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888cc並列3気筒エンジンを搭載するヤマハの新型スーパースポーツ・YZF-R9。その国内発売に先駆け、試乗レポートをお届けする。購入するかどうか検討中の人はぜひ参考にしてほしい。
試乗ライダーはイギリス人モーターサイクルジャーナリストで、レーシングライダーでもあるアダム・チャイルド氏。スペインのセビリアサーキットにて開催された国際試乗会で、フルスロットルの全開テストをしてきた!

ヤマハ YZF-R9はフロントのフィーリングがバツグンで、扱いやすいのに速い!
ヤマハ YZF-R9は、走行開始後の数周の慣熟走行においては、やや穏やかな印象はあるもののYZF-R6によく似ていると感じた。ライディングポジションはYZF-R6ほど過激ではないが、取り付け位置が低く幅の狭いハンドルバーと高い位置にあるフットペグにより、かなりアグレッシブである。
幅広の燃料タンクに伏せると、自分がバイクの一部になったような気分になる。ある程度ペースを上げていっても、KYB製前後サスペンションと標準装着タイヤのブリヂストン製バトラックス・レーシングストリートRS11(*)からは路面の情報がしっかり伝わってくる。
*編集部註:ヨーロッパ仕様。北米仕様はブリヂストンのバトラックス・ハイパースポーツS22が標準装着される。日本仕様はRS11が装着される。
車体はYZF-R6を彷彿とさせるものだが、エンジンはそれほどピーキーではなく、より扱いやすい。ギヤ選択を誤っても問題なく、3気筒エンジンならではの幅広いトルクバンドを利用して、YZF-R6やほかの600cc並列4気筒車では夢見ることしかできなかったような、クリッピングポイントからの力強い立ち上がりを堪能できる。

YZF-R9はユーザーフレンドリーで、初めてサーキットを走るビギナーや、これまで走ったことのないコースを攻略しようとしている経験豊富なライダーに最適と言える。非常に軽量でパワーデリバリーもハンドリングも軽快であり、レーシーなウイングレットとレーシングバイクさながらのフロントフェイスは少し威圧的にも見えるが、乗り始めてから数周のうちに、ただ飛び乗るだけで活発に走れるイージーなバイクであることが明示される。
コースのまだ湿っている箇所が把握できたので、身をかがめてペースを上げていく。ヤマハは試乗車にオプションのGPSユニットを取り付けており、それと連動して5インチTFTディスプレイに映し出されるバーチャルピットボードのおかげで、各周回で表示されるラップタイムを短縮していくのが任務のようになった。ラップタイムは、スタート&フィニッシュラインを通過するたびにディスプレイ上にはっきりと表示された。
ラップタイム更新を狙っているときでも第3世代のクイックシフターは非常にスムーズに機能し、高回転でのシフトダウンも問題ない。スーパースポーツモデルでラップタイムを追い込んでいくときに重要なフロント周りのフィードバックは優れており、これもYZF-R6と非常によく似ていると感じた。少しオーバースピードで高速コーナーに進入し、クリッピングポイントのかなり深いところでブレーキを掛けた場合でも、安心感と自信を与えてくれる。
コースを周回している間、試乗車はABSが完全にキャンセルされていること、また、公道向けの標準装着タイヤを履いていることを何度か自分に言い聞かせなければならなかったが、それでも自由さを失うことなく走れた。YZF-R9の車体セットアップ、特に43mm径のKYB製フロントフォークは、それほどに優れている。


コーナーへの進入では、ヤマハが数十年掛けて作り上げたほぼ完璧なライダーサポート形状を踏襲した燃料タンクのおかげで、自然にイン側に体を入れられる。YZF-R6と同様に、背の高いライダーの中には位置調整可能なフットペグを低い位置に変更したいと訴えた人もいたが、私は十分な地上高を確保できる高めの設定で問題なかった。
コーナリング中は車体の動きに没入することができ、各クリッピングポイントに到達するたびに「もっと速く走れた! コーナーリングのスピードをもっと上げるべきだった!」と思わされる。公道用タイヤではヒジ擦りをするほどのバンク角を取ることはできなかったが、もしスリックタイヤを履いていたらどのようなパフォーマンスを発揮するのか……非常に興味深い。
コーナーの出口では、シンプルにどれだけライダーに勇気があるか、タイヤのグリップ力にどれだけ余裕があるかが問題になる。200馬力のYZF-R1では、パワーを解き放つ前に待つ必要があった。YZF-R6では、常に理想的な回転数で立ち上がるために完璧で正確な操作をする必要があった。しかしYZF-R9では、早めかつ余裕を持ってパワーに乗ることができるので、完全でなくズボラな運転をしても許される。常に乗り手に付き従ってくれるような特性だ。
20分間のセッションの終わりに近づくと、公道向けに設計されたタイヤが不満を言い始めた(しかし、フィードバックは依然すばらしい)。振り返ってみると、夢中になって高回転型エンジンを積むYZF-R6のように走らせていたせいで、何度もレブリミッターにぶつかっていた。YZF-R9はYZF-R6を上回るトルクとパワーを備えているのだが、約1万500回転で打ち止めになるのは、スポーツバイクとしては比較的レブリミットが低いと言える。
標準のギヤ比設定がセビリアサーキットに合っていなかった影響も大きい。ギヤを保持したままでいたいが、回転数が限界に達してしまうセクションがいくつかあったからだ。あと数千回転の余裕があれば、ラップタイムをもっと短縮できただろう。


ヤマハ YZF-R9の電子制御をイジってみる
セッションを終えてピットに戻る。
YZF-R9の電子制御システムは、パワーモード、トラクションコントロール 、スライドコントロール 、リフトコントロール 、ブレーキコントロール 、エンジンブレーキコントロール、ローンチコントロール 、バックスリップレギュレーター 、クイックシフターがあり、リヤABSの調整も可能だ。
次のセッションに向け、4段階あるパワーモードは推奨の「2」のままにして、よりアグレッシブな「1」にはしなかったが、リフトコントロール(ウイリー制御)をキャンセルして、トラクションコントロールなどライダーアシストの介入度を少し下げた。
本気のタイムアタックに挑みたかったのだが、履いているタイヤはあくまでも標準装着の公道向け銘柄であり、このサーキットで前の週に走らせたドゥカティ パニガーレV2 Sが履いていたようなレース用スリックタイヤではないことも当然理解していた。
再びコースイン。ディスプレイには自動的にラップタイムが表示されるので、限界を求めてプッシュして行かざるを得ない。ペースをどんどん上げていっても、ハンドリングは引き続き感銘を与えるもので、特にフロントのフィーリングは法廷で証言してもいいくらいすばらしかった。
また、走らせ方については、コーナリングスピードを上げ、高いギヤを選択してリミッターにあまり当たらないようにすることが効率的に走る鍵だということが走行開始後すぐに分かった。トルクがたっぷりあるので、その乗り方でもラップタイムは相変わらず見事な値だ。しかも、はるかに乗りやすくなっている。
コースの最後のセクションは非常にタイトだが、YZF-R9なら切り返しを簡単にこなせる。乾燥重量が約179kgなので、非常に操りやすいのだが、唯一の障害は幅の狭いハンドルだ。私としては、より少ない労力でより大きなてこの作用が得られる、もう少し幅広のハンドルのほうが好みである。
とはいえ、各セッションの終了時に疲労を感じることはなかった。YZF-R9はペースを上げて走るのにそれほど苦労しない。YZF-R6と比べてとてもリラックスできる乗り味である。ラップタイムがYZF-R6に劣るように感じることもあるかもしれないが、ラップタイマーはその感覚が正確ではないことを示すだろう。

ひとつ残念なことと言えば……ブレンボ製のフロントブレーキシステムは、私が期待していたほどシャープではなかった。タッチがスポンジーだったのは、フロントタイヤの限界域でのグリップやフィーリングにも原因があるのかもしれない。ブリヂストンのRS11は、旋回時やブレーキング時に少し不安定さを感じたこともあったが、そもそも公道向けタイヤであることを考慮すると、サーキットでも非常にうまく機能していたと言えよう。
なお、もしスリックタイヤを装着したならば、YZF-R9はコーナースピードをさらに上げることができ、レブリミットに当たることも少なくなることだろう。今回の試乗会では、サスペンションやライダーアシストのセッティングをさらに詰めていけばより面白くなりそうだったが、残念ながら悪天候のためテストは短縮されたのであった。
結論:ヤマハ YZF-R9はYZF-R6の進化系だ!
ヘレスサーキットで行われるはずだった試乗会は失敗に終わったが、ヤマハは一晩で事前テストを行っていないセビリアサーキットに会場を移すという賭けに出た。ヨーロッパでは通常、メーカーはニューモデルの試乗会をサーキットで開催する場合には、サスペンションからタイヤ空気圧の設定まで、1週間ほど掛けてコースに最適化させるための事前テストを行っている。
しかし今回、ヤマハは事前テストを行っていないサーキットで、ラップタイムよりも耐摩耗性を重視して設計される公道走行用のタイヤを履いたYZF-R9を走らせることを選択したのである。ありがたいことに彼らの賭けは成功し、YZF-R9は難しい状況下で非常に優れたパフォーマンスを発揮した。
実際、YZF-R9を標準装着タイヤで走らせたことで吊るしの設定がどれほど優れているかが分かった。その卓越したシャーシと優れたフロントエンドは、多くの点でYZF-R6のような感覚を与える。しかし、YZF-R9はYZF-R6よりもはるかに乗りやすく、より寛容で、より扱いやすいエンジンを備えている。
そのパワーデリバリーに慌ただしさはなく、それほど速くはないようにも感じられるが、確かな速さがあることは優秀なラップタイムで示された。少し残念だったのはブレーキで、ブレンボの「スタイルマ」キャリパーを使用している車両で通常感じられるはずの鋭さが欠けていた。
YZF-R9はYZF-R6の改良版だ。軽量で引き締まった精緻なシャーシと自信を掻き立てるフロントエンドはYZF-R6そのままに、最先端の電子制御に支えられた、より親しみやすく包括的な特製のエンジンを備えている。このニューマシンによって、より多くのライダーがサーキットを楽しめるようになるだろう。
すでにレースで勝利を収めており、見た目もすばらしい。ライダーの快適性や航続距離、その他数多くの一般的テスト項目についてはコメントできないが、YZF-R6よりも公道に適しているはずだ。時間を掛け走行距離を稼げば、それは確かになるだろう。

ヤマハ YZF-R9(888cc並列3気筒) vs ドゥカティ パニガーレV2 S(890ccV型2気筒)
YZF-R9には手強いライバルがいる。ドゥカティのパニガーレV2 Sだ。私はそれにもこのセビリアサーキットで試乗したのだが、ラップタイムではパニガーレV2 Sが優位だった。ただしそれは、ドゥカティは試乗車にコースに合わせたセットアップを事前に施しており、予熱されたスリックタイヤが装着されていて、路面コンディションも良かったからだ。
YZF-R9は公道向けの標準装着タイヤを履いていた。私がYZF-R9で出したラップタイムはパニガーレV2Sより2.3~2.5秒遅かったが、タイヤ、気温、天候の違いを考慮すると、その差はそれほど大きなものではないと言える。なお、ドゥカティはABSをキャンセルしなかったが、ヤマハはキャンセルした。
スペックシート上ではパニガーレV2 SはYZF-R9より軽く、最高出力とレブリミットがわずかに高い。コース走行ではパニガーレV2 Sはタイトなセクションでより楽に感じ、YZF-R9はフロントのフィードバックのすばらしさが印象的だった。新しいバイクが競い合うように連続して発表されるのは面白い。きっと接戦になるだろう。

レポート●アダム・チャイルド
写真●アントプロダクション/ヤマハ/柴田直行
まとめ●モーターサイクリスト編集部
ヤマハ YZF-R9(ヨーロッパ仕様)主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 圧縮比:11.5 最高出力:87.5kW<119ps>/10,000rpm 最大トルク:93Nm(9.5kgm)/7,000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2070 全幅:705 全高:1180 ホイールベース:1420 シート高:830(各mm) タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:195kg 燃料タンク容量:14L
[車体色]
アイコンブルー、テックブラック
日本仕様はどうなる?
冒頭で紹介したように、2024年10月にYZF-R9の国内向け発表会が行われた。その際に展示されたのが、以下の3カラー。白×赤の車体色は欧州仕様には無く、北米仕様に設定されているカラーだ。だが、いずれの車両のタイヤも「RS11」となっていた……つまり、この白×赤カラーは日本で販売される!?
というか、「モーターサイクルショー2025 ヤマハスペシャルサイト」内のYZF-R9のページにも白×赤カラーの姿が。これはもう決定でしょ!


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■ヤマハ発動機
TEL:0120‐090-819(カスタマーコミュニケーションセンター)
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/
■「モーターサイクルショー2025 ヤマハスペシャルサイト」
https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/event/mcs2025/yzf-r9/