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誰もが驚くようなマシンを、自身の手で作り上げたいと思ったことはないだろうか。世の中には自身の思い描いたモンスターマシンを、驚異的な行動力で実現してしまったプライベーターが存在するのだ。
並列4気筒のRZ、きっかけはダイシンRZ
「1980年代のカフェレーサー全盛期に大真工業が生み出した、RZ250のシリンダーを並列に3個搭載したダイシン3気筒RZ。その存在が、私の原点でした」
そう話すのは、ここで紹介するマシンの製作者であるK・Hさんだ。大真工業の独創的なバイクに衝撃を受け、自分も同じようなものを作ろうと決意したプライベーターである。
その決意を固めたのが今から10年以上前のこと。すぐさまNSR250Rのエンジンを2基使用したV4エンジンの製作に挑戦し、これに成功。そのエンジンをNSR250Rの車体に搭載した『NSR500』で「もて耐」に2回も出場し、周囲を沸かせた。
その後も後方排気3気筒TZRやVツインCR250などの衝撃マシンを立て続けに製作していたが、製作意欲を刺激する事件が突如起こったのである。
「海外サイトでRD750というバイクを発見したんです。RZ250に、RZ350Rのエンジンを2基接合して積んだバイクでした」
久方ぶりに衝動が身体を駆け抜ける。2スト500㏄のモンスターマシン「RZ500R」の製作が決定した瞬間だった。

名前はRZ500R
K・Hさんは早速製作を開始。マシンの製作にはRZ250Rのエンジンを2基接合する必要があるが、まずはエンジンを調達し、大まかな完成図をイメージするところからスタートした。イメージが固まったら精密な治具を製作し、クランクケースをアルゴン溶接で接合。クランクシャフトは製作したクランクケースに合わせて設計した。
クランクシャフトの結合は、左右のクランクウェブに穴開け加工し、そこにジョイントシャフトを圧入して結合する方法を採用。ちなみにジョイントシャフトは「固ければいいというものではない」そうで、高炭素鋼のS45Cをチョイス。これは以前製作した接合エンジンのジョイントシャフトに超硬素材を使用し、あっさり折れた経験が生きているのだという。
材料の選定に苦労していたとき、偶然に知り合ったメーカーのエンジン設計者から助言をもらえたのも、エンジンの仕上がりを飛躍的に進化させた。やはり興味深いことをしていると、自然と人が集まってくるものなのだろう。

4気筒搭載マシンであることを示す4連装キャブレターはケイヒンタイプのφ28mmを搭載。

エンジンマウントは振動を吸収するよう3mm厚。ドライブスプロケットはクランクケースを割らないと交換できない。

苦肉の策で投入したロックアップクラッチはドラッグレースの定番アイテム。ワッシャーで重量調整している。

膨大な熱量を発散するため、ラウンドタイプラジエターを流用加工。

各数値を記入したメモ帳は、このマシンの設計図とも言える。
エンジンが……壊れた!?
クランクが無事に完成したら、エンジンを組み上げて始動を確認。チャンバーの製作や車体の製作も、自作で行う。……と、ここまでは比較的順調だったが、試走をしてみるとやはり問題が噴出したのである。
まず問題が起こったのはクラッチだ。大出力のため、純正ではすぐに滑ってしまうのだ。純正流用の強化パーツを組んでも滑るので、仕方なくロックアップクラッチを組み込むことになった。
最大の問題は、試走時に突如エンジンが止まってしまったことだ。1番と2番のクランクピンにズレが発生したのが原因だった。左右クランクのジョイントシャフトがずれる経験はしていたので、ジョイントの圧入公差が適正になるよう気を配っていたものの、純正のクランクピンがずれることは想定していなかった。こればかりは致し方ないので、再度業者さんにクランクピンの溶接とクランク芯出しを依頼することで問題を解決した。
そうしてトラブルをひとつひとつつぶし、ようやく出来上がったのがこのRZ500Rなのである。製作期間は着手からわずか1年ほど。プライベーターとしては驚異的な製作スピードと言える。
それもすべて、「こんなバイクが欲しい!」というモチベーション(動機)が原動力。アナタも「作りたい!」の1歩をためらわず踏み出してみよう。そうすれば、夢の究極マシンに、手が届くかもしれないのだから。
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