してくれる。ツーリングであまりかされるのは、このになるとちょっとね……。
編 エンジンの改良だけでなく、車体を全面刷新していますよね。
大 低重心化によるメリットは大きいね。新型は扱いやすいエンジン特性と相まって、極低速域でもバランスが取りやすい。
編 見た目は迫力満点なのに、またがると意外とスリム。それから、乗り心地も良くて、足周りの動きも非常に滑らかですよね。
大 シルキーで高級感のある乗り心地は今までのKTMとはちょっと違うよね。しかも、電子制御サスペンションは、快適なだけでなくてさまざまなセッティングができるのもポイント。減衰調整をオートでお任せにするだけでなく、固定設定でしなやかにもスポーティにも振ることができる。
編 アダプティブクルーズコントロール(ACC)はどうでした?
大 正直、僕はあまりクルコンに依存するのは好きじゃなかったんだけど、去年はバイクでの長距離移動が多くて、いつになく使いまくったんだよね。でも、普通のクルコンだと特に交通量が多い状況では危なくて使えなかった。ACCだったら……って何度も思ったんだ。どんな機能もそうだけど、必要に迫られる状況になって初めてその機能の真価が問われる。1290スーパーアドベンチャーSのキャラクターを考えたら、この装備の価値はとても大きいよね。
編 ACCはライバルメーカーも採用していますが、違いは?
大 特性を2種類から選べるのはKTMだけ。ACCにスポーツモードを設定しているのも”らしい”ところだよね。
編 何か注意が必要な点は?
大 バイクで千鳥走行しているときにどれくらいで反応しなくなるのか意地悪く試してみたんだけど、前車がバイクだと、同じ車線内でちょっと横にれたときにグッと加速して、少し怖さを感じた場面もあった。クルマの追従が前提のシステムだとしっかり理解したうえで使うのであれば、快適度は爆発的に高まると断言できるね。
編 オフロードの走破性は?
大 KTMってもともとオフのイメージが強かったでしょ? でも、1290スーパーアドベンチャーSは基本的にオンロード車として捉えていいと思う。足周りのフィーリングもそう。それから、タイヤもやっぱりロード用のものの方が絶対的に快適だからね。この上質な乗り心地をオフ系タイヤへの換装でスポイルするのは正直もったいないよ。僕はスーパーアドベンチャーの発表会には、1190の頃からモデルチェンジごとに3回参加したんだけど、オフロードの走行セクションは何とゼロだったからね。これが答えでしょ。
編 オフ向けには1290スーパーアドベンチャーRがありますし。
大 1290Sでももちろんオフ性能はしっかり確保してあるけど、オンロードで長距離を旅するようなシチュエーションがピッタリだと思う。 でも、この使い勝手の良さなら長距離だけじゃなくてもいいかもしれないね。
編 890アドベンチャーの方はどうでした?
大 この並列ツインエンジンはKTMとしては比較的新しいものだけど、1290のVツインフィーリングにも似ているし、それでいて弟分といった格下感もない。
編 すごくパワフルですよね。
大 車体の軽さもあるから、開けたときの瞬発力がすごい。従来からのKTMらしさも強く感じさせる非常に楽しいエンジンだよね。
編 従来型の790と比べると?
大 排気量アップしたことで余裕が出ているし、それでいて上までよく回る。KTMのバイク全般に言えることだけど、フリクションなく高回転まできれいに回転上昇していく。それがレーシングエンジンっぽさを感じさせるでもあるのだけど、これはほかでは味わえないでもあるよね。
編 見た感じはサスのストローク量が短めですが?
大 実際、オンロードでの走りを重視していると思うな。前輪が21インチなんだけど、良い意味で19インチホイールを履いているようなフィーリングで、フロント周りの不安感がないんだよね。
編 オフロードモデルっぽいふわふわした感じがないですよね。
大 こちらもRモデルがあるからね。あれもこれもと1台に欲張りすぎないところが潔いよね。低重心化などによって接地感とか安心感とかは非常に高いレベルにあるし、個人的にはアドベンチャーというよりも、スポーツネイキッドであるデュークの旅バージョンといったイメージ。それくらい俊敏で扱いやすいオールマイティなバイクになっているね。
編 それでは今回の総括を。
大 興味がある人に薦めたいのはもちろんだけど、過去にKTMのアドベンチャーに乗って「ちょっとスパルタン過ぎる……」と感じた人って少なくないと思うんだ。そういう人にこそ、現在のマシンに是非、もう一度乗ってもらいたいね。そういった刺激的な一面は持ちつつ、よりワイドに楽しめるマシンに進化していることがはっきり感じられるはずだから。
KTM890アドベンチャー&1290スーパーアドベンチャーS主要諸元
890アドベンチャー(右)は従来型の790をベースに、排気量を799cc→889ccに拡大しつつ各部をブラッシュアップしたモデル。電子制御は3種類のライディングモードなどが標準で設定されており、下記の「TECH PACK」でさらに拡張可能。1290スーパーアドベンチャーS(左)は、従来型から軽量化したエンジンを新開発のフレームに搭載。4種類のライディングモードのほか、前車を追従するアダプティブクルーズコントロールや新世代の電子制御サスペンションなどを標準装備している。
KTM 890 ADVENTURE
Specifications
【エンジン・性能】種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:90.7×68.8mm 総排気量:889㎤ 最高出力:77kW<106ps>/8,000rpm 最大トルク:100Nm<10.2kgf・m>/6,500rpm 燃料タンク容量:約20L 変速機:6段リターン WMTCモード燃料消費率:22.2km/L 【寸法・重量】全長:2,219 全幅:890 全高:1,439 ホイールベース:1,509±15 シート高:830/850(各mm) 車両重量(乾燥):196kg タイヤサイズ:Ⓕ90/90-21 Ⓡ150/70-18 【カラー】橙×黒、黒 【価格】169万5000円
890アドベンチャー用「TECH PACK」の内容
●ラリーパック(ラリーモード、MTCスピンアジャスター、エンジンマップセレクション)
●クイックシフター+
●MSR(モータースリップレギュレーション)
※オプション価格:11万4774円(工賃除く)
KTM 1290 SUPER ADVENTURE S
Specifications
【エンジン・性能】種類:水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ ボア×ストローク:108×71mm 総排気量:1,301㎤ 最高出力:118kW<160ps>/9,000rpm 最大トルク:138Nm<14.1kgf・m>/6,500rpm 燃料タンク容量:約23L 変速機:6段リターン WMTCモード燃料消費率:17.5km/L 【寸法・重量】全長:2,255 全幅:919 全高:1,450 ホイールベース:1,557±15 シート高:849/869(各mm) 車両重量(乾燥):220kg タイヤサイズ:Ⓕ120/70ZR19 Ⓡ170/60ZR17 【カラー】橙×黒 【価格】244万円
1290スーパーアドベンチャーS用「TECH PACK」の内容
●ラリーパック(ラリーモード、MTCスピンアジャスター、エンジンマップセレクション)
●クイックシフター+
●サスペンションプロ
●MSR(モータースリップレギュレーション)
●HHC(ヒルホールドコントロール)
●アダプティブブレーキライト
※オプション価格:16万2081円(工賃除く)
160cm台でも足つき良好!! KTM 890アドベンチャー&1290スーパーアドベンチャーSのライディングポジション
※テスターは身長165cm。シートは共にロー位置
890アドベンチャー
1290スーパーアドベンチャーS
「890 ADVENTURE」は
大径ホイール採用でもシャープな運動性能が魅力
オンロードスポーツばりの走りを見せる
前21/後ろ18インチホイール採用で、数値だけ見るとオフロードシーンを強く想定したキャラクターと思われるが、その走りはオンロードを重視したスポーティなもの。トルクがあるので低回転域でも安定した走りを見せるが、KTMらしい回すと生き生きしてくるキャラクターも不変。足周りは無駄に動きすぎない設定で、操作に対するレスポンスがリニア。シートの座り心地はやや硬めで、それが車体の印象にも反映されるが、長時間でも疲れにくい。
アルミ製テーパーハンドルバーには、1290スーパーアドベンチャーSのものと同じく調整の目安になる目盛りが記されており、調整範囲は30mm。メーターは5インチのフルカラーTFTディスプレイに表示される。ディスプレイの下には12Vのシガーソケットを配置。
ウインドシールドはネジ止めで、はめ込む位置を変えることで2段階の調整ができる。写真は上位置にセットした状態だ。ウインドシールドのステーの裏側にはGPSマウントが設けられている。
790アドベンチャーから採用されている、左右下部に振り分けられたラリーマシン的な燃料タンク。無論、障害物との接触や転倒も考慮した丈夫な設計で、低重心化に貢献。1290スーパーアドベンチャーSも同様の方式を採用。
車両デザインにマッチした独特な形状のリヤキャリヤを標準装備。グラブバーがリヤシート左右を囲む形で、荷物の積載もしやすい。リヤサスペンションのプリロードは手で回せるノブによって調整することができ、タンデム時や積載時の調整がスムーズ。
大幅な進化を遂げてより快適・上質になった
「1290 SUPER ADVENTURE S」
巨艦のインパクトとは裏腹の扱いやすさ
車格から想像するよりもはるかに軽量で、走り始めるとコンパクトにも感じられる。エンジンは全領域でパワフルで、従来型では今一歩だった低回転域でのしつけ具合も格段に進化。また、雨の中でも非常に安心感のあるフィーリングが懐の深さを印象づける。オンロードでの走りをしっかり見据えた設定でコーナリング性能も非常に高い。高級感ある上質な乗り心地は電子制御サスのたまもの。ボタンひとつで任意に減衰力設定できるのも強みだ。
ウインドシールドは55mmの範囲で無段階に高さ変更が可能で、調節は左右のノブを手で回して行う。燃料タンク上面前方にはUSBソケット付きの収納コンパートメントを設定。7インチフルカラーTFTディスプレイの下には、890アドベンチャーと同じく12Vのシガーソケットを配置
30〜150km/hの範囲で調整可能なアダプティブクルーズコントロールは、5段階の車間調整(高速走行時を考慮して、距離ではなく前車との車間時間を管理)に加えて「コンフォート」と「スポーツ」という2種類のモードを配備。追従する際の最大加速と最大制動の値や、バンク時の速度調整が変化する。センサーはヘッドライト下部に装着されている。
子制御式サスペンションは、スポーツ、ストリート、コンフォートという3つのモードが標準で設定されており、リヤのプリロードも電動で11段階の調整が可能だ。さらに、オプションの「TECH PACK」を導入すれば、モードにオート、オフロード、アドバンスドが追加され、3段階のリヤプリロード自動設定や、アンチダイブ機能も利用可能となる
まとめ●モーサイ編集部 photo●岡 拓
KTM
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