目次
CT(ハンターカブ)シリーズとは
続いては、オフロード性能が高められたカブについて紹介していこう。

1958年に登場したスーパーカブは当初埼玉の大和工場で生産されていた。
しかし、その人気に生産が追いつかず、浜松、鈴鹿と生産拠点を転々としていた。
時を同じくして、1959年6月に欧米での販売拠点であるアメリカンホンダを設立。そのわずか2ヵ月後には北米仕様のC100(1962年8月以降はCA100)の販売が開始されていた。
当時のアメリカではダートトラックやロード、スクランブラーなど各種レースが盛んに行われていたが、一般ユーザーは小排気量車で野山を駆け回るトレイルランやスクランブラー遊びに興じており、その相棒に選ばれるのはハーレー・ダビッドソンのスキャット(165cc)だった。
そうしたアメリカの市場をふまえつつ、スキャットに対抗すべく1961年に誕生したのが、C100T(トレール50)である。
ダブルシートを採用した現地仕様のC100がベースで、狩りで仕留めた動物を乗せるために日本式のサドルシート+リヤキャリヤに変更。
登坂力アップのためにリヤに大小2枚のスプロケを備えるダブルスプロケットを採用し、山火事の防止と軽量化という名目で採用されたマフラーは細身のダウンタイプ。直管の後部をふさぎ、側面に縦型の排気口を7つ設けた「アリゲーターマフラー」と呼ばれるものである。
そのほか、泥地や獣道を走るという用途や視界の確保の理由からレッグシールドやフロントフェンダーが取り除かれ、山野を走る最低限のスペックを獲得した。
しかし、車両としては未完成な部分が多く、C105T(トレール55)、CM90をベースにした上級モデルCT200と成熟を重ね、1980年からはシリーズの完成形とも言えるCT110が登場。2010年の生産終了まで、世界各国で多くのライダーから愛される長寿モデルとなった。
ホンダ C100T トレール50(1961年登場)

ベースとなったC100からレッグシールドを取り外しただけのようにも見えるが、アルミ製のエンジンガードやノビータイヤの着用など、オフロード走行を想定した装備がしっかりと与えられている。
ちなみに最初期のモデルは巨大なドリブンスプロケットを1枚持つだけだったが、通常走行に支障が出たため早々にダブルスプロケットが採用された

悪路走破性向上のために採用されたダブルスプロケット。通常移動用の小径タイプと不整地走行のための大型のものを備える。切り替えの際には車載工具と一緒に入っている継ぎ足し用のクリップ式チェーンを使う。

C100のものよりもずっと細い「アリゲーターマフラー」。先述のとおり森林火災の防止と軽量化が採用の目的だったが、後継のトレール55以降はヒートガードを備えたアップマフラーに切り替わった。

エンジンは通常のC100Eを採用。ヘッドボルトの一部にステーをかませてエンジンガードを固定している。初期にはシリンダーにマウントボスを備える「吊りカブ」や、クラッチ調整ボルトがふたつある「ふたつ星」と呼ばれるタイプがあるのもC100同様。
ホンダ C100T(トレール50)主要諸元
[エンジン]
空冷4サイクルOHV単気筒2バルブ
総排気量49cc ボア・ストローク40mm×39mm 圧縮比8.5
気化器京浜HOV13型 点火方式フライホイールマグネトー 始動方式キッ
[性能]
最高出力5.0ps/9500rpm 最大トルク0.34kgm/8000rpm 最高速度45mph
最小回転径1.7m 登坂能力14°02′
[変速機]
3速リターン
変速比 1速2.69 2速1.45 3速0.96
1次減速比4.74 2次減速比2.86
[寸法・重量]
全長71 全幅22.5 全高37 軸距46.5 最低地上高5.5(各インチ)
キャスター27° タイヤサイズ2.25-17(前後とも)
装備重量121ポンド
[容量]
燃料タンク0.79ガロン オイルタンク0.16ガロン
[新車当時価格]
275ドル
CTシリーズの派生モデル、バリエーションモデル
C105T (1962年登場)

エンジンを54ccにボアアップしたうえで、アップマフラーやパイプ製のエンジンガードなど専用部品を多く採用し、よりオフロード色を強めたC105T。
ちなみに過渡期モデルの中にはアリゲーターマフラーを備え、アンダーガードのない車両もあった。
CT200(1964年登場)

フロントまわりはC200で、タンクやドリブンスプロケットなどは100/105と同様というCT200。排気量は86.7cc。
「ハンターカブ=CT」というイメージを持つ人も多いかと思うが、「CT」という車名が付いたのはこのモデルから。
販売期間は1964年~1966年までと非常に短く、以降はOHC化されたCT90にバトンタッチする。
CT110(1981年登場)

日本を含め、アメリカ、カナダ、ニュージランドなどで販売された105ccのCT110。日本仕様以外は副変速機が採用されている。
オーストラリアでは配達用として郵政公社に採用されるなど「カブ=働くバイク」としての側面も継承している。
1991年から電装が12V化された。
クロスカブ(2013年登場)

CTシリーズの販売終了から3年、「アウトドアモデル」として登場したクロスカブ(110cc)。リヤスプロケットは1枚で、レッグシールドを備えるなど街中での利便性も高められている。
実は、開発ベースとなったのはオーストラリア向けの郵便配達用モデル。車名含め厳密には「CT系モデル」ではないが、そういった意味ではCT110直系ともいえる存在だ。
2018年にモデルチェンジが行われ、「クロスカブ110」と車名に排気量が加えられたほか、原付一種のクロスカブ50も登場した。
まとめ●モーサイ編集部・上野 写真●八重洲出版/ホンダ
*当記事は八重洲出版『スーパーカブメモリアル』の記事を編集・再構成したものです。
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