ヒストリー

「美しい」ヤマハのバイクとキッコーマンの醤油瓶は同じ会社がデザインしていた!! 影の立役者GKダイナミックスとは

「美しい」と言われるヤマハのバイクの多くをデザインしているGKダイナミックス

巷でいわれる「ヤマハのバイクは美しい」という定評、いったいどこから生まれたのでしょう。たしかにヤマハは美しいと表現されるバイクが少なくありませんが、バイクの美しさを判断する材料は人それぞれ。スタイリングやプロポーションといった全体像から、タンクの造形美や光り輝くメッキの美しさといったディテール、あるいは走り去る後ろ姿のダイナミックさに美を感じるなど、判断するポイントはそれこそ千差万別。そこで、定評が根付いた理由を探り始めるとヤマハの「テクニカルレビュー」(ヤマハ発動機が年1回発行し、社内の研究開発の成果や製品を支える技術を紹介する冊子、「技報」とも)に書かれたコラムにたどり着きました。

「(バイクの美しさは)経験や感情など本能に近い部分で知覚される」なるほど、説得力にパンチがあります。それもそのはず、このレビューはバイクやモビリティデザインで世界的イニシアティブを握る「GKダイナミックス」によるもの。ご存じの方も多いかもしれませんが、ヤマハは二輪の製造を始めた時から2012年までの間、多くの車両のデザインを「GK」(※編集部注)に依頼してきたのです。

※1952年に設立された「GK」は、1980年以降分社化が進み、複数の会社から構成される「GKデザイングループ」となりました。現在ヤマハのバイクをデザインしているのは1989年に設立された「GKダイナミックス」です。

ヤマハのバイクより歴史の古い「GK」!! バイクだけでなく時計や小物、自治体のロゴまでデザイン

ここでGKを「ヤマハの系列会社か?」と思うのは早計で、まったくの別会社であり資本の関連は一切なく、実にレアなケースといえるでしょう。そもそもは、1950年代にヤマハが二輪を製造する以前、アップライトピアノのデザインについて相談したのがコラボレーションの始まりとされています。当時、デザインという概念の乏しかった日本でしたが、東京藝術大学の小池岩太郎助教授の元、6人の学生が「これからは身の回りのモノをデザインせにゃ!」と立ち上げたのがGK(グループ・オブ・小池)発足当時こそ、ヤマハの楽器やバイクのデザインを主にしていたのですが、中心人物となった榮久庵憲司(えくあん けんじ)氏の努力もあって、業務の幅はみるみるうちに拡大。たとえば、世界的にも有名なキッコーマンの卓上醤油瓶(1960年)や、大阪万博におけるモノレールやゴミ箱、ベンチといった「ストリートファニチュア」、あるいは東京都のイチョウ(のように見える)マークやJRAのロゴマーク(ヴィジュアルアイデンティティ)など、ありとあらゆる「身の回りのモノ」がGKによってデザインされていったのです。

1970年に大阪で行われた世界万国博覧会の会場に設営された四面時計。GKがデザインを手掛けました。
1961年の誕生以来、ほとんど変わらないデザインのしょうゆ卓上びんもGKデザインが手掛けたもの。1993年にはグッドデザイン賞を受賞しています。
GKが手掛けた東京都のシンボルマーク。TOKYOの頭文字であるアルファベットの「T」を図案化したもので、実はイチョウではありません。1989年に制定されました。

1954年ヤマハ初のバイク「YA-1」からすでにGKにデザインを依頼

で、お話をヤマハのバイクに戻すと、最初にGKが手がけたのは前述の通りヤマハにとっても初めてのバイク「YA-1」(1954年)でした。今見てもミニマルでエレガントなデザインは、随所に後のヤマハ製バイクに一脈通じるディテールが散見できます。また、エンジとベージュの2トーンも黒い車体が多かった当時としてはオシャレなもので、案の定YA-1はヤマハにとって望外の売れ行きだったようです。

1954年に発売されたヤマハ初のバイク「YA-1」。赤トンボの愛称でも親しまれました。

分社化し「GK」から「GKダイナミックス」へ

1980年代になるとGKデザインは分社化が始まり、ヤマハのバイクは「GKダイナミックス」が担うようになりました。

筆者が個人的にヤマハ車におけるGKダイナミックスの関与を意識するきっかけとなったのは1999年の東京モーターショーに出品された「MT-01 プロトタイプ」でした。Vツインエンジンの「鼓動」をモチーフに「音や味わいをデザインの対象としカスタマーに総合的な価値を提供」(前出の「テクニカルレビュー」より抜粋)しようというプロポーザルモデル。この造形美に目を奪われ、度肝を抜かれたのは決して筆者だけにとどまらないはず。クルマの世界でも「鼓動」というワードはマツダも用いているものの、MT-01の場合はエンジンを見ただけで伝わってくるものがあり、マッシブで力強いスタイリングと相まって乗る前から鼓動が感じられるところが凄い!のではないでしょうか。

1999年の東京モーターショーに参考出品された「MT-01 プロトタイプ」。MT-01はその後2005年に発売され、2012年モデルまで欧州を中心に販売されました。
1986年にヤマハから発売されたATV 「YFZ350 BANSHEE」。昆虫が厳しい自然環境に適合するために得た身体機能と形態にヒントを得て、分社化後のGKダイナミックスがデザインしました。

3Dソフトでは作れない「手触りの伝わるデザイン」とは?

さて、GKダイナミックスがこれほどまでにヤマハから重用されるのはなぜでしょうか。言い換えれば、普通のデザイン事務所に対するGKのアドバンテージということになるでしょう。これまたレビューに詳しく書かれていますが、一言で表すと「手ざわりの伝わるデザイン」ということになりそうです。

現在はクルマでもバイクでもコンピュータソフトを用いたデザインが主流であり、そのデータをもとに専門の技術者がクレイ(粘土)モデルを作り上げて、その造形をもとに「あーだ、こーだ」とデザイン議論がなされるのが普通。ですが、GKダイナミックスはデザイナーが自らの手でもってクレイモデルの造形をしているそうです。「身体のもつバランス感覚、全神経、美意識を総動員できる」ということで、ヒトがまたがり、メカやボディが絡み合うバイクは「手でしか造りえない」と主張しています。たしかにSR400のタンクは、見ているだけでもうっとりするような美しさだし、歴代YZF-R1は見ても、触れても気分が高まりみなぎるハイパワーを感じさせるもの。コンピュータがいくら進化しても、ソフトでは視覚的なチェックに過ぎず、手ざわりの再現までは難しいはず。GKはCAD(Computer Aided Design)のメリットは認めつつも、あくまで触感や手ざわりを重要視しているそうです。

ボートやスノーモービルもデザイン!! ヤマハとGKダイナミックスの蜜月は続く

GKがデザインしたヤマハの車両はこのほかにも数えきれないほどあり、またバイクだけでなくプレジャーボート(PC35等)ATV(YZF350 Banshee等)あるいはスノーモービル(VK540V等)などなど、美しい乗り物がずらりとラインナップしています。冒頭で美しさの判断は千差万別と述べましたが、少なくとも「本能で感じる部分」や「手ざわり」のようなニュアンスは誰しも共通しているのかと。そんな慧眼をもったGKダイナミックス、これからの活躍からも目が離せませんね。

2013年に登場したヤマハの北米若年層向けオフトレールスノーモビル「SR Viper」。コンパクトながらシャープな造形で、切れ長のヘッドライトによって「ヤマハのスノーモービル」らしさを強調しています。

レポート●石橋 寛 写真●GKダイナミックス/ヤマハ 編集●中牟田歩実 

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