ヒストリー

【遙かなるグランプリへ3】ホンダに続け! 偶然の出会いが生んだスズキ・マン島TT挑戦史(前編)

スズキ、ホンダテストコースを走る

俊三と宗一郎が東海道本線の車中で意を通じてから数日。
暮れも押し迫った12月27日、スズキ本社会議室で翌’60年のマン島出場が正式に決定された。
トップが迷いのない意思を示せば、物事はあっという間に前進する。

正月休みを返上してマン島マシンの設計に没頭したレース部門は、早々にプロトタイプを完成させテストに入った。

●’60年代スズキ2サイクルテクノロジーが到達した究極点ともいえる50㏄3気筒エンジンのピストンとクランク部分。ボアは28㎜にしかすぎない。

しかし当時のスズキには充分なテスト走行を行なう施設がない。
国道1号線における非合法の試走に無理があるのは誰もが承知している。

ここで渡りに舟となったのがホンダからの申し出だった。
前年に、国内メーカーとして初のテストコースを荒川に完成させていたホンダは、スズキにその使用を勧めたのだ。
仮にも浅間でトップを争ったライバルである。半信半疑で関東に赴いたスズキを待っていたのは、ホンダの至れり尽くせりの接遇だった。
タイム計測機器を設置し、侵入者のないように見張りとなったのもホンダの社員だったし、現場の弁当から宿泊の手配までまるで自社チームのテストとかわらぬ手際の良さで彼らはスズキを受け入れた。
さらには、マン島経験者である河島監督や飯田マネージャーが宿を訪れ、マシンや機材の送り方から書類の作成方法、現地でのレースに関するノウハウまですべてを伝授した。

普通ならここで何か裏があるのでは…と疑いたくなるのも当然だが、すべては宗一郎の天真爛漫な発言に起因していた。
「私たちはマン島の1年先輩だ。スズキさんが困らぬようにしてあげるのが当然だろう」。
これを実直に受け止める河島や飯田たちの人柄もあった。

こうした有形無形の恩義を受けたスズキは、’60年3月23日に荒川を手本としたテストコースを会社近くの米津浜に竣工。

●ホンダの荒川テストコースに倣って米津浜に造られた直線2㎞のテストコース。周囲はネギ畑でお百姓さんが行き来する大変危険なコースでもあった。

それに先だって2月には丸山研究部長をマン島に派遣し、現地視察と宿舎の手配、さらにコース全周を走行しながらフィルムに収めるという綿密な準備を進めていた。

この時、丸山が予約したのが、ダグラス湾を見下ろす美しい丘の中腹に建つファンレイホテルだ。
そして、スズキがこのホテルを選んだことが、またしても偶然の出会いとその後の大きな出来事を引き起こす発端になっているとは、その時誰も気付いてはいなかった。

●世界のレース関係者垂涎のマン島トロフィー。50㏄クラス初をデグナーが、日本人として初を伊藤光夫が、ともにスズキマシンで獲得している。

 

後編はこちら(順次公開)

 

★『浅間から世界GPへの道』 現在発売中!!★

浅間レースから現代に続く日本レース史を扱っている『浅間から世界GPへの道-昭和二輪レース史1950〜1980』、現在好評発売中です!
1950年代当時、国内には舗装路のレースなど無く、ダートでのレースしか知らなかった日本のバイクメーカー。舗装路を走るノウハウなど全く無かった日本メーカーがどのようにして国外のレースに挑んだのか、男たちは何を胸に抱きバイクを走らせたのかが分かる貴重な一冊となっております。現代では世界トップクラスの実力を誇る日本のバイクメーカー、FIM世界耐久選手権など多くのレースが行われる鈴鹿サーキットがもたらした新しいモーターサイクルの歴史、戦後国産メーカー工場レーサー系譜図鑑など、これさえあれば日本の二輪レース史が丸分かりできるボリュームとなっております。
また、サーキットとしての公式レースの幕が下りることとなった、幻の’59浅間火山レースのカラー映像、それから’59第1回全日本モトクロス信太山大会も収録されています!
ぜひお手にとって、先人たちの熱い思いを感じてください!

アマゾンの購入サイトはこちら!!

 

 

あわせて読みたいオススメ記事はこちら!

1

2

  1. Rebel 1100〈DCT〉は旧車を乗り継いできたベテランをも満足させてしまうバイクだった

  2. 定年後のバイクライフをクロスカブ110で楽しむベテランライダー

  3. CL250とCL500はどっちがいい? CL500で800km走ってわかったこと【ホンダの道は1日にしてならず/Honda CL500 試乗インプレ・レビュー 前編】

  4. 【王道】今の時代は『スーパーカブ 110』こそがシリーズのスタンダードにしてオールマイティー!

  5. 新車と中古車、買うならどっち? バイクを『新車で買うこと』の知られざるメリットとは?

  6. ビッグネイキッドCB1300SFを20代ライダーが初体験

  7. どっちが好き? 空冷シングル『GB350』と『GB350S』の走りはどう違う?

  8. “スーパーカブ”シリーズって何機種あるの? 乗り味も違ったりするの!?

  9. 最も乗りやすい大型スポーツバイク?『CB1000R』は生粋のSS乗りも納得のストリートファイター

  10. 40代/50代からの大型バイク『デビュー&リターン』の最適解。 趣味にも『足るを知る』大人におすすめしたいのは……

  11. ダックス125が『原付二種バイクのメリット』の塊! いちばん安い2500円のプランで試してみて欲しいこと【次はどれ乗る?レンタルバイク相性診断/Dax125(2022)】

  12. GB350すごすぎっ!? 9000台以上も売れてるって!?

  13. “HAWK 11(ホーク 11)と『芦ノ湖スカイライン』を駆け抜ける

  14. 160ccスクーターならではの魅力!PCX160だから楽しい、高速を使ったのんびりランチツーリング

アバター

モーサイ編集部

投稿者の記事一覧

1951年創刊のモーターサイクル専門誌。新車情報はもちろん、全国のツーリングライダーへ向けた旬な情報をお届けしています!

モーターサイクリストは毎月1日発売!

おすすめ記事

GB350S ホンダ カメラマン柴田のGB350日記#4「納車前にホンダの歴代ビッグシングルを振り返ってみた」 キタコがスーパーカブ50/110用とクロスカブ110用のショックアブソーバーを発売 アライヘルメットがラパイドネオや旧タイプヘルメットに対応する曇り止めシートを発売

カテゴリー記事一覧

  1. GB350C ホンダ 足つき ライディングポジション