目次
エンジンの最高出力213馬力はほぼ不変だが……
カワサキの1000ccスーパースポーツ「ニンジャZX-10R」がフルモデルチェンジされ、5月28日に229万9000円で発売される。
また、サーキットでのパフォーマンスをより高めた上級モデルのニンジャZX-10RR(世界限定500台)も6月25日に328万9000円で発売される。
ニンジャZX-10Rといえば、スーパーバイク世界選手権(=市販車ベースのマシンで争われるトップカテゴリーのレース)で2015年〜2020年連続6制覇という偉業を成し遂げている、「世界最速の1000ccスーパースポーツ」とも言える存在だ。
公道を走れる市販車ではあるが、引き続きスーパーバイク世界選手権に参戦するベースマシンという使命も担っている。
今回のモデルチェンジも、当然「スーパーバイク世界選手権」を意識した変更が多数行われている。その狙いを分析していこう。

【画像20点】新型ニンジャZX-10R&RRの全車体色、レースベース車を写真で紹介
新型ニンジャZX-10Rの特徴は、なんと言ってもスーパーバイク世界選手権6年連覇のチャンピオン獲得のノウハウが存分に反映されている点だろう。
モデルチェンジに当たっては、以下のように細部まで多くの変更が施されている。新型と従来型、両車のスペックも紹介しておこう。
- 空力性能を向上させた流線形のスタイリング
- ダウンフォースを向上させる「カウル一体型ウイングレット」の採用
- よりコンパクトな形状ながら従来型と同効率としたラムエアインテーク
- スーパーバイク世界選手権参戦マシンからのフィードバックに基づく空冷オイルクーラーの採用
- コーナリング性能を重視し車体のジオメトリーを変更
- 新形状のスクリーンを採用し防風性能を向上
新型=2021年モデル・カワサキ ニンジャZX-10R主要諸元


[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:76.0mm×55.0mm 総排気量:998cc 最高出力:156.8kW<213.1ps>/1万3200rpm(ラムエア加圧時) 最大トルク:115Nm<11.7kgm>/1万1400rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2085 全幅:750 全高:1185 ホイールベース:1450 シート高835(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/55ZR17 車両重量:207kg 燃料タンク容量:17L
[車体色]
ライムグリーン×エボニー(KRTエディション)、フラットエボニー
[価格]
229万9000円
*1ヵ月目点検、3年間の定期点検とオイル交換が無償となる「カワサキケア」含む
従来型=2020年モデル・カワサキ ニンジャZX-10R主要諸元


[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:76.0mm×55.0mm 総排気量:998cc 最高出力:156kW<213ps>/1万3500rpm 最大トルク:114Nm<11.6kgm>/1万1200rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2085 全幅:740 全高:1145 ホイールベース:1440 シート高835(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/55ZR17 車両重量:207kg 燃料タンク容量:17L
[価格]
210万1000円(2021年3月中旬時点での価格)
ニンジャZX-10Rのコンセプト「速いバイク=乗りやすい」は継承
いずれの変更点も、最終的な狙いはスーパーバイク世界選手権参戦ベース車としてのポテンシャルアップと言っていい。しかし、それは尖った性能向上ではないはず。
そもそもニンジャZX-10Rがスーパーバイクで強い理由は「扱いやすさ」にあるからだ。スーパーバイクでは、ランキング上位のマシンに対しては使用回転数の制限が行われているが(ハンデがつけられる)、その筆頭となるのはチャンピオンのカワサキであり、2018年には1400回転もの制限が課せられていた。
回転数制限が、最高出力(つまりトップスピード)に対して不利に働くのは当然で、そうなると「以外の部分」でタイムを詰めなくてはならない。
具体的にはコーナー進入から立ち上がり加速に優位性を確立し、トップスピードで不利な部分をカバーすることである。このため、カワサキは車体・足まわりのブラッシュアップを徹底的に行ってきた。実際、回転数制限後にラップタイムが1秒近く速くなったことがあったという。
要するに、9割しか使えない230馬力と、10割使える210馬力ではどちらが効率的にパワーを使って速く走れるのかということ。だから、車体全体でエンジンパワーを存分に使いこなせるようにすることが、近年のニンジャZX-10Rが歩んできた方向性なのだ。



新型ニンジャZX-10Rで大きく変わった外観=空力性能
新型=2021年モデルのニンジャZX-10Rでもそれは踏襲されているようで、数多くの改良点の中でも注目すべきは車体・足回り関係の細かな改良と、外観も大きく変えた空力性能の向上だろう。
特に空力はウイングでもウイングレットでもない独自の形状を採用し、ダウンフォースを17%も向上させながら、空力性能自体も向上。これらによって、さらにニンジャZX-10Rは速く、扱いやすくなっているはずだ。
さらにニンジャZX-10RRのエンジンでは、Pankl(パンクル)製のチタンコンロッドとピストンによって、レシプロ系で計500g近い軽量化が施されている。
最高出力そのものはほぼ従来と同じだが、発生回転数を引き上げており、回転数制限の中で少しでも使用可能な回転域を拡大しようという構想が理解できる。
このように緻密に詰めてきたマシンパッケージングの完成度によって、高いパフォーマンスを実現しようというのが新型ニンジャZX-10Rのコンセプトと言ってもいい。「スーパーバイク王者」の知見が存分に反映された新型の、高い動力性能と扱いやすさを両立したであろう乗り味に大きく期待するものである。
新型ニンジャZX-10Rの主な変更点



アッパーカウルはシンプルな外観と高さのあるウイングシールドとの組み合わせで空力性能は7%向上。一体型ウイングレッドの効果もあってダウンフォースは17%アップ。コーナー脱出時のホイールリフトを抑制。
従来型まではハロゲンヘッドライトだったが、新型では軽量コンパクトなLEDヘッドライトを採用。ヘッドライトユニット単体で450gの軽量化が行われた(従来型1650g→新型1200g)。

新型はスイングアームピボットを1mm下方に移動させ、コーナー脱出時の作動性を向上。フロントフォークオフセット増、スイングアーム延長でホイールベースは1440mmから1450mmになり安定性を強化。トレールは小さくなり、回頭性を高めた。

スーパーバイク世界選手権の実戦で鍛えられた空冷オイルクーラーが高いエンジン性能を実現。リヤスプロケットは39Tから41Tになり、1〜3速を全体的にショート化。
サーキットでの低中速コーナー立ち上りやスタート時の加速性能を向上。エキゾーストシステムの集合方式も変更し、213馬力の出力を維持しつつユーロ5排出ガス規制に対応している。

走行中のパワーやブレーキ効力を最適化する電子制御もアップデート。トラクションコントロールの作動がより精密となったほか、スポーツ/ロード/レインのプリセット3種+各パラメーターを任意に設定できるライダーをあわせて全4種のライディングモードを改良。
またクルーズコントロールが新採用されたほか、メーターにはスマホ連携機能も搭載。
新型=2021年モデル・カワサキ ニンジャZX-10RR主要諸元


[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列4気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:76.0mm×55.0mm 総排気量:998cc 最高出力:157.5kW<214.1ps>/1万4000rpm(ラムエア加圧時) 最大トルク:112Nm<11.4kgm>/1万1700rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2085 全幅:750 全高:1185 ホイールベース:1450 シート高835(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R190/55ZR17 車両重量:207kg 燃料タンク容量:17L
[車体色]
ライムグリーン
[価格]
328万9000円
*1ヵ月目点検、3年間の定期点検とオイル交換が無償となる「カワサキケア」含む


レポート●関谷守正/上野茂岐 写真●カワサキ 編集●上野茂岐
追記:2021年3月26日13時30分訂正。スーパーバイク世界選手権のチャンピオン獲得は7連覇ではなく2015年〜2020年の6連覇でした。修正の上、お詫び申し上げます。