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「今のバイクは重い」というのは本当なのか
20世紀からモーターサイクルに乗っていたベテランライダー、はたまた昭和生まれのリターンライダー諸兄は、最新モデルのカタログ・諸元表を見て「昔のバイクはこんなに重くなかった」と感じているのではないだろうか。
実際、最近のモーターサイクルの車両重量欄を見ると、かつての同等モデルより20~30kg重くなっていることは珍しくない。400ccクラスの2気筒モデルでも車両重量は190kgを超えていたりする(例:ホンダCBR400R=192kg)のを見ると、「昔のナナハン並みだなあ」などと感じてしまうのも事実だ。



果たして、いまどきのモーターサイクルが重くなっているというのは本当なのだろうか。
機械的にシンプルだったキャブの時代より重くなっているのは間違いない。いまやABSは原付二種でも義務化されている(2021年10月以降の全モデル)。そのほか排ガス規制をクリアするためのセンサーや触媒など重量増の要素は多い。スーパースポーツやアドベンチャー系ではIMU(慣性計測装置)を用いた姿勢制御も当たりまえとなっており、そうした制御に必要な配線なども突き詰めればkg単位での重量増につながってしまう。
しかし「そうやってエレキばかり使っているから最近のバイクは重いのよ」と、したり顔をするのは早計だ。じつは、20世紀のカタログでは乾燥重量で表示することがスタンダードだったが、今は「装備重量」で車両重量を表示することが標準となっているのだ。
乾燥重量、装備重量とはそれぞれなにか
乾燥重量というのは、ガソリン、エンジンオイル、冷却水、バッテリー液、ブレーキフルード、ダンパーオイルなどなど油脂類をはじめとしたあらゆる液体を抜いた重量を示す。簡単にいえば組み上げる部品の総重量といってもいい。
一方で、装備重量というのはそうした液体をすべて満たした状態で測ったものとなる。たとえばガソリンの比重は0.72~0.76だから、10Lタンクのモデルであればガソリンだけで7.2~7.6kgは重くなることになる。エンジンオイルの比重は0.82~0.95あたり、冷却水はほぼ水と考えれば比重は1.0となる。こうして足していけば、あっという間に20~30kgになってしまうことは明白だ。
乾燥重量と装備重量とは、それほど異なるものなのだ。
ただし、最新モデルの重量増がすべて乾燥重量と装備重量の差で説明できるというわけではない。
たとえば、ホンダCB400SFの1999年発表時のスペックを見ると、乾燥重量168kg、装備重量188kgとなっている。それがCB400SFの2017年モデルではABS付きで装備重量201kgまで成長している。前述のように排ガス規制と安全装備が重量増につながっている部分は確かな話でもあるのだ。


国産メーカーが装備重量にしたのは2008年6月のこと
さて、国産メーカーが二輪の車両重量について装備重量でカタログに記載するようになったのが、いつ頃なのかご存知だろうか。それは2008年6月のこと。前述のように20~30kgも軽くみえる乾燥重量では、そのまま走行することはできないし、実態に見合わず不親切だったことから、実情に即した装備重量に変更されたのだ。
それ以降は、国産モデルのカタログには乾燥重量の記載が消えていった。
乾燥重量から装備重量に変わったことを知らずに、車両重量という欄を見て、かつてと比べてしまうことで「最近のバイクは重い」という風潮が広がっている面も否めない。
ベテランライダーだけでなく、かつて乾燥重量という基準があったことを知らない若いライダーも古いモデルのカタログスペックを見て、「こんなに軽かったのか」と勘違いしているかもしれない。
海外モデルでは車重の表し方が異なることも
なお日本メーカーの装備重量というのは基本的にガソリン満タン時の重さを示しているが、海外ではガソリン50%で計測しているケースもあったりするなど、海外メーカーや日本メーカーの海外モデルなどでは日本の二輪業界でスタンダードとなっている装備重量の測り方とは微妙に異なるケースもある。
カタログスペックを比較する場合は、このあたりも気をつけたい。海外モデルのほうが軽量だからといって、実際に軽くなっているとは限らないのだ。
また、装備重量でいうところの「ガソリン満タン」というのはメーカーが推奨する上限まで入れているということだ。そのラインを超えてギリギリまで入れれば、多少は重くなることもあるだろう。装備重量だからと言ってマックスの重さを示しているというわけではなく、あくまで出荷状態での基準となる車重と理解すべきだ。
レポート●山本晋也 写真●ホンダ/八重洲出版 編集●モーサイ編集部・中牟田歩実