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2025年の大阪、東京モーターサイクルショーで展示され、注目を集めているヤマハのニューモデル・YZF-R9。4月開催の名古屋モーターサイクルショーでも展示される予定だ。
現時点では「日本では2025年春以降発売」という情報のみで価格は未発表だが、日本での発売に先駆け、イギリス人モーターサイクルジャーナリストのアダム・チャイルド氏がスペインのサーキットで全開テスト!
まずは、マン島TT参戦経験を有するレーサーでもある、アダム氏によるYZF-R9の分析を紹介しよう。レースマシンとしてのポテンシャルは? 公道ユースはどこまで考えられている?
ヤマハ YZF-R9はレースのデビュー戦で早速優勝! 価格の「競争力」も高い
ドゥカティやトライアンフなどの新たなバイクの参入により活気を取り戻しているミドルスポーツ(ヨーロッパでは昔から「スーパースポーツ」と呼ばれている)カテゴリーは、ヤマハがYZF-R6に代わってYZF-R9を投入したことで引き続き盛り上がりを見せている。
この890cc並列3気筒エンジンを搭載するニューモデルは、レーシングバイクとしてはスーパースポーツ世界選手権のデビュー戦、オーストラリアラウンドで早くも優勝を達成しており、市販モデルの価格は1万2250ポンド(*)と競争力がある。ライバルたちはすでに心穏やかではないようだ。
*編集部註:イギリスにおける販売価格。なお、YZF-R9のベース車であるMT-09のイギリスにおける販売価格は1万106ポンド。イギリスにおけるMT-09とYZF-R9の価格比は約1.2倍。それを日本のMT-09の価格・125万4000円に当てはめてみると、YZF-R9は約150万となる。実際の販売価格もこのあたりではないかと予想する。

YZF-R9は兄弟機種であるYZF-R7と同様、ネイキッドのMTシリーズにスポーティなフェアリングを装備して再パッケージしただけのモデルだと決めつけられやすい。しかしその理解は、現実とは乖離している。
パワフルかつフレキシブルな「CP3」エンジン(クロスプレーン・コンセプト3気筒の意)はMT-09そのままだが、YZF-R9には新設計のデルタボックスフレームと独自の車体ジオメトリが与えられており、調整範囲の広いKYB製前後サスペンションや6軸IMUと連携するABS&トラクションコントロールも専用の設定が施されているのだ。そして、ボディを包み込む洗練された魅力的なフェアリングも、これまでのヤマハスポーツモデルで最も空力に優れたものとされている。


なおイギリスでは、YZF-R6とYZF-R1はクローズドコース走行専用モデルとして引き続き販売されているが、YZF-R9はそれらに代わるモデルではない。サーキット性能に焦点を当てているにもかかわらず、YZF-R9は公道でも機能するように設計されており、ヤマハによると「純粋なスポーツパフォーマンスと強力なRモデルのDNAを備えながら、非常に身近な存在である」という。
私たちはサーキットでも公道でも注目されるこの最新モデルに試乗するのを待望していたのだが、試乗会がセッティングされたその日、スペイン南部とその周辺地域に大雨が降り、クローズドコース試乗会場のヘレスサーキットも冠水してしまった……。
しかし、ヤマハは一夜にして会場を参加者ごとセビリアサーキットに移すという予想外の対応を実行。セビリアサーキットと言えば、私が数週間前にドゥカティの新型パニガーレV2 Sで走った、まさにそのコースである。物流チームにとっては悪夢だったと思うが、ヤマハは全力を尽くし、公道試乗は叶わなかったものの、何とかYZF-R9のサーキット試乗を実現してくれた。


ヤマハ YZF-R9はフレームも専用のほか、装備もハイグレード! レーシングバイクのようなたたずまいがある
YZF-R9には大きな関心が寄せられている。ヤマハには数々のミドルスポーツバイクを生産してきた伝統がある。FZ600、FZR600、そして過去25年ほど、時として圧倒的な人気を誇ったYZF-R6を思い浮かべてみてほしい。現在、この日本の大メーカーはスーパースポーツ世界選手権でのさらなる成功と、それに続く好調な売上を渇望している。
バイクの中心となるエンジンは柔軟な性格で、楽しく、パワーに富む890cc並列3気筒であり、非常に人気のあるMT-09から直接譲り受けているものだ。119馬力を1万回転で、9・5kgf・mのトルクを7000回転で生み出す、あらゆるライディング環境に適したすばらしいエンジンであると言える。二次減速比は、サーキットに焦点を当てたYZF-R9では最高速を上げるためにMT-09の16/45から16/43に変更されており、FIの設定も微調整されている。

アルミ製のデルタボックスフレームは専用品で、MT-09のものよりも軽量。ステアリングジオメトリはよりタイトで高速向きになり、剛性が向上している。車両の公表装備重量は195kgで、非公式の乾燥重量は179kgであるという。
KYB製前後サスペンションはフルアジャスタブルで、ブレンボ製「スタイルマ」フロントブレーキキャリパーは大径320mmディスクと組み合わされている。リヤブレーキディスクは220mm径だ。また、YZF-R1から派生した多数のライディングモード、パワーモード、リーンセンシティブライダーエイドが6軸IMUとともにインストールされている。
ほかにも、新しいスイッチボックスや、専用アプリとの接続機能を備えた5インチのフルカラーディスプレイ、そして魅力的なミニマリストデザインのフロントフェイスや、一体型ウイングレットを備えたヤマハ史上最も空力的なボディワークなど、特色は数多い。





なお、YZF-R9のわずか1万2000ポンド強という価格は、サーキット専用のYZF-R6(1万3000ポンド)やドゥカティ パニガーレV2 S(1万6995ポンド)よりも安価だが、ホンダ CBR600RR(1万529ポンド)やカワサキ ニンジャZX-6R(1万1399ポンド)よりも高価だ。
急遽会場となったセビリアサーキットでの試乗日、私はウサギを待つグレイハウンドのように早くコースに出たいと感じていた。路面コンディションは完璧ではなくハーフウェット。そのため、ヤマハは標準装着タイヤのブリヂストン バトラックス ハイパースポーツRS11(*)のままでYZF-R9を走らせることを選択した。
*編集部註:ヨーロッパ仕様。北米仕様はブリヂストン バトラックス ハイパースポーツS22が標準装備される。日本仕様はRS11を装備する模様。
ヨーロッパでは、メーカーがサーキット向けタイヤに換装せず公道向けタイヤを履いたままの車両をレーストラックで試乗させることは滅多にないことだ。だが、スタンドの上でタイヤウォーマーを装着され、トラックが乾くのを待っているYZF-R9は確かに「Rモデルらしさ」をまとっていた。ナンバープレートとミラーが取り外された姿はレーシングバイクさながらのオーラを放ち、ヤマハによるコストダウンの痕跡は見当たらない。
830mmというシート高はYZF-R7(835mm)よりも低く、ライディングポジションはYZF-R6ほど過激ではないとヤマハは主張しているが、容量14リットルの燃料タンクはなじみ深い形状で、非常にYZF-R6に似た感じだ。今回の試乗会ではフットペグの位置とシフトパターンは指定できるとのことだったので、私はペグは上の位置、シフトパターンはレーシングシフトを選択した。



5インチTFTディスプレイはすっきりしたレイアウトで、トラックモードを含む複数のテーマから表示パターンを選択可能。スイッチボックスは好き嫌いが分かれそうなインジケータースイッチを備えた、ほかのヤマハ最新モデルと同じもので、クルーズコントロールが標準装備されている。
さらに、インジケーターにオートキャンセラーが備わっていることや、シート下にはUSBタイプCソケットまで用意されているという事実は、喜ぶべきことであろう。イギリスからこの会場まで何日もかけて移動してきて、頭の中がこれから行うサーキットテストでいっぱいだった私にとっては、YZF-R9に似つかわしくない装備と思えたのもまた真実だが……。
標準ではレース向けのABS設定はなく、ヤマハはこの試乗会ではABSを完全にキャンセルした(通常は完全キャンセルはできない)。走行モードは、各種設定がプリセットされたスポーツ、ストリート、レインと、各種設定を任意に調整可能なカスタム1・2、トラック1・2・3・4から選択できる。今回の試乗では、ヤマハが天候とセビリアサーキットに合わせて事前に設定したトラックモードを使用した。これは、路面グリップが低かったため、トラクションコントロールの介入度も含めて標準のスポーツモードに似た設定であった。


【サーキット激走編】に続く
ヤマハ YZF-R9(ヨーロッパ仕様)主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクル並列3気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:78.0mm×62.0mm 総排気量:888cc 圧縮比:11.5 最高出力:87.5kW<119ps>/10,000rpm 最大トルク:93Nm(9.5kgm)/7,000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2070mm 全幅:705mm 全高:1180mm ホイールベース:1420mm シート高:830mm タイヤサイズ:F120/70ZR17 R180/55ZR17 車両重量:195kg 燃料タンク容量:14L
[車体色]
アイコンブルー、テックブラック









レポート●アダム・チャイルド 写真●アントプロダクション/ヤマハ まとめ●モーターサイクリスト編集部
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