ヒストリー

【遙かなるグランプリへ2】無謀と言われた挑戦 ホンダがマン島TTを制するまで(後編)

●ホンダ第1期GP挑戦の全140勝中41勝をマークしたヘイルウッド。’67年のFISCOで彼に向けて振られたチェッカーが第1期最後のものとなった。

前編はこちら

 

快挙、成る

1959年6月3日水曜日、125㏄クラスのレース当日が、瞬く間にやってきた。
午後1時、高く澄みわたるマン島の空に、スターティングフラッグがひるがえった。

スタートから快調にペースを上げるMVアグスタの2台、T.プロビーニとC.ウッビアリ。東ドイツの名門2サイクルMZを駆るL.タベリがこれに肉薄し、まだ若いM.ヘイルウッドがドゥカティにムチを入れる。

ここまでが各社の最新ワークス勢で、これに型遅れのワークスに乗るMZのH.ヒューグナー、MVのD.チャドウィック、ドゥカティのF.ヴィラなどが続き、ホンダ勢は谷口、鈴木義一、田中がその後ろに固まっていた。鈴木淳三はブレーキパーツの脱落でピットインを余儀なくされたが、修復後目の覚めるような追い上げによって順位を回復しつつあった。

河島の予想は、望ましい方に外れていた。一桁台の順位を好走する日本人の活躍に、コースサイドから声援が飛ぶ。そしてレース終盤、ヒューグナーとチャドウィックが相次いで転倒すると、谷口の順位は6位となった。当時の世界選手権ロードレースは6位までが入賞圏内。望外のポジションを保ったまま、各ライダーの頭上にチェッカーが打ち振られた。

谷口6位、鈴木義一7位、田中8位、鈴木淳三11位。ライダー全員がトップから決められたタイム差内にゴールしたことで、ホンダはManufacturers’ Team Prize=チーム賞を受賞。そしてもちろん谷口は、日本人として初めての世界選手権ロードレース入賞を果たす、歴史的快挙を達成した。

飯田マネージャーが慌ただしく速報を国際電報で本社に打電。夜になってやっと繋がった国際電話で河島が詳しい状況を伝え、留守部隊は震える手で書き起こしたマン島速報を社の屋外掲示板に張り出した。朝、出社と同時にそれを見た社員の誰もが我が目を疑った。
「ホンダ、世界選手権に入賞。チーム賞獲得」

外電を通してホンダの快挙を知った多くの記者たちが会社に押しかけた。そしてその日の午前中から、ホンダの株価が急上昇し始めた。翌日、疲労困憊(こんぱい)し魂の抜け殻のようになりながら荷片づけを急ぐ現地メンバーに、本社総務部から電報が届いた。
「おめでとう。お陰で株価が上がった、ありがとう」。
河島はその文言を苦々しく思った。

メンバーは6月6日、500㏄の決勝を見る暇もなく帰路についた。整備主任の関口は一行と別れオランダに向かい、僅かながら輸出を開始していたドリーム250のクレーム処理に当たらなければならなかった。同日、日本では通産省が異例のコメントを発表した。
「これは一企業の業績であるが、国産2輪車がこれで世界水準に達し、日本製品の今後の輸出にも明るい見通しが立った」

2日後、羽田に帰投したメンバーを待ち受けていたのは熱狂の歓迎だった。その夜、ホンダ全社員の飲み代はすべて会社持ちとなった。その狂乱が歓びの大きさを表していた。

 

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