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CBX400F「CB400FOURに代わる新世代の400マルチ」
1977年に「ヨンフォア」ことCB400FOURが販売終了となった後、ホンダは新開発したOHC3バルブの並列2気筒車・ホークシリーズを400ccクラスの主軸としていた。
一方、ライバルメーカーはその間にDOHCとした400ccの高性能4気筒車を投入。1979年にカワサキ Z400FX(DOHC2バルブ:43ps)、1980年にヤマハ XJ400(DOHC2バルブ:45ps)、1981年にスズキ GSX400F(DOHC4バルブ:45ps)が発売される。
400マルチの人気が高まっていくなか、当然「4気筒のホンダ」が黙っているはずはなかった。1981年11月、最後発となれど、DOHC4バルブ、クラストップの48psを引っさげ登場したのがCBX400Fである。今なお名車として語り継がれるCBX400Fだが、新車当時の評価はどのようなものだったのだろうか。
以下は『別冊MOTORCYCLIST』1982年1月号より、CBX400Fの新車発表時の試乗記事を抜粋したものだ。試乗場所は鈴鹿サーキット。ライダーはモーターサイクリスト誌のテストライダーを過去に務め、第1回鈴鹿8時間耐久オートバイレースで8位のリザルトを残した、単気筒レーサー「ロードボンバー」の設計者、島 英彦氏である。
設計意図に忠実な走り
48ps/11,000rpmの走りはどんなものだろうか。
「ローで引っ張った瞬間からパワーのあるのがわかる。気をつけていないと11,500rpmからのレッドゾーンにすぐ入ってしまう。だが6速では60km/h、3,500rpm以上回っていないと、ちょっと力がない。48psも出すエンジンとしては低速も厚いと思うが……」(島)
昔、ホンダがCB72を出した時、トップギア70km/hでは走れません、と広告に誇らしげにうたったのを思い出したほど、現代のマルチとしては方向を高速側に振っているといえる。
もちろん現代のマルチだから、低速で走れないわけではないが、ツキの悪さを感じるというところだ。一方サーキットでの全開走行では、ハイパワーエンジンの美点のみが光る。7,000rpmあたりからカムに乗る感じの鋭い加速を示し、11,500rpmのレッドゾーンまで一直線に加速し、スズカのストレートでメーター読みとはいえ、180km/h以上をマークする実力は並みのものでない。
振動は特に気になる部分もなく、100km/hの6,000rpmはクルージングとしても低すぎるくらいで、カウルを装備すれば、法定速度の倍近いところでの快適なロングツアーも楽しめよう。
「真綿フィーリング」を追求したというブレーキは初期の食い付きもよく、良質のドラムを思わせるのがいい。タッチだけではなく制動力も優秀で、ツインポッドキャリパー採用以来のホンダのよき傾向をさらに伸ばしたといえる。カバードのため雨の日など、従来のステンレス系のつもりで力一杯かけると、効きすぎてとんでもないことになるかもしれないが、ウエット性能に関しては、確認していないのでなんともいえない。
「気になったのは40km/h以下ぐらいの低速走行で、前車のブレーキランプに反応して、パッとレバーを握ると、ハンドルがチョンと右へ取られる傾向があることと、TRACの作動音らしき音がコツンと聞こえることで、なんらかの対応が欲しい。サーキットで走れば、車体と車輪の慣性が大きくなるし、走行音も高まるから気にならないが、市販車は公道を低速で走ることが多いのだから」(島)
アンチノーズダイブの効きは自然であり、特に付いていることを意識させずに、しかもきちんと作動しているのがいい。コーナリングは素直で、軽くバンクに持ち込めるし、切り返しの重さもなく、ホンダのいうヒラヒラ感を感じることができる。ただしCB250RSと比較すれば、車重の差を再確認することもあろうが、これは当然のことだ。
タイヤは前3.60 H18、後4.10 H18前後同径である。リムは前後MT2.15×18と同じ幅であり、相対的にフロントが太目だ。これにはフロントタイヤの剛性を上げて、コーナリングの切れ味をよくする目的もある。
高速直進性は良好で、180km/hの最高速付近でも不安なく走れる。最近のスポーツモデルでは高速時にウォブルの傾向をみせるものは少なくなったが、いずれにせよこの項目ではCBX400Fによい点数をやっていい。
「コーナリングそのものは悪くないが、全体的にソフトで、コーナーですわりのよくない感じがする。どちらかといえばカチッとしたバイクではないが、とっぴな現象を起こすことはない」(島)
クラッチは非常に軽くつながりもよい。6段ミッションは気持ちよく入るが、変速のショックはやや大きい気もした。
乗り心地はよい路面ばかりを走ったので断定的なことはいえないが、少なくともショックを直接的に伝えてくるといった欠点はなく、ソフトなものだった。
フューエルゲージや負圧コックの採用は遅すぎたというべきだが、 歓迎できる装備だ。
「街中で乗るには、エンジンが速すぎる印象もあるが、設計意図の速く走るという思想には忠実に応えたバイクといえる。400ccクラスとしては圧倒的にパワーがあるから、速く走るのが好きな人にはいいバイクだ」(島)
ホンダが加わって、中型マルチ戦はいよいよ白熱化してきた。果たして48psの最高出力を発揮して、CBX400Fはこの戦線のリーダーになれるだろうか?
2巡目のバッターに球は投げられた。
ホンダ CBX400F 主要諸元
■エンジン 空冷4サイクルDOHC4バルブ並列4気筒 ボア・ストローク 55.0×42.0mm 排気量 399cc 圧縮比9.8 最高出力48ps/11,000rpm 最大トルク3.4kgm/9,000rpm
■ 変速機6段 変速比 1速 2.769 2速 1.850 3速1.478 4速1.240 5速1.074 6速0.931 1次減速比 2.565 2次減速比 3.000
■寸法・重量 全長 2.060 全幅 0.720 全高 1.080 シート高 0.780 軸距1.380(各m) 乾燥車重173kg 燃料タンク容量17L オイル容量3.0L タイヤサイズ前3.60H18 後4.10H 18 キャスター26度 トレール97mm
■価格 48万5,000円(ツートン) 47万円(ソリッド)
*数値はすべて発売当時のもの
SUPERストリート400レース
ホンダではCBX400Fの発売と同時にロードレースの底辺拡大を図り、より日本のモータースポーツを盛り上げるために「SUPERストリート400レース」を企画している。骨子としては──
1.現行のプロダクション125、250ccのほかにこのクラスを設ける。
2.TT-F3はユーザーの負担が大きいので、よりローコストで楽しめるレースとする。
3.1982年2月28日の全日本選手権第1戦(申請中)をオープニングレースにし、年間6〜7戦のシリーズ戦とする。
──というものである。SUPERストリート400クラス出場マシンのレギュレーションはエンジン形式、シリンダー数、ストローク、主要構成部品の材質とキャスティング、キャブレター、給排気システムの変更禁止、車体ではフレームの基本骨格、燃料タンク、リヤサスの形式、フロント、リヤフォーク、ホイールAss’y、ブレーキ、全カウリングなどが禁止されている。
CBX400Fの発表会場にはこのレーサーも展示され、試乗もあったが、誰にでも乗れるレーサーに仕上がっていた。
ホンダ RS400R主要諸元
■エンジン ボア・ストローク55.0×42.0mm 排気量399.14cc 圧縮比10.7 バルブリフトIn8.0mm Ex7.9mm 最高出力55ps/12,000rpm以上 最大トルク3.3㎏-m/10,000rpm以上 最高時速220km/h以上
■変速機 6段(1アップ5ダウン) 変速比 1速2.055 2速1.545 3速1.280 4速1.115 5速1.000 6速0.931
■キットパーツ価格 オイルクーラー2万6,000円 ミッション7万7,000円 パワーアップキット10万5,000円 マフラー11万9,000円 バックステップ4万7,000円 ハンドル 1万5,500円 カウリング 6万3,000円 このほかにシート、フォーク、リヤショック、リヤスプロケットも用意されている。発売は1982年2月末予定。
*数値はすべて発表当時のもの
リポート●島 英彦/佐藤康郎 写真●外園功光/八重洲出版 編集●飯田康博
*当記事は『別冊MOTORCYCLIST』1982年1月号の記事を再編集したものです。