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庶民の移動手段として、配達などの物流を担う存在として、1958年に登場した「スーパーカブC100」は日本人の生活に大きな利便性をもたらした。
しかし、「カブ」は遊びの扉を開く存在にもなった。
シンプルかつ堅牢な構造のカブ系エンジンは、モンキー、ダックスなど様々なレジャーバイクに搭載されたことは多くに人の知るところだろう。
そうした派生車の中には、もちろん「カブ」の名を冠するモデルも存在している。
現在も利便性・経済性を重視したスーパーカブ/スーパーカブ プロだけでなく、上質なデザインや現代的装備が特徴のスーパーカブC125、ツーリング性能やオフロード走破性を高めたCT125・ハンターカブといったモデルがあるが、当記事では「遊びのカブ」の原点について紹介していきたい。
スポーツカブシリーズとは
ホンダは1959年に実用モデルのC90(125cc)をベースにしたCB92を発売し、250ccクラスでも、C70系をベースにした本格スポーツモデルの開発が進められていた。
が、それらはいずれも15万円を超えており、当時大卒の初任給が1万40000~1万5000円という時代、決して気軽に買えるものではなかった。
そこで考案されたのが、スーパーカブの兄弟車とも言える50ccスポーツ車の開発である。
開発はすこぶる順調に進み、1960年9月には生産環境が整い、10月からはスポーツカブC110として全国で発売された。
価格は5万8000円で、手放しに「安い!」と言えるものではなかったが、先に挙げた2モデルと比べれば、多くの人にとってよほど現実的な値段だった。
ベースエンジンはC100Eだったが、構成部品の約25%が専用パーツとして新設計された。
シリンダーヘッドは特殊鋳鉄の燃焼室を鋳込んだアルミ鋳造品で、冷却性アップのためフィンも大型化。
また、C100の売りであった自動遠心クラッチは一般的なハンドクラッチに置き換えられたが、設計上の都合や慣性重力軽減などの理由から、鉄とアルミを組み合わせたドライブプレートを採用。
そのほか、世界GP用エンジンの開発に際して蓄積された給排気系の設計理論を投入し、C100と比較して10%近い出力アップに成功した。
なお、後年にはスポーツ性向上のため4速化もされている。
ホンダ スポーツカブC110(1959年登場)
「スポカブ」と聞いてイの一番に思い浮かぶであろうコロンビアブルー+アイボリー初期モデル。フレームはC70系から開発、採用されたプレスバックボーン構造。シフトペダルには上級スポーツモデルにはない「踏み返し部」が存在しており、使い慣れると便利な装備だ。
インレットマニホールドからエキパイへ流れるような曲線が美しいスポーツカブC110のエンジン。冷却性能向上のため、C100と比べるとシリンダーヘッドが左右に10mmほど大きい。なお余談だが、フィンが長いため工具や指でヘッドの側面をなでると楽器のような音が鳴るのだとか……。
シートはスポーツ走行に合わせたライディングポジションを取れるセミダブルタイプを採用。ふたり乗り可能なC115が登場してからはさらに長いシートが装備された。
シート下にある細長で白いサイドカバーにはエアクリーナーエレメントが収まっている。
100km/hまで目盛りが入ったスピードメーター。一見過剰装備のようにも思えるが、長い下り坂や風向きなどの条件がそろったときにはカタログデータの85km/hを超えることもある。メーター奥のパイロットランプは左がウインカーで、右はニュートラル。
ホンダ スポーツカブC110主要諸元
[エンジン]
空冷4サイクルOHV単気筒2バルブ
総排気量49cc ボア・ストローク40mm×39mm 圧縮比9.5
気化器PW16FA 点火方式フライホイールマグネトー 始動方式キック
[性能]
最高出力5.0ps/9500rpm 最大トルク0.39kgm/8000rpm 最高速度85km/h
最小回転径1.7m 登坂能力14°02′
[変速機]
3速リターン(後期型は4速リターン)
変速比 1速2.538 2速1.421 3速0. 910
後期型変速比 1速2.540 2速1.474 3速 1. 090 4速0. 880
1次減速比4.66 2次減速比2.86
[寸法・重量]
全長1795 全幅565 全高905 軸距1150 最低地上高150(各mm) 装備重量66kg
キャスター27° トレール75mm タイヤサイズ2.25-17(前後とも)
[容量]
燃料タンク6L オイルタンク0.6L
[新車当時価格]
5万8000円
スポーツカブの派生モデル、バリエーションモデル
C111 (1960年登場)
C110と同時に発売されたC111はC100譲りの自動遠心クラッチを採用し、「お手軽操作で気軽にスポーツランを楽しみたい」という層の心をつかんだ。
リヤキャリヤは後年のC110Sとは異なり、簡素なパイプ型でマフラーもダウンタイプを装備。C100と形状は同じだが、専用の部品番号が与えられた。
C110S (1961年登場)
スポーツモデルとして投入されたC110だが、車体構成から来る操安性の高さから実用車としての需要も出てきて誕生したC110S。
C111と同型に見えるシートは底板にスポンジを盛った専用部品で、キャリヤは実用重視のプレス製。
写真の車両は貴重な初期モデルで、ボディカラーは国内版カタログにはないドーバーグレー。
C115 (1961年登場)
免許制度の改正にともなって、C105同様にボアを2mm広げて54cc化したのがC115。
ふたり乗りが可能になっただけでなく、法定速度が40km/hまで引き上げられるなど利点が多く、2000円ほどの価格アップはあったものの多くのユーザーから歓迎された。そのほかC113、CG110、CGM114などの派生モデルが輸出された。
カブレーシングCR110 (1962年)
1962年のスペインGPでデビューし、マン島TTを戦ったワークスマシンRC110。
同車の技術が随所に使いつつ、50ccのDOHC4バルブエンジンに5速ミッションを組み合わせた市販レーサーがカブレーシングCR110である。
当初は保安部品を備えた公道仕様であったが、後にY部品を装着したレース仕様車も販売されている。
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